第四話 「庶民デートは難しい」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
ここ数日、落ち着かない天気が続いていたが
――今日は快晴。絶好のデート日和だ。
玄曜から「後宮内デート」と言われ、
オレは朝からそわそわしていた。
気持ちまでふわふわしてしまい、気づけば油條――揚げパンを
作りすぎている。
今日の朝ご飯は、揚げパンと鶏だしの粥だ。
玄曜は揚げパンが気に入ったらしく、黙々と食べ続けていた。
「ねえ。今日って後宮内のどこに出かけるの?」
「庭園だ」
玄曜は淡々と答える。
「現地で待ち合わせをする」
「現地で待ち合わせ……?」
一緒の家にいるのに?
「庶民はそうだと聞いた」
何か問題でも?と言いたげな顔だ。
「庭園か〜」
後宮内には大小様々な庭園がある。
今日は天気もいいし、のんびり散歩する感じかな。
……楽しそう!
「どこの庭園?近いの?」
「いや、後で迎えを寄越す。衣も用意したから着てこい」
いつの間にか食事を終えた玄曜が立ち上がる。
「待ち合わせは一時間後だ」
それだけ言い残し、さっさと離れを出て行ってしまった。
……相変わらず勝手な奴だ。
「結局、どこの庭園に行くんだろう」
まあ、行けば分かるか。
玄曜が用意した衣装箱を開けると……前とは
違う天青色の衣が入っていた。
「玄曜って……本当に……」
仕方のない奴だ。
*
迎えの馬車に揺られながら、オレは待ち合わせの
庭園へ向かっていた。
「庶民みたいに待ち合わせ、か」
どうやら玄曜なりに、“庶民らしいデート”をしようと
してくれているらしい。
……だけど。
「庶民は馬車で迎えを寄越したりしないんだよなぁ」
庶民は基本、徒歩だ。
やっぱり価値観が違いすぎる。
「どこまで行くんだろ……」
こんなに後宮の奥まで来るのは初めてだった。
馬車は静かに進み、やがて豪華な門をくぐり抜ける。
その瞬間。景色が一変した。
「わあっ……!」
目の前へ広がったのは、美しい庭園。
陽光を反射する水面。
風に揺れる花々。
遠くには白い亭(東屋)まで見える。
馬車はゆっくりと止まった。
オレが馬車から降りた、その瞬間――
陽の光が降り注ぎ、目の前が真っ白に輝く。
眩しさに思わず目を細めた。
――そして。
「このオレを待たせるとは、いい度胸だな」
「ん!!?」
「遅刻だ」
真っ白な衣へ身を包んだ玄曜が、仁王立ちしていた。
「ふわっ!!?」
思わず変な声が出る。
白銀にも見える美しい衣。
金糸で施された鳳凰の刺繍。
陽の光を受け、神々しいほど輝いている。
見たこともない色。見たこともない姿。
ぎょえーーーーーーーー!!!
玄曜が!!
煌めいてて眩しいよぉぉー!!!!
白、めちゃくちゃ似合ってるじゃん!!!!
あまりの格好良さに、オレは完全に固まってしまった。
「何してるんだ?」
玄曜は衣を翻しながら歩き出す。
「行くぞ」
その姿まで眩しくて。
オレはただ、必死に後ろをついて行くことしかできなかった。
*
すごい……。
玄曜が歩くたび、キラキラキラ〜!と効果音が
鳴っている気がする。
庭園の花々。
陽の光。
白い衣。
背景まで完璧すぎる。
(オレの彼氏、皇子様みたいだな……)
……いや。
実際、皇子様なんだけど。
こんなに顔が良くて、
背が高くて、
黙っていれば完璧ないい男が、
オレの恋人。
改めて自覚すると、とんでもなく恥ずかしい。
思わず二歩ほど後ろへ下がって歩いてしまう。
「こんなのでいいのか?」
前を歩いていた玄曜が、不意に口を開いた。
「え?」
「お前の言う、“後宮内デート”だ」
玄曜は立ち止まり、静かに振り返る。
「これが楽しいのか?」
オレは思わず目をぱちぱちと瞬かせた。
「曜は……楽しくないの?」
「楽しみ方がわからん」
ぶっきらぼうな返事。
でも。
その言葉が、なんだかおかしくて。
オレは思わず吹き出してしまった。
楽しみ方がわからないのに。
わざわざ休みを取って、普段と違う衣を着て、
オレとデートしてくれてるんだ。
……多分、全部。
オレのために。
オレは玄曜の隣へ並ぶと、そっと手を繋いだ。
そのまま近くの亭へ入る。
椅子へ腰掛けると、美しい庭園が一望できた。
「オレは楽しいよ」
「曜と、こうして過ごす時間が楽しい」
「そうか……」
玄曜も静かに庭園へ目を向ける。
花々が風に揺れる。
小川は陽の光を受けて輝き、
水の流れる音だけが静かに響いていた。
池では立派な鯉が優雅に泳ぎ、
風が吹くたび、桂花の甘い香りが運ばれてくる。
そこにあるのは――ただ穏やかに流れる時間。
「こういうのが楽しいのか……」
玄曜がぽつりと呟いた。
オレは何も言わず、
そっと玄曜の肩へ頭を寄せる。
じんわり伝わる体温。
それだけで、胸の奥が温かく満たされていく。
幸せだな、って思った。
玄曜の恋人として、
こうして隣にいられることが。
大変なことも、きっと沢山ある。
それでもオレは――
「気に入ったか?」
「ん? 何が?」
「この庭園だ」
「うん。綺麗な庭園だよな」
「作らせた」
「え?」
「“後宮内デート”達成のために、作らせた」
「んんっ!?」
この価値観の違いよ……!!
やっぱり玄曜と付き合うの、大変だ〜!!!!
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
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