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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第二期【恋人編】第三章 「嫉妬と噂と、恋人の証明」

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第六話 「曜の隣に立ちたい」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

 双境そうきょうの暴走事件の翌日。

人々は式典の準備で忙しく動き回っていた。

荒れていた広場は、まるで何事もなかったかのように元へ戻り、

完璧なまでに飾り付けられた。


明日は広場で行われる一般式典。

朝から舞や演舞が披露され、その日は身分や

立場関係なく観覧が許される。


オレと玄曜は式典の最後に、天鳳瑞奏てんおうずいそう龍吟天響りゅうぎんてんきょうによる

演奏へ参加することになっている。


――なのだが。


「あの……玄曜?」


「なんだ」


「そんなにくっつかなくても……」


昨日の双境の件から責任を感じているのか。

玄曜は朝からずっと星鈴に張り付いていた。


「何か問題でもあるのか?」


「いや、問題とかじゃなくてさ……」


今も星鈴を膝に乗せたまま椅子に座り、のんびり茶を飲んでいる。

しかも片腕は腰に回され、逃げられないようになっていた。


“やぁ〜だぁ〜!玄曜ちゃんったらぁ〜!”


“付き合ってるってガチだったんだ!”


琴の龍霊雨器・天鳳瑞奏と、二胡の龍霊雨器・龍吟天響が

身体を揺らしながら囃し立てる。

気心の知れた二体の前だからか、玄曜も遠慮がない。

今度は両腕で星鈴の腰を抱き込み、さらに距離を詰めた。


……抵抗するだけ無駄だな。やれやれ。

オレは早々に諦めた。


桃雲双境両面図とううんそうきょうりょうめんずのこと聞いたわよぉ〜。大変だったわねぇ”


“星鈴たんもマジでお疲れじゃん。明日大丈夫?”


「もう大丈夫! 怪我も消えたからさ」


“それならいいけどぉ〜”

天鳳瑞奏は意味深に笑う。


“私たちが一般式典に出るの、百年ぶりなのよぉ”


“めっちゃ人来て、めっちゃ見られるけど?星鈴たんは、いいの?”


「えっ!?」


オレは思わず声を上げた。


「前の月下聴弦会より?」


「当たり前だ」


玄曜がぶっきらぼうに答える。


「あの広場は埋まるだろうな」


「ええーっ!?」


あんな広い広場が。


演奏者が自分たちだということは、まだ公表されていない。

それでも天鳳瑞奏と龍吟天響は、後宮でも特別な龍霊雨器だ。

めったに一般公開はされないため、話題になるとは思っていたが――。


広場が埋まるということは、それだけ大勢の人間に

見られるということだった。


“怖いならぁ〜。やめてもいいのよぉ?”

天鳳瑞奏が静かに言う。


流星は少しだけ目を伏せた。

昨日のことが頭をよぎる。


噂。


嫉妬。


向けられた悪意。


それでも。流星は腰に回された玄曜の手に、

自分の手を重ねた。


「……大丈夫」


そして顔を上げる。


「やめない」


はっきりと言い切った。


“へえぇ”


“いいじゃん”


二体の空気が変わる。

どこか試すようだった視線が消えた。


“じゃあ私たちもぉ〜”


“ガチでやってあげるわ”


「お前達は、ほどほどにしろよ」


玄曜が星鈴を膝から下ろし、二胡の龍吟天響を手に取った。

ようやく練習をする気になったらしい。

演奏用の衣ではなく、いつもの文官衣。

それなのに、龍吟天響を構えただけで絵になっていた。


玄曜が静かに弦を弾く。

深く澄んだ音色が、楽器保管庫いっぱいに広がった。


「わあ……」

星鈴は思わず息を呑む。


演奏会の時は隣に並んでいた。

こうして真正面から演奏を見たのは初めてだった。

軽く奏でているだけなのに。

身体の奥が震える。


「綺麗……」


本当に。

玄曜は綺麗だと思った。


“いいわねぇ……”


天鳳瑞奏もうっとりと聴き入っている。


“玄曜ちゃんは六芸全部できるけどぉ〜。

『楽』を教え込んで本当に良かったわぁ”


「六芸?」


星鈴が首を傾げる。


“礼・楽・射・御・書・数。

教養として身につける六つの技芸よぉ”


「そんなに沢山できるんだ……」


優秀だとは思っていた。

でも、改めて聞くとすごい。

きっと幼い頃から、沢山のことを学んできたのだろう。

オレなんて料理ぐらいしかできないのに。


“本当にいい男になったわねぇ……”


天鳳瑞奏は感慨深そうに呟いた。


“倉庫の龍霊雨器達もやるじゃない。

こんなにも私達に相応しい人間に育てたんだから”


「倉庫の龍霊雨器達が……育てた?」


思わず声が漏れる。

玄曜には聞こえていない。


“ふふふ……今度、倉庫の子達に聞いてみて”


そう言って天鳳瑞奏は意味深に笑った。


やがて音が止む。練習は終わったみたいだ。


「すごい良かった!!」


オレは勢いよく拍手をする。


“あー!マジでアガるわー!玄曜たん!

明日よろしくねー!”


龍吟天響が楽しそうに身体を揺らした。


“星鈴ちゃんも頑張ったらぁ〜。

夜は楽しいことになるんじゃないのぉ?”


天鳳瑞奏が妖艶に笑う。


「ふえっ!?」


星鈴の肩が跳ねた。


前回の演奏会の後の……夜のことを思い出し、

思わず身体の奥が熱くなる。


「必要ない」


玄曜は即答した。


「余計なことはするな」


きっぱりと釘を刺す。


“いいのぉ?あ〜んなことや、こ〜んなこともできるのにぃ?”


天鳳瑞奏が囁く。


「……」


おい、玄曜。

何で目を閉じる。

腕を組むな。

考えるな。

何を想像してるんだ。



 夜。離れの庭先で、流星と玄曜は月を見上げていた。

中秋月も終わり、あたりには少しずつ秋の気配が漂い始めている。

静かで穏やかな時間だった。


風が吹くと、少し肌寒い夜風が頬を撫で、髪を揺らした。


「良かったのか?」


ふいに玄曜が口を開く。


「何が?」


流星が振り返る。


「明日の式典だ」


玄曜は月を見たまま続けた。


「嫌なら出なくてもいい」


静かな声だった。

流星を心配している。

守ろうとしている。

きっとそうなのだろう。


その不器用な優しさに、胸の奥がじんわりと温かくなる。


「大丈夫」


流星は小さく首を横に振った。


「嫌じゃない」


月を見上げる。

少しだけ考えてから、静かに続けた。


「ちゃんと隣に立ちたい」


玄曜が流星を見る。


「曜の隣に」


玄曜は優しく目を細めた。


「わかった」


短い返事。

だけど、それだけで十分だった。


「明日、頑張ろっと!」


流星が笑う。


「そうだな」


そっと手を重ねる。

二人はしばらくの間、同じ月を見上げていた。

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。


もし物語を楽しんでいただけましたら、評価で応援いただけると励みになります。

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