第七話 「取れるものなら、取ってみろ」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
龍雨祭に向けた一般開放の式典の日がやってきた。
後宮内はいつも以上に賑やかで、活気に満ちている。
普段は贅沢を控えている身分の低い下女や宮女たちにも、
夕方からは特別に酒やご馳走が振る舞われる。
人々はみな浮き足立ち、式典を楽しみに忙しく働く。
広場での騒動は――
あっという間に後宮中へ広まっていた。
行き交う女性たちは噂話に花を咲かせる。
星鈴が下女の嫉妬に襲われたらしい。
龍霊雨器にも囚われたそうよ。
恐ろしいわ。
可哀想に。
いい気味だわ。
もう人前には出られないんじゃない?
後宮を追い出されるらしいわよ。
それなら好都合ね。
――どれが本当で、どれが嘘なのか。
話は好き勝手に姿を変え、広がり続けていた。
*
「やっぱり女の子って怖いなぁ……」
離れの隣にある倉庫で、流星は虎福ちゃんを抱き上げた。
すうーっと顔を埋める。
“ご主人〜!”
“今日はとっても綺麗な、お衣装です〜!”
虎福ちゃんが嬉しそうに身体を揺らした。
「ありがとう、虎福ちゃん」
今日の衣装は式典用に用意された特別なものだった。
瑠璃色の衣。
そこへ金糸で龍の刺繍が施されている。
“玄曜様も同じ衣装なんですか?”
「そうみたい!」
玄曜は式典の管理や指揮で忙しく、朝から会えていない。
姿を見るのは舞台の上になるだろう。
玄曜の式典衣姿。絶対に格好いい。
そう思うだけで少し顔が熱くなった。
“今日はどんな髪型にしましょうか!”
“紅は今流行りの色が良いかしら!”
“髪飾りも目立つものを選ばなくては!”
流星の周囲では、
鏡台の龍霊雨器・照妍。
化粧道具の龍霊雨器・彩。
櫛の龍霊雨器・和縁。
倉庫の化粧道具三人組が大騒ぎしていた。
「あのさ……」
星鈴は意を決して口を開く。
「今日は髪型も変えなくていいし、化粧もしなくて大丈夫」
三体がぴたりと止まる。
「星鈴だってわかるようにしたいんだ」
静かな声だった。
「玄曜の隣に立ちたい」
「これからも――。
これから先も、玄曜の隣に立ち続けるために」
「だから今日は、このままでいい」
三体は黙って流星を見つめた。
しばらく沈黙が続く。
そして――
“それなら余計に!”
“髪も肌も念入りに!”
“お手入れしなくてはダメです!!”
「えっ!?」
流星の肩が跳ねた。
“自然な化粧ほど難しいのですよ!”
“肌は瑞々しく!圧倒的な透明感で!”
“髪は絹より艶やかに!”
「いや、そのままでも――」
“何言ってますの!!?”
“見せつけるんでしょう!?”
“真っ直ぐ前を向いて!!”
「は、はい!」
怖い。気迫が怖い。
流星は大人しくされるがままになった。
そして。
念入りに髪を整えられ。肌を磨かれ。
気がつけば――
自分でも驚くほどの。
自然で清楚な美少女がそこにいた。
“ご主人〜!”
“うるうるのツヤツヤです〜!”
虎福ちゃんが流星の周りを飛び回る。
「ふふっ。ありがとう」
流星は虎福ちゃんをそっと袖へしまった。
そろそろ広場へ向かわなくてはいけない。
扉へ向かう、その時だった。
“星鈴”
倉庫中の龍霊雨器たちが流星を見ていた。
“私達の玄曜をお願いね”
流星は少しだけ目を見開く。
そして。
真っ直ぐ頷いた。
「わかった!」
*
日が沈み、辺りは夜の帳に包まれていた。
空には雲ひとつない。
満月と満天の星だけが、静かに地上を照らしている。
式典最後の演奏。
黒檀金銀花鳥風月琴――天鳳瑞奏。
黒檀雲文螺鈿細工二胡――龍吟天響。
龍霊雨器の中でも別格と呼ばれる二体の演奏とあって、
広場は人で埋め尽くされていた。
「ぎょえー!! 人すごい!」
流星は思わず声を上げる。
街の祭りの日だって、こんな人数は見たことがない。
“ふふふ……最高の夜ねぇ”
天鳳瑞奏が艶やかに囁いた。
広場の拝殿には舞台が設けられ、その後方には、
桃雲双境両面図――双境が堂々と飾られていた。
そして。
舞台へ、一人の青年が姿を現す。
漆黒の文官衣ではない、艶やかな式典衣。
龍吟天響を手にした玄曜だった。
月明かりと松明の光を受け、瑠璃色の衣が夜空のように映える。
金糸で縫われた龍が、光を反射して神々しく輝き、
まるで優雅に舞っているようだった。
その圧倒的な存在感。
広場の空気を、一瞬で支配した。
広場中から感嘆の声が上がった。
その空気の中。
天鳳瑞奏と共に、顔を袖で隠した星鈴が舞台へ上がる。
玄曜の隣へ並び。静かに顔を上げた。
広場中がどよめく。
――なぜ星鈴が。
あちこちから囁き声が聞こえる。
けれど。
もう星鈴には届かなかった。
星鈴の中には。
流星の中には。
玄曜しかいないのだから。
静かに天鳳瑞奏の前へ座る。
“ねえ、星鈴ちゃん”
「ん?」
“玄曜様が選ばれたのが貴方で良かったわ”
その言葉と共に。
星鈴の身体が淡く輝き、瞳が黄金色へ染まった。
天鳳瑞奏に導かれるように指先が弦へ触れる。
その瞬間、美しい旋律が広場へ流れ出した。
龍の神より与えられた、天上の音色。
それに続くように。
玄曜が龍吟天響を奏でる。
時が止まったような静寂の中、
天鳳瑞奏と龍吟天響の音だけが夜空へ広がっていく。
誰も声を出さない。誰も動かない。
観衆は息をすることすら忘れ、その音色に聴き入っていた。
――やがて。
演奏が終わると、静寂を破るように、大歓声が湧き上がった。
星鈴は玄曜を見る。
玄曜も星鈴を見ていた。
その天青色の瞳には、誇らしさが滲んでいた。
玄曜が小さく笑う。
「よくやった」
そう言って手を差し出す。
「うん」
星鈴も笑った。そして、その手を取る。
見つめ合う二人へ、さらに大きな歓声が降り注いだ。
星鈴は客席を見渡す。
顔見知りの文官。
武官。
下女。
宮女。
みんなが見ている。
――もう隠したりしない。
常に前を向いて。堂々と。
どんな相手が来ても、オレは負けない。
だから――
取れるものなら、取ってみろ。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。
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