第一話 「玄曜の距離感がおかしい」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
あ〜〜!!!
玄曜の顔が良すぎる〜〜!!!
朝日に照らされた寝台の上で、流星はひとり悶えていた。
隣では、玄曜が静かに眠っている。
柔らかな光を受けた黒髪は、紫水晶みたいに艶やかで。
普段は凛々しく、圧倒的な存在感を放つその顔も、寝ている時だけは少し幼い。
(恋人……)
その響きだけで、胸の奥がじんわり熱くなる。
流星はそっと息を吐き、隣の顔を見つめた。
玄曜と想いが通じ合った、あの星の夜から半月。
オレ――流星と玄曜は、恋人同士になった。
……なったわけだけど。
オレは未だに、この距離感に慣れない。
とにかく玄曜がすごいのだ。
オレへの好意をまったく隠さない。
流石に仕事中や外では抑えているけど、二人で暮らす離れの中では本当に遠慮がない。
まあ、元々が独占欲と所有欲の塊みたいな奴だから、愛情表現が激重なのは今さらだけど……。
でも、好きになった相手が、自分だけを特別扱いしてくれて、一途(?)なのは――正直かなり嬉しい。
気を抜くと、すぐ顔がニヤけてしまう。
(そろそろ朝ごはん作らないと)
玄曜を起こさないよう、そっと身体を起こす。
すると。
「……どこ行くんだ?」
不意に手を引かれ、そのまま寝台へ引き戻された。
「うわっ!? 玄曜っ! ご飯作るだけ!」
「今日は休みだろ」
起きたばかりの、少し掠れた声。
乱れた黒髪の隙間から覗く天青色の瞳が、逃がさないみたいに流星を見つめる。
頬を指先で、するりと撫でられる。
それだけで、心臓が爆発しそうだった。
「ふわぁ……っ」
慌てて起き上がろうとするけれど、玄曜にあっさり押さえ込まれる。
「まだここにいろ」
そう言って、優しく二度キスを落とされた。
そのまま玄曜は流星を抱き寄せ、再び眠りに落ちていく。
規則正しい寝息が、すぐ耳元で聞こえた。
寝ぼけてて、これなのである。
(こんな生活……)
流星は真っ赤になった顔を両手で覆う。
(心臓がいくつあっても足りない……!!)
*
結局、二度寝してしまったオレ達は、遅めの朝食を取ることになった。
食卓には、鮭粥と青菜炒め。作り置きの漬物。
出来たての湯気と香りが、離れの中に広がっている。
捲っていた袖を直しながら、ふと自分の部屋着に目を落とした。
オレは男だけど、性別を偽って後宮で働いている。
だから外では完全に女装して過ごしている。
そして離れの中でも、一応念のため女物を着て生活をしているのだけど……。
「なあ。玄曜と付き合ってるならさ……もう別に女装しなくても、後宮で働けるんじゃないか?」
何気なく言うと、
「いいのか?」
玄曜が鮭粥を口に運びながら、こちらを見た。
「何が?」
「流星。天命はなくなったが、オレが龍の神の魂を宿していることは変わらない」
玄曜は淡々と言う。
「末端とはいえ、オレは次期皇帝候補だ」
「この後宮、この国で一番価値がある男だ。黙っていても女が寄ってくる」
「う……うん?」
自分で言うんだ……。
いや、実際そうなんだけど。
「今後、皇帝になれば、権力者達は次々に女をあてがってくる」
「そこでお前だ」
「オレ?」
「この玄曜自らが選び、龍霊雨器達にも認められた女が側にいれば、周囲も強く出られない」
「はあ……」
「だから、お前は女装したままだ」
玄曜は真顔で言い切った。
「いいか。絶対にバレるなよ」
「ええーっ!?」
今までの「バラすぞ」が、「絶対バレるな」に変わってるんだけど!?
しかも。
「それと――今月中に婚姻するからな」
「ぶふっ!!」
流星は盛大にお茶を吹き出した。
玄曜はちらりと視線だけ寄越す。
「ちょっ、展開が早いんだって!!」
「何がだ?」
本人は本気でわからないらしい。
「玄曜! オレ達、出会ってまだ半年も経ってないんだぞ!?付き合ったのだって半月前だろ!」
「玄曜はすぐ婚姻って言うけど! オレはちゃんと順番に進みたいの!」
「なぜ、そんな回りくどいことをする?」
玄曜は真っ直ぐ流星を見つめた。
「互いに好意がある。なら婚姻すればいい」
心底わからないって顔をしている。
「オレは公私共に、今すぐお前をオレだけのものにしたいだけだ」
玄曜は真顔のまま続ける。
「なぜダメなんだ?」
「んんっ……!」
圧が強い。
顔がいい。
いや、流されるなオレ!!
「〜〜っ! 婚姻したら夫婦になるだろ!」
「オレ、人生で初めて恋人ができたの!」
流星は机を叩いた。
「恋人期間にやりたいこととか、いっぱいあるんだって!」
「やりたいこと?」
「付き合って一年記念とか! そういうの祝ったり!」
「国の祝日にして式典を開くのか?」
「オレ達の付き合った記念日を国家規模にするな!! 恥ずかしいわ!!」
玄曜は本気だった。
怖い。
「いいか玄曜! よく聞け!」
流星はびしっと指を突きつける。
「恋人が別れる理由第一位は、価値観の違いらしい!」
「オレは庶民! お前は次期皇帝候補! 生まれも育ちも全然違う!」
「だから破局しやすいの!!」
「何を言っているんだ?」
玄曜は本当に理解できない顔をした。
「だから! もっと時間をかけて、お互いの価値観を知っていきたいの!」
「いっぱい話したり、出かけたりして!」
「ちゃんと楽しい恋人期間を過ごしたいの!」
流星は一気に捲し立てて言い切った。
「恋人期間……」
玄曜は腕を組み、目を細める。
「つまり、お前はその“楽しい恋人期間”とやらを望んでいるんだな?」
「ん?」
「それを過ごせればいいんだな?」
圧が強い。
ものすごく嫌な予感がする。
「う……うん?」
「わかった」
玄曜はあっさり頷いた。
「なら、存分に過ごさせてやる」
「えっ? いいの……?」
「お前が望むなら、それでいい」
納得してくれた……?
本当に?
流星は不安になりながら、向かいで当然のように朝粥を食べている玄曜を見る。
すると。
「全部終わったら婚姻だからな」
鋭い目つきで。玄曜は不敵に笑った。
――たぶん、オレの恋人は。
思っていたより、ずっと手強い。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。
続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。
もし物語を楽しんでいただけましたら、評価で応援いただけると励みになります。




