表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第二期完結/第三期8/25開始!】『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第二期【恋人編】第四章 「玄曜の過去と、本当の天命」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/111

第一話 「七歳の離脱」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

演奏会の翌朝。流星は倉庫へ向かっていた。


「おはよう!」


倉庫へ入った途端、入口近くに置かれた

鏡台の龍霊雨器・照妍しょうげんが声を上げた。


“あら! 星鈴!”


「昨日はありがとう!」


流星の声が倉庫に響く。

それと同時に、眠っていた龍霊雨器達が次々と目を覚まし始めた。

風もないのに、倉庫の空気がふわりと揺れる。


“昨日はすごかったみたいね〜!”


“他の女達に見せつけたんでしょう?”


あちこちから声が飛んでくる。


「うん! 頑張った!」


流星も笑顔で答えた。


“やるじゃない!”


“私達の玄曜を手に入れたいなら、それくらいしないとね”


「私達の玄曜……」


その言葉に、流星はこの前のことを思い出した。

天鳳瑞奏てんほうずいそうが言っていた言葉。


――倉庫の龍霊雨器達が、玄曜を育てた。


「あのさ」


流星は倉庫を見渡した。


「天鳳瑞奏から聞いたんだ。

玄曜は、倉庫のみんなが育てたって」


すると、あちこちから声が上がる。


“あら、知らなかったの?”


“そうよ〜”


“小さい頃からね”


“私達が色々教え込んだの!”


“最初は大変だったわよねぇ”


“そうそう! 泣き虫だったからな!”


「そうなの!?」


流星は思わず声を上げた。

玄曜が泣き虫。全く想像できない。


龍霊雨器達は楽しそうに身体を揺らす。


“私達、元々は玄曜の宮殿にいたのよ”


“でも玄曜が宮殿を出ていった時、一緒について来たの!”


“そうそう!”


“面白そうだから他の家の子達も誘ったんだよ!”


“あの時は大騒ぎだったわ〜!”


“人間達は大変だったみたいだけど!”


倉庫中で笑い声が響く。

まるで悪戯が成功した子供達みたいだった。


流星も思わず笑う。

けれど――。


「玄曜は……いつからここにいるの?」


その瞬間。倉庫が静まり返った。

先ほどまで賑やかだった空気が、嘘みたいに止まる。


「……みんな?」


流星が戸惑う。


すると。


“星鈴”


静かな声が響いた。


“大事なことは、自分で聞きなさいな”


“そうそう”


“玄曜は聞かないと、自分から話さないから”


流星は少しだけ視線を落とした。


「オレが聞いたら……教えてくれるかな」


再び沈黙が落ちた。

そして。

倉庫のどこかで、誰かが小さく囁いた。


“あなた以外に、誰が聞けるの?”



 夕方、離れに玄曜が帰ってきた。


「おかえり」


「ただいま」


玄曜は食卓を一瞥すると、一瞬だけ動きを止めた。


食卓の上には、海老と卵のとろみかんが並んでいる。

前にも作ったことがある。

玄曜の母親が最後に作った、思い出の料理だ。


玄曜は静かにオレへ目を向けた。


「玄曜の事が知りたい」


オレは意を決して言った。


「わかった。何が知りたいんだ?」


意外なほどあっさりと玄曜は答えた。


「玄曜って……なんで次期皇帝候補なのにここにいるの?

なんで文官をしてるの?」


玄曜はしばらくオレを見つめたあと、静かに席へ着いた。

まずは腹ごしらえかららしい。


夕食を一通り食べ終えると、茶を一口飲み、

玄曜はようやく口を開いた。


「オレの父親は現皇帝の嫡男だ」


「オレが七歳の時に父親が病死して、母親が後宮を

追われて出ていくことになったのは知ってるな?」


「うん」


オレも箸を動かしながら頷く。


「母親が出ていった後、宮廷内でオレを巡る争いが起こった」


「オレは身分の低い下女が生んだ子供だ。だが、現皇帝側唯一の男児で、

龍霊雨器を従える能力と天命を持っている」


「血統が全てだと主張する反皇帝派と、

現皇帝派で宮廷は完全に分断された」


「現皇帝派の中でも、今度はオレを正統な

次期皇帝とするために争いが始まった」


「しばらくは自分の宮殿にいたが……面倒になってな」


玄曜は漬物を口へ放り込む。


「自分で皇族離脱宣言をして出てきた」


「えぇ……!?七歳で!?」


思わず声が漏れた。

玄曜は気にする様子もない。


「この離れと倉庫は父上が母上へ与えたものだ。

小さい時にオレも何度か来たことがあった」


「だから宮殿を出る時に、ちょうどいいと思ってここに住むことにした」


なんてことない顔で言う。


「オレが出ていく際に、父上の配下だった龍霊雨器達を

連れていくことにしたんだが……」


そこで玄曜は茶を飲んだ。


「反皇帝派、現皇帝派関係なく、他の権力者達の龍霊雨器もオレについてきてな」


「宮廷内の権力図が変わるぐらい大混乱になった」


「えぇ!?」


「龍霊雨器の所有は権力の証だ。この国で、オレ以上に

龍霊雨器を従えている人間はいない」

さらりと言う。


「おかげで」


玄曜は茶杯を差し出した。

おかわりらしい。オレは黙って茶を注ぐ。


「反皇帝派はオレを排除できず、追い出すこともできなくなった」


「お互い関わらないまま過ごしていたが、オレが十六歳になった時、

形式だけの顔合わせが行われた」


「その宴で、オレは二胡を演奏することになったんだが――」


その話は聞いたことがある。


「玄曜が演奏するはずだった二胡を隠された時のこと?」


「そうだ」


「玄曜は代わりに笛子を演奏したけど、文句を言った人達がいて、

天鳳瑞奏てんほうずいそう龍吟天響りゅうぎんてんきょうが怒ったって聞いた」


「怒った……そうだな」


玄曜は少し意地悪そうに笑った。


「皇族を放棄した外れ者が何をしに来た、と文句を言う奴らがいてな。それを聞いた、天鳳瑞奏と龍吟天響がブチギレた」


「あの二人が怒った途端、後宮中が揺れて雷が落ちた」


「ええっ!?あの二人そんな力もあるの!?」


「文句を言っていた官僚が座っていた席は粉々になって、

官僚達は泡を吹いて倒れた」


玄曜は楽しそうに言う。


「そいつらは立場を失い、そいつらの家の

龍霊雨器は全部オレの配下になった」


「――結果、家も潰れた」


「怖っっ!!」

思わず背筋が寒くなる。


「やりすぎなんじゃ……」


「自業自得だ」


玄曜はそう言って、ご飯をおかわりし、三杯目へ突入した。


「その一件以来、反皇帝派も現皇帝派も

オレには極力関わらなくなった」


「今では皇族の中では、存在しない者扱いだ」


「はあ……」


オレは呆然と頷く。


「だから好きにさせてもらうことにして――文官最高位になった」

玄曜は綺麗に食べ終えると箸を置いた。

 

「ええっ!?」


「以上だ」

茶をくれ、と茶杯を差し出す。


話が急展開すぎる。

しかもこんな大事な話を、のんびりご飯を食べながらしている。

文官最高位ってそんな簡単になれるものなのか……。

いや、玄曜ならなれそうだけど。


「じゃあ玄曜は……七歳の頃からずっとここにいるの?」


「そうだ」


「一人で?」


「だいたいはな。必要な時には慎言が来ている」


七歳から――。


オレが七歳の頃なんて毎日遊んでいた。

いたずらして父さんに怒られて。

母さんに泣きついて。

何も考えずに、当たり前みたいに楽しく過ごしていた。


でも玄曜は――。


どれだけのことがあったんだろう。

悲しいことも。

傷つくことも。


きっと沢山あったはずだ。


「一人で……寂しくなかったの?」


オレは玄曜を見つめて聞いた。


「忘れた」


玄曜はぶっきらぼうに答える。


もう過去のことなんだろう。

でも――。


「今は?今は寂しくない?」


玄曜は怪訝そうな顔をした。


「お前がいるのに、寂しいわけないだろ」


ぶっきらぼうな声だった。

だけど、その言葉は真っ直ぐ胸に届く。


「曜、胡桃のお菓子作ったから食べる?」


「食べる」


即答だった。


オレは立ち上がり、厨房へ向かう。

厨房の奥で、玄曜に見えないよう両手で顔を覆った。


静かに息を吐く。


オレがいるから、もう――寂しくないんだ。

七歳からずっと一人だった玄曜が。

そう思うと胸の奥がぎゅっと痛くなる。

それなのに、すごく嬉しかった。


やっぱりオレ、玄曜の事めちゃくちゃ好きだ。

パッと顔を上げ、緩みそうになる顔を慌てて引き締める。


玄曜が喜ぶ菓子を作っておいて良かった。

オレは棚の奥から、とっておきの琥珀胡桃

(砕いた胡桃を蜜で固めた菓子)を取り出した。


——今日は、たくさん食べさせてやろう。

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。


もし物語を楽しんでいただけましたら、評価で応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ