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そのまま。  作者: こまこま
7章
50/52

7-6

「…うた」


真っ赤な瞳のまま

目を逸らさずに

しばらくわたしを見つめていた彼が

掠れた声で

名前を呼ぶ


「だから、昨日…」

“後悔、した事ないの?”

“わたしを探した事”


あのメールは

ここに繋がっていたのかと


「じゃあ」

“わかんない”、は?


見つめる視線に

次第に力が戻ってくる


“昴汰さんが後悔してるなら”

“今じゃなくても”

“そんな日が来たら”

わたしには、

…資格が、ない。



「…俺次第、か」


射抜くような強い視線が

突き刺さる

もう、逃げられないんだと

悟った


「俺の気持ち、知りたいって」


“…うた”


それは

何度も何度も呼ばれた名前

だけど

こんなにも


静かに

そして

圧倒的な強さ

押し潰されそうなほどの

威圧感


初めての感覚だった





「…俺が決めるのか」

“お前の価値も”

“意思も”

“過去も未来も”



「それに納得できてないのは」

“詩自身なのに”


“俺に委ねていいのか?”


…息が、止まった。





「…うた」


トーンが変わった


聞き慣れた

いつもの声


いつものように

頭に置かれる手

覗き込まれる

目尻の皺


「俺は…」


“自分を信じてる”


“俺がずっと大事にしてきた子の事も

信じてるで”


そう言ってぐしゃぐしゃと頭を撫でた








外は相変わらず雨が降っていた


力尽きた詩を

ベッドに寝かせて


詩の書いたメモを手に取る


迷いながら

力を込めながら

必死に伝えてくれた

気持ちが

ここにある


だらしなくソファに寝そべりながら

窓の外に目をやる


整理も

理解も

納得も


なにもできない


腕で目を覆えば


流れていく熱いものを

止められなかった






明け方。


(まただ…)

わかってる、自業自得だと

熱い息を吐きだす


(水飲みたい…)

サイドテーブルまで手が届かない

がっかりして、諦める


いつもなら

この辺りで手が伸びて来るのに


重い頭を動かして

身体を反転させると

ぐっすりと眠っている



整ったその顔を見つめていると

自然と浮かぶ昨日のやりとり


彼を傷つけた

混乱させて

きっと、苛立たせた

そして、悲しませた


“ごめんなさい”


起きてる時は

きっと受け取ってくれないから


声にならない声で

そっと置いておく



「今日はジャンキーなものにしよう」


彼がそう言って

夕食は

普段食べないあれこれを

注文して

ちょっと気まずい空気を

追い払った


食べたことのないスイーツに

いくつも挑戦して

残りはいつも通り

昴汰さんに押し付けて


そんなパーティーの余韻が

冷蔵庫に残ってる


それは、やっぱり

彼の思いやりだと、

胸が熱くなった



「俺がずっと大事にしてきた子」


うれしくて

何度も何度も心の中で

繰り返す


わたしは彼のように

自分を大事に

できるのかな


目を閉じて

1つ小さく息を吐きだす


“昴汰さん”


力の抜けた腕を少し引っ張る

ほんの少し身じろぎした後

そのまま腕の中に閉じ込められる

けど

目は開かないまま


(疲れてるよね…)


折れそうな心を

なんとか奮い起こして

その胸をトントンと叩く


「うた…?」

重い瞼がゆっくり開いて

わたしを捉える


「どないしてん」


慌ててあちこちと

確かめようとする手を

とどめて


“お水、飲みたい”


驚いたように一瞬動きを止めた後、

彼は、

嬉しそうに笑った。

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