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そのまま。  作者: こまこま
3章
19/45

3-6

夜中。

「……熱、出てきたな」


額に触れた手が止まる。

さっきまでとは違う体温。呼吸も、少し浅い。


「……うた」


返事はない。

ただ、指先だけが、弱く動く。


「……ごめん」


ぽつりと落ちる声。

眠っているだけなのに、

それすら怖い。



医者は

恐らく軽い発作を起こしたのだろうと言った。

消耗が激しくて、戻るのに少し時間がかかるだろう、とも。


「……俺が外、出たからや」


呼吸が浅い。


「もうええ」


低く落ちる声。

「ここにおればええ」






身体が、重い。

熱が、引かない。


「……うた」


呼ばれる声が、

近い。


近い、けど——

うまく、焦点が合わない。


「水、飲むか」


小さく頷く。

冷たい。

ゆっくり、

流れ込んでくる。



「……ええよ、そのまま」


低い声。

背中に、

手。


支えられている。


(……らく)


それだけ、

思う。


自分で、

姿勢を保っている感じがしない。


全部、

預けている。


「しんどいな」


頷く。


それだけで、

分かってもらえる。


「寝とき」


そのまま、

ゆっくりと横にされる。

シーツの感触。


手が、

離れない。


額に、

なにかが触れる。


ひんやりして、

気持ちいい。


それ以上は、

考えられない。


「……大丈夫や」


何度も、

同じ声。


繰り返される。

そのたびに、

少しだけ、安心する。



そこにいる、ってことだけ、

分かる。


瞼が、

ゆっくり落ちる。






ぼんやりとした時間が、

何度か過ぎた気がする。


昼なのか、

夜なのか、


よく分からないまま。


目を覚まして、

また眠って。


その繰り返し。


「……起きた?」


目を開けると必ずそこにいてくれる


中々抜けない息苦しさを

なんとか逃したくて

浅い息を繰り返す


「しんどいな」

額に当てられる手の冷たさが気持ちよくて、目を閉じる


側にいてくれる

なによりそれが落ち着かせてくれた


「起きれそうか」


小さく、

頷く。


それを見て、

すぐに、

背中に手が回る。


ゆっくりと、

身体を起こされる。


力を入れなくても、

いいみたいに。


(……らく)


全部、

任せてる。


「ほら」


口元に、

コップ。


自然に、

口を開ける。


少しずつ、

流し込まれる水。


飲み終わると、

すぐに離れる。


でも、

手は離れない。


「まだ、だるいな」


頷く。


それで、

伝わる。


「そらそうや」


小さく、

息が落ちる。


そのまま、

少しだけ、

距離が近づく。


額に、

触れる。


「…少し下がってきとる」


安心したみたいな声。


それを、

ぼんやり聞きながら。


(……ずっと、いる)


ふと、

そんなことを思う。


でも、

深くは考えられない。


そのまま、

ベッドに戻される。


シーツの上。


手が、

離れない。


指先が、

軽く触れる。


それだけで、

少し、

落ち着く。


(……あったかい)


ぼんやりと、

そう思う。


「寝とき」


小さな声。

目を閉じる。


意識が、

ゆっくり沈んでいく。


その間も——


手は、

ずっとそこにあった。






(静か…)

ぼんやりとした感覚が少しずつ戻ってくる。


いないの…?


いつもそこにいた気配がない


時計の音がやけに大きく聞こえる。


指先が無意識に動く。


でも、辿り着かない。


どこ…?


不安で落ち着かなくて


身体を起こそうとしたのに

動かない


(そっか…)

あの手があったから


無理かな…

弱気になる心を抑えて

なんとか起き上がると

視界がグルグルと回った


…ッ


何かにつかまろうと伸ばした手は

空を切って


腕についている管の先が

ガチャンッと音を立てた


「うたっ…⁈」


物音に驚いて飛び込んできた彼が

駆け寄ってくる


「どうしたん…?」

覗き込みながら

視線で、感触で様子を確かめる


「ごめん、側におらんかった」

自分を責めるように

わたしを宥めるように

そっと引き寄せる


「自分で起きれたんやな」

よかったなぁ、と背中をさする掌にホッとして

大きく息を吐く


「びっくりしたなぁ…」

小さな声が震えていた事に

気が付かなかった



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