3-5
「……ここや」
その声が、
遠くなる。
さっきまで、
必死に繋いでいたはずの意識が、
ふっと、
軽くなる。
(……だいじょうぶ、かも)
そう思った瞬間、
力が、抜けた。
「……うた?」
呼ばれる声。
でも、
返せない。
視界が、
暗く落ちる。
身体の重さが、
急に消えるみたいに——
そのまま、
意識が、途切れた。
⸻
「……っと、うた、おいっ」
崩れ落ちる身体を、
しっかりと受け止める。
ただ
ゆっくり、静かに
身体を横たえる。
乱れた呼吸を見ながら、
背後に
駆けつけてくれた看護師達の気配を感じる。
黙って見守っていてくれたことに、
信じてくれてたのか、と少し安堵し
視線を合わせた
「やっちゃいました…」
笑おうとして、失敗している顔だった
「油断、してました」
このまま少しずつ手を離すべきだと
それが彼女の願いだ、と。
目を、離してしまった
「いえ」
落ちていく気持ちを切るかように
声が響く
「今回はこちらの手落ちです」
「警備を強化するよう強く伝えます」
その厳しかった表情が
ほんの少し和らいで
「また見に来ますね」
詩の方に向けられた視線は
とても優しかった
「……ごめん、」
ぽつりと落ちる声。
指先が、
そっと髪に触れる。
いつもより、
ずっと静かに。
「ごめんな…」
どれくらい経ったのか、
分からない。
ゆっくりと、
意識が戻る。
最初に感じたのは——
温もりだった。
手。
包まれている感覚。
(……あ)
知ってる。
安心する温度。
重たい瞼を、
少しだけ開く。
ぼやけた視界の中で、
すぐ近くに、
その顔がある。
「……起きた?」
低くて、
やわらかい声。
無理に覗き込まない。
ただ、
そこにいるだけの距離。
言葉は、
出ない。
でも——
指が、
ほんの少しだけ動く。
それに、
すぐ気づく。
「ん」
「…よかった」
なんだか少し、頼りない声。
そのまま、親指が、
ゆっくりと手の甲をなぞる。
一定のリズム。
呼吸に合わせるみたいに。
「……しんどかったな」
確認するような、
やさしい声。
こくん、と
わずかに動く首。
それで、
十分だった。
「ん」
小さく笑う気配。
そのまま、
手を離さない。
何も急かさない。
ただ、
隣にいる。
静かな時間が、
ゆっくり流れる。
さっきまでの恐怖が、
少しずつほどけていくみたいに。
でも——
扉の向こうに、
さっきの気配が、まだ残っている気がした。




