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そのまま。  作者: こまこま
4章
27/43

4-5

「襲うぞ」


軽い声。

冗談みたいな顔。


詩は一瞬だけ目を見開いて、

そのあと、くしゃっと笑う。


昂汰もつられて笑う。

「なんやねん、その反応」


詩は笑ったまま、

でも手は離さない。


そのまま、

ほんの少しだけ近づく。


昂汰の方が、先に気づく。


「……おい」


でも、止めない。


視線が落ちる。


詩は何も言えないまま、

ただそこにいる。


一瞬だけ、間。


昂汰が息を吐く。


「……あかんわ」


ぼそっと落とす。


次の瞬間、

手がそのまま引き寄せる。


詩の身体が近づく。


「充電や」


一瞬、驚いたように肩をすくめ、

すぐに力を抜く。


昂汰の呼吸が、

ほんの少しだけ近い。


「うた…」


小さく口にして


でも次の瞬間、

はっとしたみたいに少しだけ力を緩める。


「……ごめん」


離そうとする。


でも、

詩の指が、

服を掴む。


止まる。


沈黙。


昂汰が小さく息を吐く。


「……ずるいわ」


今度は静かな声。


そのまま、

今度はさっきより少しだけ優しく、

もう一度引き寄せる。


昂汰の腕の中で、詩は少しだけ息を吸う


(……もっと)


言葉にはならない。

でも、身体の方が先に伝えてる。


もう少しだけ近くにいたい、って。


昂汰の動きが止まる。


「……おい」


小さく声が落ちる。

でも、離れない。


昂汰の胸元に、額が触れる。


それだけで、

胸の奥がふっと緩む。


(これでいい)


昂汰が息を吐く。


「……ほんまにさ」


「煽んなって…」


でも、そのまま腕は緩まない。


むしろ少しだけ、位置を変える。

詩が楽になるように。

詩は小さく目を閉じる。


昂汰の服を掴む手が、

ほんの少しだけ強くなる。


「……しゃーないな」


小さく呟いて、

今度はちゃんと抱きしめ直す。


強く。

息が止まる。


さっきの冗談はもう遠い。


昂汰は小さく息を吐く。


「うた…」


腕の中、小さく頷く


「つたわってる…?」


何度も上下する頭に

軽く唇を落として


腕の力を少し緩めると、

詩の体重が、少しだけ預けられる。


それを受け止めたまま

昂汰は動かない。


一度だけ、大きく息を吐く。


「……はぁ」


それはため息というより、

力の抜ける音に近い。


(……あかん)


心のどこかで、

小さく声が聞こえる。


昂汰はもう一度、息を吐く。


「……ほんま」

小さく呟く。

「離れにくいな」


その言葉は、

冗談みたいな軽さで出る。

でも、腕は緩まない。


「まぁええか」


小さく、いつもの声。


結局、

離れないまま時間が流れる。

詩の呼吸が、完全に落ち着く。


昂汰の腕の中で、

そのまま動かなくなる。


「……」


最初は気づかない。

ただ静かだな、くらい。

でも、ふと違和感が来る。


「……おい」


小さく呼ぶ。

返事はない。


少しだけ体をずらす。

顔を覗く。


「おい、うた」


目が、閉じている。

呼吸は、落ち着いている。


(……え)


一拍。


「……まじか」


思わず声が出る。


さっきまで、

しがみついて泣いてて、

触ってきてて、

笑ってたやつが。


そのまま寝てる。


昂汰はしばらく動かない。


腕の中の重さを、もう一回確かめるみたいに。


(寝たんか…)


もう一度見る。

ちゃんと寝てる。


そこでようやく、繋がる。


(安心したんか…)


昂汰は小さく息を吐く。


「……そら疲れるわな」


ぽつりと落とす。

少しだけ、困った顔になる。


(頑張ってたんやな)


今さら、ゆっくり来る実感。

昂汰は腕を少しだけ緩める。

でも離さない。

一度だけ周りを見る。


「……しゃーないな」


小さく呟いて、


腕の中の体重を、少しだけ持ち上げる。


驚くほど軽い。


そのまま、ゆっくりソファまで歩く。


揺らさないように。


起こさないように。


慎重に。


腰を下ろす。


詩の体はそのまま、

昂汰の上に預けられたまま。


膝の上。

呼吸だけが、静かに伝わる。


「……ほんま」


小さく息を吐く。


手のひらが、

背中を一度だけ撫でる。


起きない。

完全に、寝てる。


「……寝すぎやろ」


小さく笑う。

でも、

降ろそうとはしない。


少し体勢を直して、

詩が楽になる位置にずらす。


それだけ。


(まぁええか)


呟くみたいに落として、

そのまま背もたれに体を預ける。


膝の上の重さごと、

受け止めるみたいに。


呼吸のリズムに合わせて、

無意識に背中を撫でていた。






朝。


カーテンの隙間から、少しだけ光が入る。


昂汰は、ゆっくり目を開ける。


(……重い)


ぼんやりしたまま視線を落とす。


膝の上。

そのままの体勢で、詩が寝ている。


「……まじか」


小さく呟く。

腕、まだ回したまま。

自分もほぼ動かず寝てたらしい。


軽く肩を回そうとして、

やめる。


起きる気配がない。


(どんだけ寝んねん)


小さく息を吐く。


でも、

そのままにしておく。


少しして、

詩のまぶたが、ゆっくり動く。


目が開く。


一瞬、ぼんやりして——

状況を理解するまで、数秒。


視線が上がる。

昂汰と、ぶつかる。

沈黙。


「……」


「……」


昂汰が先に目を逸らす。


「……おはよ」


ぶっきらぼう。

詩は、まだ少しだけぼんやりしたまま。

でも、

ゆっくり口元が緩む。


(……まだいる)


その安心が、そのまま顔に出る。

昂汰はそれ見て、

少しだけ困った顔をする。


「いや、重いねんけど」


そう言いながら、

降ろそうとする。


でも、

詩の指が、また服を掴む。

止まる。


「……おい」


半分呆れた声。


でも、

引き剥がさない。


詩は小さく笑う。

声は出ないまま。


昂汰はそれ見て、

ふっと息を吐く。


「……しゃーないな」


もう一回言う。


今度は完全に諦めたやつ。


手のひらで、頭を軽く押さえる。


「もうちょいだけな」


詩は、素直に頷く。

そのまま、また少しだけ目を閉じる。

昂汰は天井を見上げる。


(……まぁええか)


またそれが落ちる。


今度は、

ちゃんと“続いていく”方の意味で。



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