第十二話 「星の夜、その翌朝」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
朝。窓から差し込む光が、いつもよりやけに眩しい。
オレは布団の中で、ゆっくりと目を覚ました。
「ふわ……」
身じろぎして、もぞ、と身体を縮める。
その瞬間、自分の身体に回された腕に気づいた。
後ろから、ぎゅっと抱きしめられている。
玄曜の体温と、穏やかな寝息が背中越しに伝わってくる。
「……」
昨日の出来事が、勝手に頭の中に浮かび上がった。
月明かり。
玄曜の声。
近すぎる距離。
「……っ」
思わず、布団をぎゅっと掴む。
胸の奥が、じわりと熱くなる。
(……あれ、夢じゃなかったんだよな……)
求婚。
抱きしめられたこと。
そして――
その後の、キスをされたあの距離の近さ。
「……はぁ」
オレは、そっと自分の頬に手を当てた。
……熱い。
玄曜の部屋。
扉が閉まった、その後。
――何があったか、緊張しすぎて全部をはっきり
覚えているわけじゃない。
でも、ひとつだけ確かなことがある。
優しかったこと。
大切にされたこと。
そして、自分が――幸せだったこと。
(……すっごい、嬉しかった……)
胸の奥が、きゅう、と鳴る。
堪らなくなって、オレは布団の中で静かに丸くなった。
(玄曜……は、どうだったんだろう……)
恥ずかしい。
でも、顔を見たい。
……まだ、寝てるよな。
そう思いながら、オレはそっと身体を動かして、
玄曜のほうを向いた。
「……」
「……」
天青色の綺麗な瞳と、ばっちり目が合う。
「……っ!」
驚きと恥ずかしさで、思わず背を向けようとした
――その瞬間。
「ふわっ!」
身体を引き寄せられ、あっという間に組み敷かれた。
「流星」
寝起きの、少し掠れた声。
乱れた黒髪。
ぶっきらぼうなのに、どこか柔らかい微笑み。
玄曜はそのまま、オレの唇に触れるだけのキスをする。
そして、もう一度オレをぎゅっと抱きしめると——
スヤスヤと、再び眠りに落ちた。
「…………は?」
ね……寝ぼけ……?
今の、完全に寝ぼけてた???
オレは腕の中で固まったまま、必死に状況を整理する。
(え、待って。いま、引き寄せられて、
名前呼ばれて、抱きしめられて……)
ぎょえ――――!!!!
と、と、と……とんでもねぇ――――!!
オレ、こんなとんでもない顔面の人に求婚されて
これからも一緒に寝て、朝も一緒に迎えるのー!?
「こんなの……耐えられるのか……?」
オレの幸せすぎる呟きは、朝日の中にそっと溶けていった。
*
その後——
甘い空気をめいっぱい味わったオレ達は、並んで食卓を囲っていた。
昨日は気づかなかったけれど、
オレが作った料理——(五品!)——は、慎言さんが、
すぐに食べられるよう、きれいに並べてくれていた。
痛みやすいものは冷暗室に小分けして
仕舞われていたようだ。
さらに、食卓の端には一枚の事付けが置かれていた。
“玄曜様と星鈴さんの仕事はこちらで調整いたしました。
三日ほどお休みを取れましたので、
有意義にお過ごしください”
……有意義に。
その言葉を目でなぞった瞬間、オレは一人で顔を赤くする。
(し、慎言さん……その表現……)
本当に、有能すぎる人だ。
昨日は色んなことがありすぎて、
こうして二人で食べるご飯が、やけに久しぶりに感じられた。
温め直した料理を、玄曜と並んで食べる。
ただそれだけなのに、胸の奥がじんわりと満たされていく。
(……なんて幸せなんだろう)
「玄曜。美味しい?」
何気なく聞いたつもりだった。
「美味しい」
即答だった。
しかも、やけに素直な声。
その一言だけで、オレの頬はまた熱くなる。
(うう……)
平然としている玄曜の横で、
オレだけが忙しく幸せを噛み締めていた。
*
それから一週間後のこと。
オレと玄曜は、皇帝――玄曜のおじいちゃんに、
お茶へ招かれていた。
後宮の奥、承天殿の中庭は、大輪の花々で華やかに彩られている。
庭園に佇む立派な亭(東屋)には、いくつもの茶器と、
種類豊富な菓子が丁寧に並べられていた。
……きっと、玄曜を迎えるために用意したのだろう。
この二人が、家族としてこうして向き合うのは、
本当に久しぶりなのだと思う。
亭の前で立ち止まったまま、
玄曜とおじいちゃん――二人の間には、
どこかぎこちない空気が流れていた。
オレはその様子を見て、にこりと笑う。
そして、二人の手を取って、ぐいっと亭の中へ引いた。
「おじいちゃん!こういう時は、
“久しぶり”って言えばいいんですよ!」
「……そうだったな」
おじいちゃんは一瞬目を細め、
そして、とても穏やかな笑みを浮かべて玄曜を見つめた。
「久しぶりだな。玄曜」
「……お久しぶりです。お祖父様」
それは――
皇帝と、次期皇帝候補としての再会ではなく。
祖父と、孫としての。
久しぶりの、静かな再会だった。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
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