6-7
「ただいま」
そう言い切らないうちに
パタパタと
玄関に飛び出してくる
「…おっと」
おもむろに捲り上げられるシャツ。
露わになった肌。
くっきりとついたボールの痕。
詩の眉が
きゅっと寄る。
「大丈夫やって」
頭にポンっと手を置きながら
試合、観てたんだ、と
口元が緩む。
その時
詩の指が、
痣のすぐ横をそっとなぞる。
触れるというより、
確かめるみたいに。
昂汰は一瞬だけ息を止めた。
打撲痕や傷なんて日常の事で
痛みはあっても
自然と受け入れるものだったのに
「これだけは何度見ても慣れない」
眉を寄せて、
痛そうに見つめる詩。
その顔を見るたび
なんだか少しくすぐったくて。
(……あぁ)
思わず笑いそうになる。
この顔。
この触れ方。
「痛いよね」って、
今にも怒りそうなその眉。
何度も見てきた。
当たり前すぎて、
ずっと続くと思っていた光景。
胸の奥で、
小さく何かがほどけた。
「うた」
その指を捕まえる
「メシ、なに?」
軽い調子で出した言葉に
一瞬、
詩の眉が下がった
「お、美味そ」
一緒にダイニングに向かえば
テーブルの上には
準備が整った夕食。
「詩は?」
いらない、と横に振られる首
「…ん、でもここにおって」
そう言えば
大人しく隣に座ってくれる。
“痣なんか、
そのうち消えるんやで”
そう伝えたら
どんな顔をするんだろう
「これ美味い」
その一言に
詩の指が少し止まる。
差し出された箸に
躊躇いながら口を開けば
満足そうな笑顔
“詩の味やんな”
詩は小さく頷く。
でも。
(……違う)
喉まで上がったその言葉は、
飲み込む。
美味しいと言ってくれている。
それは分かる。
分かるからこそ、
胸の奥が少しだけ苦しかった。
“作ってない”
とは言えなかった。
「あ、そうや」
不意にそう呟いて立ち上がると
小さな袋を手にして戻ってくる。
「新作なんやって」
“詩、好きやろ”
出てきたのはコンビニのスイーツ
「誰かさんがハレンチやから」
「忘れとったわ」
ニヤリと口角を上げながら
シャツをめくって見せる
その手を
パチンと叩いて
スイーツを受け取る
「ん、食べ」
穏やかな声色に、
笑顔が戻る
一口。
また一口。
大事そうに
幸せそうに
「俺にも一口」
思わず掛けた声に
鼻に皺を寄せて見せる詩
「…ひでぇ」
言葉とは裏腹に
溢れる笑顔
差し出されたスプーンを
躊躇うことなく受け入れる
「うん、美味いな」
その言葉に
ニコニコと幸せそうに
何度も頷いてみせて。
この顔が見たくて
必死になってるなんて
格好悪い事
絶対言わないけど
手を伸ばして
柔らかいその頬を
包み込む
目の下。
消えない隈をなぞるように、
親指がゆっくり動く。
詩の肩から、
ふっと力が抜ける。
小さく息がこぼれた。
(…あぁ)
この顔は。
詩自身も知らない。
この世界で
自分だけが知る
唯一無二だと
その手に力を込めた
「その顔」
「……俺のこと、大好きって顔」
「気ぃ抜いたとき、ようその顔すんねん」
「俺しか知らん顔」
「……やから、触ってまう」




