7-2
俺がいない間
「ちゃんと考えて」
“俺の気持ち”
勝手に置いて
勝手に変換しないで
ぼんやりした頭の中
同じセリフが何度も繰り返される
その度に
溢れてくる涙を堪えられなくて
心も身体も、頭も
ぐちゃぐちゃで
どうにもならなかった
言われた事を考えたくても
考えをまとめたくても
頭が動き出せば
連動するかのように
涙が溢れて
自分がどこにいるかもわからない
まるでひとりぼっちで
放り出されたような
心細くて
寂しくて
表現しきれない感情に
潰されそうだった
ホテルの部屋。
スマホを触りながら
懐かしいやりとりを見返す
なんでもない会話
送りあった写真
(…どうしてるんやろ)
部屋で1人
膝を抱える彼女が浮かぶ
本当は
腕の中に閉じ込めて
痛みも不安も
彼女を苦しめるすべてから
遠ざけて
安心させてやりたいけど
天井を見上げ
はあ…っと大きく息を吐く
“泣いてないか”
“また、倒れてるんじゃないか”
心配で
画面の上
滑る指
「ちゃんと考えて」
そう言った後
固まったその表情
そして
不安気に揺れた瞳
きゅっと結ばれた唇
答えはいらない
ただ
俺が大切にしてる人を
彼女にも
大事に思ってほしい
いつのまにか
画面は黒く変わっていた
(のど、渇いた…)
ゆっくりと重い身体を動かす
ふらつく頭
おぼつかない足元
たった数歩の距離が遠い
情けなくて
悔しくて
口にしたペットボトルを
床に投げつけた
はずなのに。
力なく転がっていくだけの
それに
力が抜けて座り込む
こんな自分は嫌いだ、と
笑うしかなかった
「考えて」
それは枷のように
身体も思考も動かなくする
なにを考えればいいのか
どうしたらいいのか
わからなくて
“今のお前が、なんにもできてない、って、俺はそう思うてるんやと”
「お前は、そう感じてるんやな」
怒ってるようで
傷ついてるようで
だけど
(本当の事だもん…)
守るように抱える膝
(なんで怒るの…)
(なんで傷つくの…?)
喜んで、欲しかったのに…
その時、聞こえた通知音
見えたメッセージ
“詩、あんま泣くなよ”
止まっていた思考が
溢れた涙と一緒に動き出した
立ち上がって
冷蔵庫を開けて
中から食べられそうなものを選ぶ
綺麗に並んだそれは
彼が作ったものじゃない
だけど。
シャワーを浴びて
鏡を見れば
(ひどい顔…)
昨日、彼が出発してから
泣いてばっかりいた
その間に
いつのまにか明けていた朝
“心配するだろうな…”
「なんで泣いてん」
笑いながら
でも心配そうに眉を下げて
拭ってくれる大きな手
思い出して
また滲んでくる涙を拭いて
顔を上げる
今のわたしでは
シャワーを浴びるだけの事が
大仕事で。
(ちゃんと休もう…)
疲れた身体をベッドに沈めれば
横には広く開いた空間
起きてる事に気づかずに
わたしの頭の上を滑る指
そっと撫ぜられる頬
確認するように額に触れて
最後にはそのまま落とされる唇
もったいなくて
味わっていたくて
いつも目を閉じたままでいた
ふうっ、と小さく息を吐いて。
そのまま目を閉じた。




