第二話 「実家と、祭りの夜と、お揃いの物」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
「まあ〜! 玄曜さん!」
家の戸を開けた瞬間、母さんの声が響いた。
「お父さん! 玄曜さんが来たわよ〜!」
「玄曜お兄様!! いらっしゃい!」
「お久しぶりです」
玄曜が爽やかに微笑む。
すると母さんと星蘭は、きゃああ〜!と顔を輝かせた。
そして――
オレを完全に無視して、玄曜の両脇を挟みながら
家の中へ連れて行く。
実の息子より歓迎されている……。やれやれ。
「玄曜君!」
居間では父さんが囲碁盤を抱えて待ち構えていた。
「囲碁はどうだ? できるかな?」
「はい。嗜む程度ですが」
「そうかそうか!」
父さんは満面の笑みを浮かべた。
「どれ、ならば私が教えてあげよう! 近所では負け知らずだからな!」
玄曜……絶対に嗜む程度じゃないだろ。
父さんは意気揚々と対局を始めた。
――が。
勝負事に一切手を抜かない男、玄曜。
結果、父さんは一回も勝てなかった。
そりゃそうだ。
「玄曜君!! もう一局! もう一局だけ!」
「わかりました」
「今度こそ勝つ!」
そんな二人を、オレは微笑ましく見守った。
*
「流星、今日泊まっていく?」
母さんが剥いた柿を差し出しながら聞いてきた。
「え? 夕方には帰るつもりだけど」
「あら〜! 勿体ない!」
母さんは目を丸くした。
「今日はお祭りで夜まで露店が出てるのよ〜?
獅子舞も見られるし!」
「夜のお祭りなんて最高じゃない!
お父さんと初めて出かけた時を思い出すわ〜」
母さんはうっとりと目を細める。
「でも玄曜、明日仕事だし」
オレがそう言うと、
「問題ない」
囲碁盤の前から声が返ってきた。
「え?」
「泊まる」
玄曜は、そう言って投了した。
「まあ〜!」
「やったぁ!」
母さんと星蘭の歓声が響いた。
「玄曜さん!柿!柿食べる〜?」
「はい。いただきます」
玄曜は静かに立ち上がると食卓についた。
父さんだけが盤面を見つめながら、
「……待て。今の手は反則じゃないか?」
と、現実逃避していた。
*
日が暮れ、街は無数の灯籠に照らされて赤く染まっていた。
祭りの熱気はさらに増している。
あちこちで歌や舞が披露され、人々は音楽に合わせて踊っていた。
通りの両側には露店が並び、菓子や土産物で溢れている。
「見て! 曜!」
流星はふと足を止めた。
そこには色鮮やかな飾りを並べた露店。
虎、鳥、金魚。梅や牡丹。
様々な石を削って作られた小さな細工物だった。
「どうしようかな〜」
流星はしばらく悩み、
やがて二つの飾りを手に取った。
「これにしよう!」
「こっちがオレで」
「こっちが曜!」
流星は白玉で作られた小さな龍の飾りを
玄曜へ差し出した。
「曜はオレに対の龍霊雨器をくれただろ?」
「だからオレも、対の物をあげたかったんだ!」
流星は嬉しそうに笑う。
その手には黒玉で作られた同じ龍の飾り。
簡素な紐で結ばれた小さな土産物だった。
高価な玉ではない。精巧な細工でもない。
素朴な、どこにでもあるような飾りだ。
玄曜は幼い頃から数え切れないほどの宝を与えられてきた。
それに比べれば、ただの石に過ぎない。
それでも――
これほど嬉しい贈り物はなかった。
「わかった」
玄曜は小さな龍にそっと触れる。
「大切にする」
その言葉に、流星は嬉しそうに顔を綻ばせた。
その笑顔を見た瞬間。
玄曜の胸の奥で、独占欲が疼く。
オレのものだ。誰にも渡したくない。
どこかへ閉じ込めてしまいたい。
――だが、それは無理だろう。
この自由な流れ星は、簡単に捕まるような存在ではない。
玄曜は小さく息を吐き、
逃がさないように、流星の手を握り直した。
*
二人は街の広場へやって来た。
中央では色鮮やかな獅子舞が舞い、
観客たちから歓声が上がっている。
周囲は老若男女で溢れ返っていた。
「こんなに遅くまでやってるんだな」
玄曜が獅子舞を見つめながら呟く。
流星は笑った。
「普段は夜更かしすると怒られるけど!
祭りの日は特別なんだ!」
銅鑼や太鼓の音が鳴り響く。
人混みの中、二人は自然と身体を寄せ合った。
その時。
「おっと!」
繋いだ手の下を小さな男の子が駆け抜けていく。
「父さん!」
すぐ近くで父親が手を振った。
「ほら、こっちだ!」
男は子供を抱き上げ、肩車をしてやる。
「懐かしいなあ」
流星は思わず笑う。
「オレも父さんによく肩車してもらって獅子舞見てたんだ」
そこまで言って、ふと口を閉じた。
玄曜は太鼓の音に紛れて聞こえていない。
流星は横顔を見る。
玄曜にも――
こんな思い出はあったのだろうか。
父親。
母親。
兄弟や、親族は?
流星は玄曜について知っている事を思い返した。
父は病で亡くなった。
その後、母は後宮を去った。
祖父は皇帝。
知っているのは、それくらいだ。
皇族なのに、なぜ文官をしているのか。
どうして離れで暮らしているのか。
本当は何も知らない。
灯籠の灯りに照らされた横顔を見つめる。
穏やかな顔。優しい横顔。
オレは――
玄曜の事をまだ何も知らない。
聞いてもいいのだろうか。
家族の事。皇族としての玄曜の事。
聞いたら、教えてくれるのだろうか。
流星は繋いだ手に、そっと力を込めた。
*
白家へ戻った頃には、すっかり夜も更けていた。
「玄曜……寝られるか?」
流星は自室に二人分の布団を敷く。
離れの寝台とはかけ離れた、床に直接敷いた布団。
お坊ちゃんの玄曜は、寝れないんじゃ……。
「玄曜だけでも、今からでも宿に――」
「いや」
玄曜は即答した。
「ここがいい」
そう言うと躊躇なく横になり、数分後には眠っていた。
相変わらず寝付きがいい。
流星も隣に横になる。
すると。
後ろから腕が回された。
ぎゅっと。
離さないように。逃がさないように。
「曜?」
返事はない。
規則正しい寝息だけが聞こえる。
どうやら寝ながら無意識に抱き寄せているらしい。
流星は思わず笑った。
「おやすみ、曜」
小さく呟く。
「今日、楽しかったな」
玄曜から見て、こんな庶民の暮らしはどう映ったのだろう。
後悔していないだろうか。
オレみたいなのと付き合う事を。
もし後悔していたら――
(……嫌だなぁ)
眠気の中でそんな事を考える。
やっぱり。住む世界が違いすぎるのかなぁ。
……それでも。
温かな腕の中で、流星はゆっくりと目を閉じた。
*
翌朝。
無断外泊した主君のせいで、慎言だけが胃を痛めていた。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。
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