第七話 「中秋月と、母の味」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
賑やかな周家の厨房。
包丁の龍霊雨器、玉衡切と星鈴は
並んで月餅を作っていた。
今日は中秋月だ。
“お嬢ちゃんの月餅は黒胡麻餡なのか?”
「そう! おばあちゃんに教えてもらったんです!
白家伝統の味!」
型は周家の物だが、中身は代々白家に伝わる
伝統の黒胡麻餡月餅だ。
オレは一つ手に取ると、さっそく味見した。
おばあちゃんや、母さんの作る味にはまだ遠いけど、
だいぶ近づいてきた気がする。
「玄曜様が食べてた月餅はどんなものなんですか?」
今日は、玄曜が食べていた月餅を知りたくて、玉衡切に尋ねたのだけれど――。
“玄曜坊ちゃんは小さい時は宮殿にいたからなぁ。
豪華なものは食べていたが……”
玉衡切は言葉を濁した。
やっぱり玄曜の小さい頃は、いい思い出ばかりではないみたいだ。
“玄曜坊ちゃんは、一度だけ母上が作られた月餅を
食べた事があってな”
“小倉餡の中に胡桃が入っているやつだ”
「へぇ! 美味しそう!!」
“玄曜坊ちゃんにとっては、それが月餅の味なんだろうな”
同じ味は難しくても……なんとか作れないものか。
オレと玉衡切は色々試行錯誤を繰り返した。
玄曜の事だから甘さは控えめで。
胡桃は細かく砕くより、歯応えを感じるぐらいで――。
「よし! 出来た!」
気づくともう昼過ぎだ。
「そろそろ戻って夕食の支度をしないと!」
“今日は玄曜坊ちゃんには何を作るんだ?”
「今日は中秋月だからご馳走! 栗と鶏の炊き込みご飯、
海老と銀杏の炒め物! あと蒸し魚!」
“そうか。今日はいい鴨が入ったんだ。
八宝鴨を作ったから持って行きな”
「えー! 鴨!? 食べた事ない!」
「ありがとうございます!」
星鈴は弾けるような笑顔で礼を言った。
包んでもらった八宝鴨。
二種類の月餅。
それらを大事に抱えて、何度もお礼を言いながら周家を後にした。
“良かったなぁ。玄曜坊ちゃん……”
玉衡切は満足そうに呟いた。
*
夕食後。
オレと玄曜は離れの庭に出て、月を眺めていた。
「今日さ。玉衡切さんと月餅作ったんだ」
オレは小さな竹籠を取り出した。
「こっちが白家の黒胡麻餡で……」
「こっちが、小倉餡に胡桃が入ってるやつ」
「曜のお母さんが作ってたって聞いて……」
「味は……一緒じゃないと思うんだけど、
玉衡切さんに聞いてさ」
「だから、その……」
なんて言えばいいのか分からない。
言葉が続かなかった。
「わかった」
玄曜は静かにそう言うと、月餅を手に取った。
小倉餡の月餅を半分に割る。
「星のを半分くれ」
そう言われて、オレも黒胡麻餡の月餅を半分に割った。
「交換だ」
玄曜が小倉餡の月餅を差し出す。
オレも黒胡麻餡の月餅を渡した。
二人で並んで座り、お互いの月餅を食べる。
「うん! 美味しい!……曜は?」
「美味い」
「どっちもいいな」
玄曜は静かに笑った。
「来年は、オレも作る」
「え!? 曜が!?」
厨房に立つの!?
んー!でも料理する曜……すごい良い……!
「楽しみー! 一覧に追加しよっと!」
「お前の恋人同士でやりたい事は、他にもまだあるのか?」
「ん? そうだな〜」
「デート中にもっと良い雰囲気になりたい、とか」
「良い雰囲気?どうするんだそれは?」
玄曜は真面目な顔で聞いた。
「仕方ない。オレが良い雰囲気になれる方法を教えてあげよう」
オレは得意気に言った。
「こういう月の下でさ、見つめ合うだろ?」
「それで……なんか、いい感じになるんだよ」
「なんだその曖昧な説明は」
玄曜は呆れたように言った。
「知らないよ! 雰囲気だから!」
自分で言っておきながら恥ずかしくなる。
そんなオレを、曜はじっと見ていた。
その視線に、オレも思わず見つめ返す。
玄曜はゆっくりと顔を寄せた。
「いい感じになったら、どうするんだ?」
囁くような低い声。
「……キス、する」
オレはそっと目を閉じた。
唇が重なる。
「キスの後は?」
「も……もう大丈夫です」
恥ずかしさのあまり目を合わせられず離れようとすると、
玄曜は逃がさないように腕を引いた。
一気に距離が近づく。
「お前が……教えてくれるんじゃないのか?」
誘うように囁かれ、オレは軽く息を呑んだ。
*
「綺麗な月……」
承天殿の屋根。
阿燐は一人、月を眺めていた。
「この時代は大変だ」
「忙しくなりそう……」
阿燐は流星が作った月餅を一口かじる。
「んー! 美味しい!」
嬉しそうに頬を緩め、くふふ、と笑った。
「やっぱりいいなぁ、流星……」
「お父様が気に入るわけだ」
月を見上げ、妖艶に微笑む。
その瞳だけが――
月明かりの中で静かに金色へ変わった。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
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