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そのまま。  作者: こまこま
7章
49/52

7-5


朝。

(雨か…)

独特の静けさ

微かに聞こえてくる雨音


二度寝するには完璧だと

腕の中、丸まっている温もりを

抱え直した。



“ゆっくりしよう”の言葉通り

昼前にやっと起き出した時には

彼女の姿はもうなくて


寝室の先

リビングの窓際で見つける


少し開いた窓からは

湿り気のある風が

入ってきて

彼女の髪を揺らしていた


ぼんやりと外を見ている姿は

なぜか儚げに見えて


少し速まる足


後ろから近づくと

お腹に手を回す


「…はよ」


あつらえたかのように

すっぽりとはまる

このサイズ感は

お気に入りの一つで。


一瞬驚いたように固まった身体が

少し緩んだ後

くすぐったそうに肩を竦める姿に

気分も良くなる


「うたー 腹減った…」


まるで見えない耳が

ピンッと立ったかのように

背中が伸びた


振り返った顔は

外を眺めていた時とは

別人のようだった




「…うた、もしかして、」

“これがしんどいん?”


テーブルの上

一緒に選んだ作り置きたちを

彼が指差した時

息が、止まった


慌てて首を横に振る

けど

心の中まで見透かすような

その視線に耐えられなくて

逸らした所を

…捕まった。


“怒ってへん”“大丈夫や”

それでも

わたしの動きを、思いを、

見逃すまいと

力の入った視線は

強すぎて


「…おいで」

手を引かれた先

ソファの上

向かい合うように

座らされた。






居心地が悪そうに

視線をキョロキョロと動かして


目を離せば

すぐにでも逃げていきそうな


そんな落ち着きのなさに

少し気が緩む


膝の上、ぎゅっと握られた手を

上からそっと包む


「うた、大丈夫やて」


右手は頬に当てて


「怒ったりせえへん、約束や」


“うん…”


伺うような視線

その身体が

なぜだか

ひとまわり小さく見える


「…けど、ちゃんと教えて欲しい」

「俺は」

「お前が知らん所で泣いてるのはきつい」

「…話してくれるな?」



考えるように聞いていた

彼女の

徐々に固く結ばれていく唇

少しだけ動いた手が

俺の小指を

ぎゅっと握った



思い切ったように

大きく息を吐いて

置いてある用紙を手に取った



“わたしは”


息を呑むように

書き出した手元を見つめる


“昴汰さんの側にいていいのかな”



…たっぷり時間をかけて

出たのは


「はぁ…?」


「うわっ…違う、怒ってへん」

「まじで、意味がわからん」

「続き、あるやんな、な?」


そして彼女は、さっきの言葉に

“まだ”

と、付け足した。



“まだ昴汰さんの側にいていいのかな”



…思わず目を剥きそうだったのを

堪えただけでも

許してほしいと思った


“この前、昴汰さんは怒ったけど”


なんにもできなくて

迷惑かけて

心配させて

負担かけてるのは

本当だよ


詩の手に、

迷いがなくなる。



“わたしだってわかってる”

“ありがとうって、ほんとに思ってる”


一心不乱に書き殴っていた手が

ふと躊躇うように止まった


目を閉じて

深呼吸を1つして


“わたしがいなくても回るなら”


唇が固く結ばれる


“わたしは”

あなたの隣にいてもいいの?



「ちょ…待て待て待て」

「うた、お前…何言って…」


頭を抱えていた彼の


“なに、言って…る…”


顔が、歪んで

涙が、

溢れた。


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