第二話 「龍の神の子」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
大広場での式典を皮切りに、龍雨祭の準備が本格的に始まった。
普段見慣れている後宮も、龍雨祭用の飾り付けで
風景がガラリと変わる。
美しい金の装飾、花飾り、紅い絹で彩られた
後宮内は――まるで別の国。
別の世界に迷い込んだみたいだった。
玄曜が言うには、月末には龍雨祭最大の式典
――奉納の儀が行われるらしい。
龍の国で最も大切で神聖な儀式。
その式典では、特別な舞が披露されるという。
それに向けて、後宮内では毎日のように行事や式典が催されていた。
厳かな空気に包まれ、人々は慌ただしく準備を進めている。
式典用に普段眠っている龍霊雨器達も次々と目を覚ましていた。
――なのに。
あの広場の騒動以来、龍霊雨器によるトラブルはぴたりと止んでいた。
まるで嵐の前の静けさのように――。
*
「おはよー! 流星!!」
倉庫を掃除していると、突然阿燐が現れて抱きついてきた。
「阿燐!?」
「遊びに来たよっ!」
くふふ、と楽しそうに笑いながら、オレの胸へぎゅっとしがみつく。
くうー!
相変わらず可愛いが溢れているなぁ!
阿燐は倉庫を見渡し、腰に下げた短い杖をくるりと振った。
カタン。
倉庫の奥で音が鳴り、大きな箱がふわりと浮かび上がる。
箱が開くと、中には建築明器が綺麗に並べられていた。
墓へ副葬品として納められる陶器などで
作られた建物の模型だ。
住居。
馬小屋。
井戸。
かまど。
食卓。
阿燐は「どうしようかな〜」と呟きながら、それらを並べていく。
そして。
「でーきた!」
満足そうに両手を広げた。
「流星! 行こっ!」
「えっ!? どこに!?」
阿燐はオレの手を掴む。
その瞬間、辺りに星が煌めき――。
眩しさに思わず目を閉じた。
*
ゆっくり目を開ける。
「どこ、ここ!?」
そこには、小さな村が広がっていた。
のどかな景色。
風に揺れる草花。
「建築明器の中だよ!」
どうやら、先ほどの建築明器で作られた村の中らしい。
阿燐が手招きする。
オレが後を追うと、村の中央には食卓が置かれていた。
食卓の上には茶と色とりどりの甘味。
阿燐に促されて席へ着くと、自然に茶杯へ
茶が注がれ、目の前へ運ばれてくる。
「食べよー!」
阿燐は満面の笑みで向かいに座り、早速甘味を頬張った。
……自由すぎる。
せっかくなので、一つ摘んでみた。
「うまっ!」
オレが言うと、
阿燐はくふふ、と嬉しそうに笑った。
「阿燐は今日はお役目ないの?」
「あるよっ!」
即答だった。
「あるけど、流星に会いたくなったから来ちゃった!」
それは……大丈夫なの?
阿燐って本当に自由すぎる。
でも、こうして二人きりになるのは初めてだ。
「阿燐ってさ、どれぐらい生きてるの?」
オレは疑問に思っていたことを聞いてみた。
「うーん」
阿燐は少し考えてから答えた。
「千二百年ぐらいかなぁ」
「せっ!?」
予想以上の数字に思わず声が裏返る。
「あっ! でもずっと起きてるわけじゃないよ?お役目の時だけ起きる感じ!」
そう言いながら、椅子に座ったまま足をぱたぱたさせる。
「お役目って、この前みたいに龍霊雨器を作ること?」
「そう!」
阿燐は杖を取り出し、くるりと回した。
短い杖は一瞬で長杖へ姿を変える。
散りばめられた宝玉が、しゃらん、と揺れた。
「ボクのお役目は龍霊雨器を作って均衡を保つこと!」
杖の先で星が煌めく。
光は雨のようにゆっくり降り注ぎ、静かに消えていった。
思わず見惚れてしまうほど神秘的だった。
「均衡?」
「そう!」
阿燐は元気よく頷く。
「時代が変わると龍霊雨器も減るんだ!
争いとかで壊されちゃうから」
「強い龍霊雨器が消えると均衡が崩れる。
だから新しく作って調整してるの!」
なるほど。
だから阿燐は龍霊雨器を生み出していたのか。
「今回は玄曜が強いのを二体も消したから大変!」
阿燐は杖をぶんぶん振り回しながら言った。
「二体?」
「饕血と幻世絵巻!」
嗜血凶剣――血喰いの饕血。
万景繋縁幻世絵巻。
あの恐ろしい能力を持った龍霊雨器達だ。
「玄曜のヤツ!勝手に能力使ってさー!」
阿燐はぷうっと頬を膨らませる。
「本当にやめてほしい!」
怒った顔も可愛い。
玄曜相手に遠慮のない言い方に、思わず笑ってしまった。
「ねえ」
不意に阿燐が表情を変えた。
「お父様は出せないの?」
「え?」
「うーん……どうだろう」
目を閉じて意識を集中する。
「眠ってるみたい。天星様が起きてる時は
頭の中で話せるんだけど……外へ出るのは
天星様次第なのかも」
「ふーん……」
阿燐はじっとオレを見つめた。
大きな天青色の瞳。
真っ直ぐ射抜くような視線。
「まだ……それぐらいなんだ」
そう言って、阿燐はくすりと微笑んだ。
その表情に――オレは思わず胸が跳ねた。
(阿燐って……急に妖艶な雰囲気になるんだよな)
「ねぇ、流星って玄曜のどこがいいの?」
「えっ!?」
突然話を振られ、流星は肩を跳ねさせた。
「アイツ、絶対めんどくさいのに!」
めんどくさい――。
確かに。
否定はできない。
「玄曜といるより、ボクの方がずっと流星の助けになるよ」
阿燐の瞳が、一瞬だけ黄金色に輝いた。
「ボクと同じ場所なら、ずっと一緒にいられるよ。
時間もなくならないし」
ぽかぽかと暖かな風が吹き抜ける。
のどかな村の景色。
甘い菓子の香り。穏やかな空気。
なのに、どこか得体の知れない気配が流星を包み込んでいた。
「ずっと一緒は……無理だよ」
流星はゆっくり答えた。
「どうして?」
阿燐は不思議そうに首を傾げる。
「だって、ご飯作らないといけないから」
「え?」
「今日、水餃子なんだ」
流星は真面目な顔で続ける。
「皮から作るから、そろそろ帰らないと」
「水……餃子……?」
その時だった。
ゴォォォン――!!
雷鳴のような轟音が空から響き、天井に大きな亀裂が走った。
「うわっ!?」
嫌な予感しかしない。
こんな無茶苦茶なことをする奴は一人しかいない。
「あーあ! もう来た!」
阿燐は呆れたように笑うと、流星へ抱きついた。
同時に周囲へ星が煌めく。
眩しさに思わず目を閉じた。
*
再び目を開く。
そこはいつもの倉庫だった。
そして――。
「おい……」
目の前には、見るからに機嫌の悪い玄曜が立っていた。
「離れろ」
腕を組み、阿燐を見下ろす。
「ふーんだ!」
阿燐は流星へさらにしがみついた。
「流星は玄曜だけのものじゃないからなっ!
絶対にボクがもらうもんね!」
阿燐は一歩も引かない。
玄曜も睨む。
阿燐も睨み返す。
完全に子供の喧嘩だ。
「ふんっ!」
阿燐は流星から離れて、杖を振った。
「流星っ! またね!」
しゃらららら〜!という効果音と共に、阿燐は姿を消した。
後に残ったのは、不機嫌な玄曜と流星だけだった。
「何を話していた」
玄曜がぶっきらぼうに聞く。
「阿燐のお役目の話とか」
「それだけか」
「それだけ」
玄曜はまだ不満そうだ。
完全に拗ねている。やれやれ。
「帰ろう」
流星は笑った。
「今日は海老入りの水餃子だぞ」
ぴくり。
玄曜の眉が反応する。
「つるつるの水餃子に、白家伝統の
ピリ辛タレがよく合うんだよな〜」
流星はそう言いながら玄曜の手を引いた。
それだけで、あっという間に機嫌が直っていく。
確かに玄曜はめんどくさい。
でもな、阿燐。
コイツは単純で素直なんだ。
――オレ限定だけど。
*
承天殿。
その中央にある天極之間の祭壇。
「ただいまー!」
星の煌めきと共に、阿燐が降り立った。
“また勝手に出て行って”
“職務はどうした”
天印と執命が声をかける。
「終わらせて来た!流星にも会ってきた!」
“そうか”
“父上の器は息災か?”
「うん!」
阿燐は嬉しそうに頷く。
「あれだと、まだまだ全然だ!」
そう言うと、離れの方向へ視線を向けた。
「早くお父様に会いたいなぁ……」
ぽつりと呟く。
そして少しだけ頬を膨らませた。
「なんで玄曜みたいなのがいいんだろう!
絶対めんどくさいのに……!」
その瞬間。
遠く離れた離れの食卓で。
玄曜の眉が、ぴくりと動いた。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。
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