第六話 「龍雨祭の足音」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
“だからゴメンって言ったでしょ?”
“言ってない! 大体いつも――”
「ええー!? ど、どうしたの?」
竹製の蒸籠の龍霊雨器、蒸雲福籠と、
花籠の龍霊雨器、翠風遊籠が珍しく喧嘩をしていた。
いつもは仲良しで穏やかな二体なのに。
“最近、すごくイライラしちゃうの……!”
“本当はこんなこと言いたくないのに……”
“星鈴〜! お願い! 撫でて〜!”
オレは両手で二体を優しく撫でた。
しばらくすると落ち着いたらしく、いつものように
仲良く話し始める。
“さっきはごめんなさい”
蒸雲福籠が身体を揺らす。
“ううん。気にしてないよ”
翠風遊籠も穏やかに返した。
後宮にはたくさんの龍霊雨器がいる。
だけど最近は、行く先々で小さな喧嘩や揉め事が起きていた。
なんか……みんな、ピリピリしてないか?
*
「感情を受けやすくなってるんだよ〜」
オレの作った胡麻団子を頬張りながら、阿燐が言った。
くふふっと笑いながらもぐもぐしている姿は、
本当に可愛い。
お腹いっぱいになった阿燐は、承天殿の広間に集められた
龍霊雨器たちの前に立った。
目の前には、三十体ほどの龍霊雨器が並んでいる。
気が立っている者。
落ち込んでいる者。
みんな不安定そうだった。
阿燐は杖で一体ずつ、
コツン。
コツン。
と軽く触れていく。
流石に小さな龍霊雨器相手には力技ではないらしい。
「感情を受けやすくなってるって?」
「龍霊雨器たちは元々、人間の感情に敏感なんだよ」
阿燐は次々と龍霊雨器たちを落ち着かせながら続ける。
「もうすぐ中秋月だし、来月には龍雨祭もあるでしょ?」
「大きな行事が近づくと、人間の感情も大きくなるからね〜。
龍霊雨器たちには刺激が強いんだ!」
最後の一体を杖でコツンと叩く。
落ち着いた龍霊雨器たちは、安心したように眠り始めた。
「龍雨祭か……もうそんな時期なんだな」
龍雨祭。
龍の神へ捧げる、この国最大の祭り。
奉納の日の一か月前から、街中がお祝いムードに包まれ、人々の熱気で溢れる。
確かに、人の感情に敏感な龍霊雨器たちには大きな影響がありそうだ。
「龍雨祭は、お父様の力も強くなるからね」
阿燐は眠る龍霊雨器たちを見渡した。
そして――
ほんの一瞬だけ。笑顔が消える。
「それでも……思ったより早いなぁ」
ぽつり、と呟いた。
「え?」
「このままだと、間に合わなくなるかも」
その声は小さくて。
どこか焦っているようにも聞こえた。
「阿燐?」
だが次の瞬間には、いつもの無邪気な笑顔に戻っていた。
「なーんでもない!」
そう言うと、阿燐は流星に飛びつき、おでこをすりすりと擦り寄せる。
玄曜がいたら、また引き剥がされるところだが。
今日は朝から大事な会議らしく、嫌々仕事に行っているため不在だ。
「ねえ! 流星は中秋月に月餅作る?」
「作るよ。今度、周家の厨房に呼ばれてるんだ」
「やったー! ボクにも頂戴ね!」
「いいよ。あのさ、阿燐に聞きたいことが――」
「ボクもう時間だから帰るね! じゃあね〜!」
阿燐は杖をひと振りした。
星が煌めき――
次の瞬間には姿が消えていた。
「……阿燐って、本当に自由だなぁ」
オレは苦笑しながら、阿燐がいた場所を見つめた。
*
「ねえ。後宮内でも龍雨祭のお祝いはするの?」
夕飯を食べながら、オレは玄曜に聞いた。
今日の献立は豚の角煮と、きのこ湯。
ご飯が進むおかずに、玄曜は早速白米をおかわりしている。
「そうだな。後宮内や宮廷内だけの儀式もある」
「そうなんだ!」
「限られた人間しか参加できないものから、
一般開放される式典まで様々だ。百以上はある」
「百!?」
やっぱり龍雨祭って特別なんだなぁ。
「式典は後宮内でも一か月ほど続く。覚悟しておいた方がいい」
「覚悟?」
オレは昼間の阿燐との会話を思い出した。
「阿燐がさ、龍雨祭は龍霊雨器たちが人間の感情に反応して
不安定になるって言ってたけど」
玄曜は阿燐の名前が出た途端、わずかに顔をしかめる。
「それが、もっと大変なことになるってこと?」
「龍雨祭は国の一大行事だ」
玄曜は静かに答えた。
「取り仕切ることは権力の証でもある」
そして箸を止める。
「権力争いも起こる」
「有力家同士も動く」
「人間の感情が最も昂まり、最も激しくなる時期だ」
オレは思わず背筋を伸ばした。
玄曜がここまで真面目な顔で話すのは珍しい。
「龍の神の力も一段と増す」
「しかも今年は、龍の神が目覚めている」
天青色の瞳が真っ直ぐオレを見る。
「今年の龍雨祭は――確実に荒れる」
しん、と一瞬だけ空気が静まった。
ここ数日だけでも十分大変だったのに。
龍雨祭は、それ以上になるってことか……。
大丈夫なのかな。
不安が胸の奥に広がる。
けれど。まだ時間はある。
オレだって、きっと何かできるはずだ。
その時。
無言で茶碗が差し出された。
三杯目のおかわりだった。
「……それなら、食べて力つけとかないとな」
オレは山盛りのご飯をよそって玄曜に渡す。
ついでに、自分の茶碗にも山盛りによそった。
戦いは、まず飯からだ。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。
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