第五話 「実家に行こう!」前編
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
次の日。
朝食の準備をしていると、トントン、と扉を叩く音がした。
「おはようございます。星鈴さん」
扉を開けると、慎言さんが立っていた。
「おはようございます、慎言さん。
あの……それは?」
慎言の後ろには、豪華な箱が山のように積まれている。
「玄曜様から“大至急”用意するよう命じられまして」
玄曜から。
大至急。
――嫌な予感しかしない。
慎言は箱を開け、それはそれは立派な巻物や金の箱を
次々と食卓へ並べ始めた。
……な、何が始まるんだ?
「持ってきたか……」
欠伸をしながら、玄曜が二階から降りてくる。
「何これ?」
「今日はお前の実家へ行くだろ」
玄曜は当然のように言った。
「白家への彩礼と聘礼を準備した」
「さいれい?へいれい?何それ?」
「彩礼とは、主に婚約金。聘礼とは、
結納品……今回は婚前ですので、贈答品として準備いたしました」
慎言は穏やかに答えた。
「んん!?」
流星の声が裏返る。
「な、何!? どういうこと!?」
玄曜は慎言へ合図した。
慎言は静かに頷き、金糸で綴られた分厚い
書物を食卓へ積み上げていく。
どん。
どん。
どん。
「ちょっ、待って!! 何これ!? 分厚っ!! なにこれ!?」
「聘礼の目録です。縁起良く、
八(発財=繁栄)冊にまとめております」
慎言はさらりと言った。
「まだございます」
「まだあるの!?」
恐る恐る、一冊を開く。
『黄金九箱』
『龍霊雨器 六点』
――そっと閉じた。
「彩礼は、オレの財産と、国庫から――」
「国!!?」
流星は勢いよく立ち上がった。
「あーーーっ!! やめよう!! 今回は!!」
「そんなのいらないから!! 挨拶だけでいいの!!」
「だから挨拶へ行くんだろうが」
「違うの!! 今日は顔合わせだけにしよう!?」
「持って行くのも菓子折りくらいでいいって!!」
「菓子?」
玄曜が眉を寄せる。
「なら後宮専属の菓子職人を派遣して――」
玄曜が視線を向けると、慎言が静かに頷いた。
「職人いらない!!」流星は全力で止めた。
「なんかこう……十二個くらい入った普通の菓子折りでいいの!」
玄曜は“何を言っているんだコイツは”みたいな顔をした。
「流星。婚姻はまだ先とはいえ、婚姻とは国と国とのものだ」
「違う違う違う!!」
「白家に、国力のない男だと思われたらどうする」
「思わないよ!!」
流星は叫ぶ。
「玄曜みたいな立派な顔面した後宮上位文官が
来るってだけで大騒ぎだよ!!」
「そもそも国同士じゃないし!!」
「こんな立派な物、必要ありません!!」
流星は勢いよく顔の前でバツ印を作った。
全力拒否。
玄曜は今まで見たこともないほど驚いた顔で固まる。
「必要……ない……?」
「オレの実家に置く場所ありません!!」
「持って行くのは菓子折りだけ!!」
玄曜は再び衝撃を受けた顔で絶句した。
なんだその顔は。
オレの方がびっくりだよ!!
「ははは。仲がよろしいことで」
慎言だけが肩を震わせて笑っていた。
――結局。
納得のいかない玄曜は、すぐに
“すんごい高級そうな菓子折り”を用意してきた。
箱が金と翡翠で出来ていたので、流星はこっそり
厨房にあった木箱へ入れ替えた。
(もーっ!!)
自分の実家へ帰るだけなのに。
なんでこんなに疲れないといけないんだ!??
*
「はあ……」
白家へ向かう馬車の中で、流星はすでにぐったりしていた。
あれから――
“せめて土地の譲与書だけでも持っていきたい”玄曜と
大揉めになり、慎言が止めに入らなければ、危うく
莫大な土地を譲られるところだった。
向かいに座る玄曜をちらりと見る。
腕を組み、静かに目を閉じている。
……だが。
どう見ても納得していない顔だ。
(もー……)
余計な事は言わない方がいい……。
オレは小さくため息をついて玄曜を眺めていた。
今日の玄曜は、いつもと違う衣だ。
黒に近い深い青。
けれど光の当たり方で色が変わり、静かな艶を帯びている。
よく見ると、衣には龍の地紋が織り込まれていた。
袖口と襟元には銀糸の極細刺繍。
陽光を受けるたび、神々しいほど美しく輝いている。
――すごく似合ってる。
「なんだ?」
視線に気づいた玄曜が、ゆっくり目を開けた。
「ううん。その衣、よく似合ってるなって」
「流星の実家へ初めて行くからな。作らせた」
(わざわざ……!?)
さらっと言っているが、絶対めちゃくちゃ高いやつだ。
玄曜と一緒に実家へ向かう。
その事実に、急にそわそわしてしまう。
……そういえば。
玄曜のこと、父さん達になんて紹介するんだ?
彼氏?
いや。
婚約者……?
(婚約者は、なんか恥ずかしいな……)
彼氏。
うん、彼氏だ。
玄曜、オレの彼氏なんだ……。
改めて考えると、妙にむず痒い。
「お前の男の格好、初めて見た」
不意に玄曜が口を開く。
「ん? そうだっけ?」
今日は実家へ帰るため、流星は男装をしていた。
両親は、流星が女装して後宮で働いていることを知らない。
女装姿で帰ったら、それこそ卒倒するだろう。
「街ではいつもこの格好だよ」
玄曜に比べれば、庶民的な麻の衣。
飾り気もない、シンプルな男物の服だ。
女装の時は下ろしている長い髪も、今はひとまとめに括っている。
玄曜は、チラリと流星の姿を見つめ
「そっちもいいな」そう呟いた。
馬車はゆっくり街を進み、賑やかな繁華街を抜けて
静かな住宅地へ入っていく。
窓の隙間から外を見ると、見慣れた景色が
広がり始めていた。
「そういえば、玄曜って街に出たことあるの?」
「いや、初めてだ」
「えっ!? 初めて!?」
流星は思わず声を上げた。
「特に出る必要がないからな」
玄曜は特に気にする事なく言った。
初めて街に出て行く先が庶民の家って……
なんか申し訳ないな。
「もうすぐオレの家だけど、小さくてびっくりすると思うよ」
「小さい家って、どれくらいなんだ?」
「離れくらいかなぁ」
「離れは離れだろ」
「うーん……」
やっぱり価値観が違いすぎる。
父さんと母さん……玄曜のこと見たらどう思うんだろう。
そんなことを考えているうちに、馬車は白家へ到着した。
家の前には、両親と妹の星蘭が落ち着かなさそうに立っている。
「父さん、母さん。あと妹の星蘭」
流星は順番に家族を紹介した。
玄曜は静かに、丁寧に頭を下げる。
「玄曜と申します」
そして、真っ直ぐ流星の両親を見た。
「流星殿と、生涯を共にする覚悟で参りました」
「重いっつーの!!」
流星の叫びが、白家の前に響き渡った。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
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