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【第一期完結/第二期開始!】『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
最終章 「天命とか聞いてないんだが 」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

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第八話 「天命に抗う星」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

 暗く、細い道を進むと、突き当たりに上へと続く階段が現れた。


「よい……しょっと」


ガタン、と板を持ち上げる。

顔を出した先は、見慣れた倉庫の隅だった。


倉庫内は、しんと静まり返っている。


――倉庫の中に、承天殿しょうてんでんへ繋がる道がある。


慎言しんげんの言葉を、頭の中で反芻する。

そんな場所に心当たりは、一つしかない。


倉庫の最奥。

蝙蝠こうもりの紋様が刻まれた、床の扉。


オレは、迷わず倉庫の奥へと歩き出した。


“……行くの?”


どこからともなく、囁く声がした。


「うん」

オレは、小さく答える。


“生きて、帰ってこられないかもよ?”


「絶対、帰ってくる。玄曜と一緒に」


“……怖くないの?”


「怖いよ。すっごく、怖い」


一瞬、言葉を区切ってから、続ける。


「でも――」

「玄曜が一人になるほうが、もっと怖いんだ」


「だから、行ってくる」


その瞬間、倉庫の空気が、ふわりと揺らいだ。


“行ってらっしゃい”

“星鈴なら、大丈夫”

“気をつけて”


倉庫中から、幾重もの声が響く。

それだけで、胸の奥がいっぱいになる。


「……みんな、ありがとう」


倉庫の最奥へ辿り着くと、

蝙蝠こうもりの扉が、ゆっくりと開いていった。


地下へと続く階段が、淡く光る。

まるで、先へ進むよう導かれているかのように。


覚悟を胸に、オレはその一歩を踏み出した。



階段の最下段まで降りきった瞬間、光は完全に消えた。


暗闇。

音も、気配も、何もない。


「……何もない」


暗闇の中で、オレの声だけが虚しく響く。


てっきり、ここに龍霊雨器りゅうれいうきがあるのだと思っていた。

もしかしたら、力を貸してもらえるかもしれない――

そんな都合のいい期待を、勝手に抱いていた。


何もない。

自分だけ。

一人きり。


胸の奥に、不安と恐怖が一気に押し寄せる。


「……玄曜」


その名を口にした途端、涙が溢れて止まらなくなった。


覚悟はある。

そう言ったはずなのに――本当に……?


相手は、皇帝側の龍霊雨器。

人のことわりが及ばない存在だ。


「玄曜……」


行かなきゃいけないのに。

どうすればいいのか、分からない。


どうして――

どうして、こんなにも好きになってしまったんだろう。


「……ふ……うぅ……」


涙がぼろぼろと零れ落ち、暗闇に吸い込まれていく。


泣いている場合じゃない。

分かっているのに、止まらない。


「……うう……ううぅ……」


両手で何度も涙を拭う。

それでも、次々と溢れてしまう。


その時、


『まるで、幼子おさなごのように泣くのう』


――声がした。


「……え?……誰……?」


見渡しても、闇しかない。

気配も、姿も、何一つ感じられない。


『なぜ、泣く?』


「助けたい人がいるのに……助けられるか、分からない」


オレは、正直に答えた。


『なぜ、助けられぬ?』


「天命だから……」

「人の手が届かない場所で、決められてることだから」

「神様にしか、覆せないって……」


『ふむ。天が定めたことなら、仕方あるまい』


「仕方なくない!!」


オレは、ありったけの声で叫んだ。


「みんな、天命って言う!」

「誰も……玄曜のこと、考えてない!!」


そうだ。

だから、嫌なんだ。


玄曜のなりたいものも、

やりたいことも、

未来も、人生も――


全部、天命が奪っている。


なにより玄曜自身が、

「天命だから」と受け入れているのが、何より嫌だった。


「オレは……」

「天命じゃない玄曜の、幸せが何なのかを知りたい」


『知って、どうする?』


「玄曜に、幸せをあげたい」


「オレは……玄曜に、愛をあげたい」


「大切にされてるって」

「愛されてるって、玄曜に教えてあげたい」


いつも、たった一人で生きている。

一緒に暮らして、ずっとそう感じていた。

玄曜を知れば知るほど、強く。


「だから……」

「玄曜が本当に望んで、皇帝になりたいなら」

「オレは正妃になって、たくさん愛してあげたい」


『皇帝に、なりたくないのなら?』


「玄曜と一緒に、天命と戦う」



――ポツ。


髪に、何かが落ちた。


「……雨?」


音もなく、宝石のように輝く雨が、静かに降り注ぐ。


雫が闇に触れた瞬間、光の波紋が広がっていった。


揺らめく光の先に、青く輝く床が現れる。

その輝きは、流星の足元を中心に、淡く照らされていく。


瑠璃と金で彩られた、大きな円。

星と星座が描かれた、その模様。


「……天星図……?」


あまりの美しさに、息を呑む。


ゾワリ――

空気が、変わった。


冷たく、澄みきり、

空間そのものが、別の世界へと塗り替えられる。


――いる。


龍霊雨器が。

いや、それ以上の“何か”が、ここにいる。


圧倒的な存在感に、呼吸がうまくできない。

押し潰されそうな、気配。


オレは、そっと息を吐き、

震える身体を押さえながら、瞳を閉じた。


そして――

ゆっくりと、天を仰ぐ。


瞳を開いた瞬間。


そこには、宇宙が広がっていた。




♢♢♢




《龍霊雨器解説》


今回登場した龍霊雨器は、

私がこの世で最も美しいと思っている工芸品

「曜変天目茶碗」をモデルにしています。


黒の中に浮かぶ青や緑の光は、

まるで宇宙を閉じ込めたような美しさがあります。


現存するものは世界にわずか三碗。

すべて日本にあり、国宝に指定されています。


ご興味があれば、

「曜変天目茶碗 藤田美術館蔵」で検索してみてください。

流星が見上げた“あの宇宙”を感じていただけると思います。



そして、流星の足元に現れた天星図。


こちらは、世界最古級の星図「淳祐天文図」をモデルにしています。


石に刻まれた星々が静かに広がるその姿は、

まるで神域に触れるような美しさがあります。


「淳祐天文図」で検索すると、

京都大学のデジタルアーカイブで画像を見ることができます。


流星が立っていた、あの天星図の雰囲気を、

少しでも感じていただけたら嬉しいです。

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。

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