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【第二期完結/第三期8/25開始!】『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第二期【恋人編】第三章 「嫉妬と噂と、恋人の証明」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

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第五話 「誰にも負けない」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

「流星!!」


「流星、聞こえる!?」


玄曜と阿燐ありんは同時に叫んだ。


“ぐっ……うぅ……”


双境そうきょうの苦しげな声が響く。


“こんな事になるとは……”


「双境!」

玄曜が鋭く呼びかける。


“抑えては……おりますが……!そう長くは持ちません……!”


「お前の領域なかに入る」


そう言うなり、玄曜は双境へ手を伸ばした。

触れた瞬間――

刺繍の景色がぐにゃりと歪む。


朝霧と夕陽の雲海の境界が裂けるように開き、

深淵の狭間が現れた。


玄曜と阿燐は躊躇なく飛び込む。

暗闇に飲み込まれた次の瞬間。


玄曜の前には朝霧に包まれた渓谷。

阿燐の前には夕陽に染まる渓谷。

それぞれ、双境の表と裏の世界だった。


“玄曜様……!”


双境の声が響く。


“私の両面に縫い付けられた糸を解いてください……!”


玄曜は辺りを見回した。


刺繍の景色のあちこちに、紅い糸が不自然に縫い込まれている。


「あれか」


両面刺繍は

二本の針。

二本の糸。

二人の刺繍師。

表と裏から同時に糸を返し合いながら、

一枚の作品を作り上げる。


だから――

解く時も同じだ。

表と裏。二人の刺繍師が、糸を返さなければならない。


「おい」


玄曜が向こう側の阿燐へ声を飛ばす。


「できるんだろうな」


ゆっくりと、腰の剣を抜いた。


「何その言い方ー!」


阿燐は頬を膨らませながら杖を構えた。


「誰に言ってるの!?玄曜こそ足手まといにならないでよね!」


阿燐は、勢いよく杖を振る。


ガンッ!

双境を叩くと、刺繍全体が震えた。

縫い付けられた紅い糸の先端が、蛇のように

しなりながら浮かび上がる。


「いっくよー!!」


阿燐が糸を弾く。糸は刺繍面を貫き、

反対側の玄曜へ一直線に飛んでいく。


「……!」


玄曜は剣で受ける。


カンッ!

今度は阿燐へ返す。


「玄曜!真っ直ぐ返せって!」


「返してんだろーが!!」


「ヘタクソ!!」


「うるせぇ!!」


怒鳴り合いながらも。

二人の動きに迷いはなかった。

糸は次々と解けていく。


「協力するのは流星のためだからねー!」


「お前が流星って呼ぶな!!」


「知らなーい!!」


“すごい……”


双境が呆然と呟く。


“完全に相手の動きに合わせている……”


“息ぴったりで……仲がよろしいのですね”


「よくねぇ!!」


「よくない!!」


声が重なった。


“ひえぇ……”


最後の糸がほどける。

ぱちん、と音を立てて紅糸が消えた。


「双境!」


玄曜が叫ぶ。


「流星は出せるのか!?」


双境はしばらく沈黙した。

そして申し訳なさそうに答える。


“……糸に縛られております。中の糸は……

ご本人に切っていただかなくては……”


「えええぇぇぇっ!?」

阿燐の悲鳴が渓谷中に響き渡った。



真っ暗な闇の中――

狭間の中に、流星はいた。


「ぐっ……うぅ……!」


苦しい。身じろぎするたび、首に巻きついた糸が締まる。


あの子さえいなければ。


玄曜様は私のものなのに。


糸から流れ込んでくるのは、強烈な嫉妬の記憶。

どろどろとした感情が胸の奥へ染み込んでくる。


「……わかるよ」


流星は苦しげに呟いた。


玄曜は本当に格好いい。


顔も。


身体も。


身分も。


立場も。


存在自体、何もかもが特別だ。


そばにいるだけで舞い上がってしまう。

好きになるのも。

欲しいと思うのも。


全部わかる。


「でも――」


流星は目を閉じた。


玄曜が本当に好きな相手に贈るなら、

赤い色なんて選ばない。


玄曜が本当に好きな相手なら、誰にも見せたくなくて、

自分だけの離れに閉じ込めようとする。


そんなことも知らない人たちに。


「……オレは負けない」


薄れゆく意識の中。

流星は首に巻きつく糸へ手を伸ばした。


「オレは女の子じゃない」


「男だって隠さなきゃいけないし」


「敵わないことだって沢山ある」


指先が糸を掴む。

鋭い糸が肌へ食い込み、血が滲んだ。

それでも離さない。


「――でも」


流星は力いっぱい糸を引く。


「玄曜を好きな気持ちだけは!!」


糸が震えた。大きくうねり、さらに流星を

締め上げようとする。


痛みに顔を歪めながら。

それでも流星は叫んだ。


「誰にも!!」


「負け!!ない!!」


ブチッ――!!


糸が切れる。

そして一斉に。

悲鳴のような叫び声が響き渡った。


“――狭間の糸が切れました!!”


双境の声が領域全体へ響く。


“来ます!!”


次の瞬間。


解き放たれた糸が鞭のようにしなり、表側へ襲いかかった。


「――阿燐!!」


玄曜が剣で弾く。


「――玄曜!!」


阿燐が杖で返す。


表と裏。呼吸を合わせ。

乱れることなく。二人は糸を弾き返していく。

幾重にも縫い込まれた紅い糸が、次々と解かれていく。


そして――


最後の一本がほどけた瞬間、

刺繍の狭間が大きく開いた。


その中から。流星の身体が投げ出された。


「流星!!」


「流星!!」


玄曜と阿燐が同時に叫ぶ。

玄曜は落ちてくる流星を抱き止めた。


「流星……!」


「げほっ!」


流星は苦しそうに咳き込みながら顔を上げる。


そして。


「……女の子……怖いよぉ……」


半泣きのまま呟いた。



 双境から出た後は大忙しだった。

暴走の影響で広場はめちゃくちゃだ。


敷き詰められていた紅い布は吹き飛び。

花の飾りは散らばり。金細工の装飾もあちこちで倒れている。

玄曜は文官や武官へ次々と指示を飛ばしていた。


その間も――ずっと流星を抱えたまま。


広場が元の状態に戻るまで。

玄曜は一度も流星を降ろそうとしなかった。

流星も疲れ果てていて、「降ろして」と言う

気力すら残っていない。


「流星、大丈夫?」


阿燐がそっと声をかける。


「……大丈夫」


流星は顔を上げた。


「阿燐はなんでそんな隅っこにいるの?」


見ると阿燐は拝殿の柱の陰に隠れている。


「ボク、あまり人に見られちゃいけない存在だから。

ほら、ボクって可愛いでしょ」


「確かに」

流星は素直に頷く。


こんな神秘的で可愛い子が現れたら、

後宮中が大騒ぎになるだろう。


「用が済んだなら、さっさと帰れ」

玄曜は、外面文官モードのまま、爽やかな笑顔で言った。


「ふんっ!」

阿燐は頬を膨らませる。

杖をひと振りすると、頭上で星が煌めいた。


「助けてくれてありがとう。阿燐」


流星が小声で囁く。


すると阿燐は嬉しそうに笑った。


「くふふっ! 流星、またね!」


シャラララ――

星の光と共に、阿燐の姿は消えた。


辺りに静寂が戻る。


「怪我は大丈夫なのか?」


玄曜が静かに尋ねた。今度は素の口調だった。


「大丈夫」


流星は自分の首に触れる。


「外に出たら消えてたし」


首に残っていた締め跡も。指先の傷も。

双境の領域から出た時には綺麗になくなっていた。


「だけど……疲れた」


締め付けられた苦しさ。

胸の奥へ流れ込んできた嫉妬。

あの気持ち悪さだけは、まだ身体に残っている。


「悪かった」

玄曜がぽつりと呟いた。


「ん?」


「双境の暴走は嫉妬が原因だ」

玄曜は広場を見渡した。


「この後宮が嫉妬で溢れていることくらい、わかっていた」


「それなのに防げなかった」


流星は少しだけ目を丸くした。

そして首を横に振る。


「大丈夫。玄曜のせいじゃない」


玄曜は何も言わない。

流星は小さく息を吐いた。


「……こんなんじゃ負けないよ」


静かな声だった。だけど確かな強さがあった。


「やっぱり隠したり、誤魔化したりはやめる」


「オレにしかできない戦い方で、勝たないと」


肩についていた紅い糸の切れ端を摘まみ、そして指先で弾いた。

糸は風に乗り、ひらりと空へ舞い上がっていった。


※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。


もし物語を楽しんでいただけましたら、評価で応援いただけると励みになります。

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