第十一話 「星の下、選ばれた未来」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
静かな夜だった。
聞こえるのは、風に木の葉が揺れる音と、
虫の鳴き声くらいだ。
玄曜は流星を抱き抱えたまま、離れへと向かっていた。
腕の中の温もりと、小さな寝息、ただそれだけが
玄曜の心を照らしている。
「ん……」
流星が、ゆっくりと瞼を開く。
「起きたか?」
「……」
一瞬だけ。
流星の視線が、玄曜を捉えきれずに揺れた。
「……誰……?」
かすれた声が、こぼれる。
――空気が、止まった。
「……は?」
玄曜の声が、低く落ちる。
その次の瞬間――
「……あ、玄曜……?」
流星が、はっとしたように瞬きをする。
「……なに言ってんだ、オレ……」
自分でも理解できていないように、小さく首を傾げる。
「もうすぐ離れだ」
玄曜の声は、いつも通りだった。
けれど、その指先だけが――わずかに強く、流星を抱き寄せていた。
「身体は大丈夫か?」
玄曜は腕の中の流星を見下ろす。
その表情は、流星が今まで見たこともないほど優しくて、
思わず息を呑んだ。
「だ……大丈夫」
玄曜の腕の中にいる。
それだけで胸の奥が、きゅう、と震える。
*
離れまでは、あと少し。
池にかかる橋を渡っていると、ふいに玄曜の足が止まった。
「立てるか?」
「えっ!? うん」
流星はそっと下ろされる。
月明かりに照らされ、玄曜の天青色の瞳が静かに揺れていた。
玄曜は、じっと流星を見つめている。
「……ど、どうしたの?」
「流星……」
「げ、玄——」
「オマエ!! なんであんな所まで来たんだよ!!」
玄曜は腕を組み、一気に不機嫌な顔になる。
――めちゃくちゃ怒ってる!
さっきまで、いい雰囲気だったのに!
「だって! 玄曜、帰らないって言うし!
オレ、五品も作ったんだぞ!? それに——」
「後宮から出ていけとか、玄曜に相応しくないとか、
正妃になれないとか!色々言われたのっ!」
勢いのまま、言い返していた。
「だから迎えに行きたかったの! 悪かったな!!」
睨みつけると、胸の奥がぷくぷくと膨れてくる。
オレだって大変だったし、頑張ったのに……。
流星は俯いて、小さくぶつぶつと呟いた。
玄曜は、そんな流星を見て、ふっと小さく息を吐く。
「……まさか、龍の神を連れてくるとはな」
「……うん。倉庫の地下で、出会ったんだ」
「そうか」
あの場所で眠っている存在のことを、玄曜は知っていた。
誰にも起こせない、遥か天上の存在。
この国の龍の守り神。
それを——。
「魂まで宿されるとは……」
呆れたように、玄曜が言う。
しかも、地上での器に選ばれるなど。
(こいつのコミュ力、どうなってるんだ……)
「……ダメだった?」
「いや」
玄曜は首を振る。
「オマエ、ますますオレから離れられなくなるぞ」
「え? なんで?」
「オレも、魂を宿されてるからな」
「そうなの!?」
「言っただろ。天命で決まってるって」
玄曜は視線を外し、淡々と続ける。
「龍の神の力は、この国そのものだ。
皇帝になれば、国はより栄え、恩恵を受ける」
「玄曜は……皇帝になりたいの? 天命だから?」
「他のバカな候補どもがなるくらいならな」
低く、吐き捨てるように言った。
「この国を、ダメにするわけにはいかないんだよ」
……まあ、色々事情があんだよ。
ぶっきらぼうにそう付け加える。
玄曜は流星と向き合い、ゆっくりと両手を取った。
月明かりの下、流星の左薬指にはめられた
双燕守環が、きらりと光る。
「流星」
「……?」
「オレと一生、添い遂げてほしい」
「そっ!?」
突然の言葉に、声が裏返る。
「オレだけのものにしたい」
「なっ——」
――それって……。
「求婚……?」
流星の口から、ぽろりとこぼれ落ちる。
「そうだ」
玄曜は、真っ直ぐに答えた。
「好きだから、絶対に放さない。オレだけのものにする」
風が、優しく吹き抜ける。
玄曜の黒髪と髪飾りが揺れ、月明かりを受けて、
紫水晶のように深く輝いた。
*
天青色の瞳は、静かに、けれど確かに揺らめき、
そこにはオレだけが映っている。
――なんて、綺麗なんだろう。
息をするのも忘れて、ただ見惚れていた。
……ハッ、と我に返った時には、もう遅かった。
心臓が激しく脈打ち、身体中の血が一気に熱を帯びる。
顔は熱く、呼吸の仕方すら思い出せない。
なにこれ……!
ダメだ……!!
玄曜が――
めちゃくちゃ、かっこいい……!!!
「おっ……! あのっ……! そっ……っ……!」
舌がうまく回らず、言葉にならない。
「落ち着け」
「オレも……!」
オレは目をぎゅっと瞑った。
オレだって、ずっと――ずっと伝えたかった。
「オレも玄曜が好きだよ」
玄曜を真っ直ぐ見つめて、そう言った。
言った瞬間、泣きそうになった。
――言えた。
やっと、自分の気持ちを伝えられた。
玄曜は、ぽかん……と固まっている。
「ど、どうした!? 玄曜!! 聞いてたか!?」
「……」
玄曜は答えない。
オレの手を握ったまま、動かない。
……聞こえてなかった?
もう一回言うの?
え、無理……恥ずかしすぎない……?
「流星……オマエ、オレが好きなのか?」
何言ってるんだコイツ、みたいな顔で玄曜が言う。
「そうだよ!」
思わず声が大きくなる。
「玄曜が好きだから……玄曜が選んだ未来に、
オレも一緒に連れて行ってよ!」
オレは、にこっと笑った。
その瞬間――
強く、抱きしめられた。
「玄……!!」
玄曜はオレの両肩を掴み、真っ直ぐに見つめる。
「流星、前に言っただろ」
「え?」
「初めてのキスは……本当に好きな人と、満天の星の下でしたいって」
唇のすぐそばで、低く囁かれて――
そのまま、そっと唇が重なった。
「……ん……」
心臓がうるさい。
目を閉じる余裕もなく、オレは小さく震える。
唇が離れる。
「……もう一回」
そう告げられて、今度は逃げ場を塞ぐように、再び唇が重なった。
さっきより、ほんの少しだけ長く。
触れて、離れない。
無意識に、オレの指先が玄曜の衣を掴む。
それに気づいた玄曜が、微かに目を細めて――
ほんの少し、角度を変えた。
深くはない。
けれど、確かに“求める”キスだった。
ゆっくりと、唇が離れる。
「帰るぞ」
それだけ言って、玄曜はオレの手を引き、離れへと歩き出す。
引かれた手から、玄曜の熱と緊張が伝わってきた。
オレは何も言えない。
ただ、心臓だけがバクバクとうるさい。
……ちょっと待って。
お互い好きだって告白して!?
玄曜は求婚までして、キスまでして!!
今から、二人きりで暮らす離れに帰るの!?
恋愛経験ゼロのオレでも、
この後の展開くらい……想像できる……。
緊張と不安。
期待と焦り。
頭の中がぐるぐる忙しい。
やばい。
手汗、かいてきた……。
離れに戻り、そのまま手を引かれて二階へ向かう。
玄曜の部屋の扉が開く。
オレも、玄曜も、何も言わなかった。
ただ――
お互いを見つめる瞳だけが、淡く揺れていた。
そして、静かに。
部屋の扉が、閉まった。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。
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