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第14話 『閲覧禁止』

夜。


消灯時間を過ぎていた。


学生寮の窓から見える研究棟は今日も静かだった。


高い壁。


無機質な外観。


まるで巨大な墓標。


灯真はしばらく見つめる。


兄。


黒髪の少女。


異常粒子。


全てがあそこへ繋がっている気がした。


だが。


今向かうべき場所は別だった。


学園記録保管庫。


兄の痕跡が残る場所。


灯真は静かに立ち上がった。



翌日。


異常粒子事件の影響で授業は短縮されていた。


学園中が落ち着かない。


教師たちは忙しく動き回り。


生徒たちは噂話ばかりしている。


だが。


正式発表は何もない。


隠している。


誰もがそう感じていた。


「久瀬」


食堂で呼び止められる。


九条だった。


いつも通りの笑顔。


それが少しありがたかった。


「また徹夜しただろ」


灯真は苦笑する。


図星だった。


九条はトレーを置きながら言う。


「図書棟地下なら今日も開いてるぞ」


灯真は顔を上げる。


「本当にあるのか?」


「資料保管庫」


九条は頷く。


「卒業生の記録とか昔の大会データとか」


「普通は誰も行かないけどな」


そして少し笑う。


「兄貴が昔よく使ってた」


灯真は興味を持つ。


「どんな人なんだ?」


「ただの勉強好き」


九条は肩をすくめる。


「序列戦は弱かったらしい」


初めて聞く話だった。


九条にも兄がいる。


それだけで少し親近感が湧く。


その時。


「おすすめしません」


静かな声。


澪だった。


相変わらず突然現れる。


九条が苦笑する。


「怖いなぁ」


澪は無視した。


視線は灯真だけを見ている。


「資料保管庫へ行くつもりですか」


「ああ」


即答だった。


澪は数秒黙る。


そして。


「久瀬先輩の記録は残っています」


灯真の鼓動が跳ねる。


兄の記録。


やはり存在する。


「ただし」


澪は続ける。


「通常権限では閲覧できません」


そこまでだった。


理由も。


内容も。


教えない。


だが。


以前よりは良かった。


少なくとも。


何かが残っていることだけは分かった。


その時。


灯真は決意する。


待っていても始まらない。


自分で確かめる。


兄の過去を。



放課後。


図書棟地下。


学園資料保管庫。


重い金属扉が目の前にあった。


地下特有の冷たい空気。


人の気配はない。


静かすぎる。


灯真は認証端末へ学生証をかざす。


電子音。


そして。


赤い表示。


【権限不足】


予想通りだった。


だが。


その下に別の文字が表示される。


【閲覧禁止指定記録存在】


灯真の呼吸が止まる。


ある。


兄の記録は本当にある。


消されていない。


隠されているだけだ。


その瞬間。


観測者が反応する。


【検索対象一致】


【対象記録存在確率91%】


やはり間違いない。


兄はここにいる。


記録の中に。


その時だった。


足音。


静かな。


規則正しい足音。


灯真は振り返る。


白瀬蒼司。


序列七位。


測定不能。


無表情のまま歩いてくる。


「やっぱり来たか」


灯真は眉をひそめる。


「止めに来たのか」


白瀬は首を横に振る。


「違う」


短い返答。


そして。


認証端末を見る。


数秒。


沈黙。


「勘違いするな」


突然そう言った。


灯真は首を傾げる。


白瀬は続ける。


「俺も全部は知らない」


灯真の目が少し開く。


初めてだった。


白瀬が分からないと言ったのは。


「じゃあ何を知ってる」


「入口だけだ」


静かな声。


「奥は俺も入れない」


その言葉は本当だった。


少なくとも。


嘘には聞こえなかった。


白瀬はポケットから黒いカードを取り出す。


見たことのない認証カード。


だが。


その表面には複雑な紋章が刻まれている。


白瀬はそれを端末へかざした。


電子音。


緑色のランプ。


重い扉がゆっくり開き始める。


ギギギ……。


古い機械音。


暗闇の向こうに無数の棚が見える。


記録。


資料。


封印された過去。


そして。


入口正面の端末画面に一瞬だけ文字が映る。


灯真は目を見開いた。


【特別管理記録】


【久瀬蒼真】


【分類:A-17】


【閲覧禁止】


一瞬だった。


だが。


確かに見えた。


A-17。


知らない記号。


だが。


観測者が反応する。


【重要情報確認】


【A-17】


【優先調査対象へ登録】


灯真の鼓動が速くなる。


兄の記録。


そして。


A-17。


何かが始まる。


その予感だけがあった。


白瀬は暗闇の向こうを見つめながら言う。


「見るなら覚悟しろ」


灯真は拳を握る。


もう後戻りはできない。


兄の真実へ。


初めて手が届こうとしていた。


その時。


学園全域放送が鳴り響く。


突然だった。


【全生徒へ通達】


地下通路に機械音声が反響する。


【序列戦選抜試験を明日再開します】


灯真と白瀬が同時に顔を上げる。


【参加者は午前八時に第一競技場へ集合してください】


放送が終わる。


静寂。


序列戦。


再開。


兄の記録。


A-17。


そして序列戦。


全てが同時に動き始めていた。


白瀬は小さく呟く。


「時間切れだな」


灯真は開き始めた扉の奥を見つめる。


あと少し。


あと少しで。


真実に届くはずだった。


だが。


学園は待ってくれない。


序列戦が始まる。


怪物たちの戦いが。


そして灯真自身の戦いも。

読んでいただきありがとうございます。

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