第三話 「玄曜の隣に立つということ」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
龍の神――天星様が目覚めた影響で、
龍霊雨器達の力の均衡が崩れている。
そう言われてから数週間。
オレと玄曜は、その言葉の意味を身をもって体験していた。
楽器の龍霊雨器は夜中に勝手に鳴り響き。
巻物や本の龍霊雨器は、突然朗読を始め。
茶器の龍霊雨器は、次々と茶を注ぎ始める。
小さなトラブルから、大きなトラブルまで。
後宮中の龍霊雨器達が好き放題に暴れ回り、
後宮内は大混乱だった。
しかも止められるのは、阿燐と玄曜とオレくらい。
だから毎日のように相談が押し寄せ、休む暇もない。
阿燐は突然現れては杖を振り、龍霊雨器達を
鎮めて、また突然消えてしまう。
現れない日もあるし。
……本当に神出鬼没だ。
阿燐って、謎が多すぎる。
もっと話を聞きたいのに、なぜか玄曜に邪魔されて
承天殿へ行けないし。
これからどうなるんだろうなぁ。
*
「阿燐様まで目覚められるとは……いやはや、
大変なことで」
慎言と星鈴は、竹巻を抱えながら文官の執務室へ続く
廊下を歩いていた。
ここ数日で起きた龍霊雨器トラブルを記録し、
保管庫へ納めるためだ。
「慎言さんって、阿燐のこと知ってるんですか?」
「古い文献に、何度か記録が残されております」
慎言は静かに答える。
「何百年か毎に目覚め、龍霊雨器の数を調整される――龍の神の御子」
「そう記されておりました」
「私は、まだ直接お会いできてはおりませんが……」
慎言は小さくため息をつく。
「玄曜様が随分と“気にかけて”おりますので」
苦々しく胃を押さえる姿は、相変わらず
胃痛持ちらしい。
「なんか玄曜と阿燐……仲悪くって」
会うたびに揉めているんだよなぁ。
まあ、原因は多分オレなんだけど。
「ははは」
慎言は穏やかに笑った。
「似た者同士、“お気に入り”を取り合っているだけですよ」
「ですが、これまで以上に龍霊雨器の揉め事が起きるとなると――」
そこで慎言は言葉を止め、前方へ視線を向けた。
つられてオレも顔を上げる。
向こうから、数人の文官達が歩いてきていた。
「これは慎言殿」
先頭の文官は笑みを浮かべた。
だが。
星鈴を見た瞬間、その目が変わる。
探るような視線。
薄く浮かぶ、嫌な笑み。
「おや。その方ですかな?」
「玄曜殿のお気に入りと噂の」
静かな口調。
けれど言葉には棘があった。
「遠縁の娘を利用して上手く取り入るとは。
周家も中々したたかですな」
後ろの部下達も、じろじろと星鈴を見ながら
含み笑いをしている。
……嫌な感じだ。
「玄曜殿の側には、もっと相応しい家柄、
相応しい人間がおりましょう」
「そろそろ周家には――慎言殿には荷が重いのでは?」
「議会でも、皆が気にかけておりましたよ」
慎言は穏やかな表情を崩さなかった。
「高殿」
柔らかな声で返す。
「我が主人、玄曜様は――ご自身のことを他者に
決められるのを、最も嫌われます」
「側に置かれる者は、玄曜様ご自身がお決めになります」
口調は穏やか。
だが、一歩も引かない。
相手の文官は何も言わず、慎言の横を通り過ぎる。
すれ違いざま。
星鈴を横目で見ながら、吐き捨てるように言った。
「……これの、どこがいいのやら」
さらに小さく鼻で笑う。
「玄曜様も、趣味が悪い」
*
執務室へ入った瞬間。
星鈴は耐えきれず爆発した。
「ぬあー!! 腹立つ〜!!」
行き場のない怒りを抱えたまま、拳を
ぶんぶんっ、と振り回す。
「ははは」
そんな星鈴を、慎言は穏やかに見つめて笑っていた。
「まあまあ。気にしてはいけませんよ」
「そうですけど〜!」
きっと慎言にとって、ああいうやり取りは
日常茶飯事なのだろう。
表情も口調も変わらないまま、のんびりと茶の準備をしている。
「玄曜様は、なにしろ目立つので」
湯を注ぎながら、慎言は静かに言った。
「良い意味でも悪い意味でも、人を惹きつけてしまう」
茶の香りがふわりと広がる。
「あの輝きを手に入れたい、と」
「近い者、側にいる者を排除すれば、簡単に奪い取れる――
そう考える者は多いのです」
慎言は茶杯を星鈴へ差し出した。
「玄曜様の側にいるということは、本当の敵と
向き合わなければなりません」
「本当の敵?」
「後宮の奥にいる人間達です」
穏やかな声。
だが、その言葉には重みがあった。
「後宮の……奥?」
「今、星鈴さんが行動されている範囲は、後宮の
ほんの一部にすぎません」
「いわば“外側”です」
慎言は静かに続ける。
「このまま龍霊雨器の揉め事が増えれば……
玄曜様の側にいれば……いずれ、本当の
“内部”へ入ることになるでしょう」
「本当の……内部」
「私や、玄曜様ですら入れない領域です」
「そこには敵しかおりません」
星鈴の背筋が、ひやりと冷えた。
「先程よりも強い敵意や悪意と――お一人で
向き合わなくてはなりません」
「……」
慎言の言葉に、現実が押し寄せる。
玄曜と想いが通じ合えたこと。
今、幸せな日々を過ごしていること。
全部、本当だ。
でも。
きっとこれから先、想像以上に大変なことが待っている。
それが――恋人として玄曜の側にいる、ということなのだろう。
「戦い方は色々あります」
慎言は優しく微笑んだ。
「星鈴さんには、星鈴さんにしかできない戦い方がありますよ」
「私にしかできない戦い方……」
「まあ、星鈴さんは星鈴さんらしく過ごして
いただければ大丈夫です」
「常に前を向き、堂々としていてください」
慎言は真っ直ぐ星鈴を見つめた。
「星鈴さんは、揺るぎないものをお持ちです」
「どうか、自信をお持ちください」
「自信……ですか?」
「そうです」
慎言は穏やかな声で言った。
「――取れるものなら、取ってみろ。ということです」
柔らかな口調。
だが、その奥には強い意志が宿っていた。
「それに……あのような方々に」
慎言は小さく笑う。
「玄曜様が従うと思いますか?」
「思いません」
星鈴は思わず即答していた。
*
日が暮れた離れ。
星鈴は食卓で、玄曜の帰りを待っていた。
「本当の敵……」
夕飯の準備をしながら、ぽつりと呟く。
「戦い方……揺るぎないもの……」
「それって何だ?」
鍋をぐるぐるかき混ぜながら考えてみる。
でも答えは出ない。
わからないままで大丈夫なのかな。
いきなり敵が現れたらどうすればいいんだろう。
戦うって……拳で??
……やっぱり鍛えた方がいいのか?
――その時。
扉が開き、玄曜が戻ってきた。
「玄曜! お帰り!」
「違う」
「ん?」
何が?と思った瞬間。
じっと見つめてくる視線で気づく。
「……お帰り。お疲れ様……曜」
「ただいま。星」
すっかり“二人だけの呼び名”を気に入った玄曜は、
離れの中では「曜」と呼ばないと不機嫌に
なるようになってしまった。
……まったく。
面倒くさい奴だ。
いや、仕方ないか。
「明日、休みにしたからな」
「え? 仕事大丈夫なの?」
「慎言に任せた」
慎言さんに……。さらっと酷いことを言う。
そして玄曜は立ち上がると、食卓横の棚へ貼られた紙を見つめた。
二人でやりたいことを書いた一覧。
「明日は出かける」
そう言うと筆を取り、
――“後宮内でデートをする”
その横へ、流れるような字で。
“決行”と書き加えた。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。
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