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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
最終章 「天命とか聞いてないんだが 」

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第五話 「見つからなかったもの、見つけたもの」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

 夜更けの後宮は、昼とは別の顔を持つ。

人の気配の引いた回廊に、灯りがまばらに残っていた。

 

「……静かすぎるな」


玄曜げんようの声に、オレは無意識に玄曜の袖を握る。


依頼で訪れたのは、使われなくなった古い離宮。

倉として封じられて久しい一室に、奇妙な龍霊雨器りゅうれいうきがあるらしい。


扉を開けた瞬間、空気が変わった。


部屋の奥。

壁一面を占めるように、大きな鏡が据えられている。


「……鏡?」


近づいた瞬間、嫌な予感が背筋を走る。


「流星、離れろ!」


玄曜が手を伸ばした――その瞬間。


鏡の奥が揺らぎ、視界が裏返った。


「うわっ――!」


足元が消え、世界が反転する。


次に目を開けた時、そこは無数の星が浮かぶ、

鏡の中の世界だった。

 


“おやおや。久しぶりのお客様ですね”


静かで落ち着いた声が、直接、頭の中に響く。


「この感じ……龍霊雨器?」


“初めまして。

選途照心鏡せんとしょうしんきょうと申します”


“人は私を、みち映しの鏡とも呼びます”


「途映しの鏡……?」


“はい”


「あのっ!外に出たいんだけど!」


“簡単ですよ。可能性をお選びください”


「可能性……?」


“貴方の周りをご覧ください”


「?」


見渡すと、オレの周囲には、キラキラと輝く星が

無数に浮かんでいた。


“貴方には、星の数ほど可能性がございます”


“その中から一つ選んでいただければ、外に出ることができます”


「……それだけでいいの?」


“はい。ですが――”


“存分に考え、選ぶことをおすすめいたします”


「この中から……選ぶ……」


輝く星々が、オレの顔を優しく照らしている。


「オレの……可能性を……」


 *


光一つない暗闇の中に、玄曜は立っていた。


“まさか、貴方様にお会いできるとは”


声が、直接、玄曜の頭の中に響く。


「お前とは、初めて会うな」


“お会いできて嬉しゅうございます。

選途照心鏡せんとしょうしんきょうでございます、主上”


「もう一人、入っただろ。どこにいる?」


“近くにおられます”


「……アイツは、何をしている」


“可能性を、選ばれております”


「そうか……」


玄曜は一度、言葉を切った。


「……じん


腰から下げた双蝶巡縁佩そうちょうじゅんえんはいが揺れ、光る蝶が浮かび上がる。


阿桃あとうを。つがいを、探せ」


命じると、じんは玄曜の周囲を二度、ひらりと舞った。

そして導かれるように、暗闇の奥へと飛んでいく。


玄曜は、その後を追って歩き出した。

足音のない闇の中を、淡々と進む。


しばらくして、尋は再び玄曜の周囲を二度、ひらひらと舞った。

――近い。

阿桃あとう……流星が、近くにいる。


さらに進むと、暗闇の中に、ぽつり、ぽつりと光が現れ始めた。


星のような、淡い輝き。


(この輝きが……アイツの、可能性か)


光は次第に増え、やがて数え切れないほどの星となる。

その中心に、人影があった。


流星だ。


流星の前には、無数の可能性が、きらきらと輝いて浮かんでいた。


――街に戻り、穏やかに暮らす未来。

――後宮を離れ、自由に生きる未来。


どの未来の中でも、流星は笑っていた。

生き生きと、自由に、楽しそうに。


玄曜は、暗闇の中で立ち尽くしていた。


(……オレがいることで、こいつの世界を狭めてるのか)


――初めて、だった。


初めて、自分の中にある、独りよがりな流星への気持ちに

疑問を抱いた。


(……自分に、流星から、これほどの可能性を

奪えるものがあるのだろうか)


なぜ、こんなことを思ってしまったのか。


流星は、オレのものなのに。


玄曜は、そっと目を閉じた。


(流星なら……すぐに、掴んで出てくる)


そう自分に言い聞かせるようにして。


玄曜は一人、踵を返し、

再び暗闇の中――鏡の外を目指して歩き出した。



しばらくして、流星が鏡の中から飛び出してきた。


「玄曜!」


「お前……選んでこなかったのか?」


「探したけど、なかった!だから、出てきた!」


「……なかった?」


あれほど、無数にあったはずなのに。


「だってさ」

流星は屈託なく笑う。


「どれだけ探しても、玄曜がいなかったんだもん!」


その言葉と、その笑顔に。

玄曜は、何も返すことができなかった。


天青色てんせいしょくの瞳が、わずかに揺れる。

胸の奥が、波打つようにざわめいた。


――ああ。


玄曜は気づいた。

自分の中に、ずっとあったものが、ようやく形を成したことに。



その夜。


夜中に目を覚ました玄曜は、寝台に横になったまま、天井をぼんやりと見つめていた。


「……いつからだ?」


いつから、流星のことを――。


そっと目を閉じる。


出会ったばかりの頃。

下女失踪事件。

香を追って入り込んだ、地下。


そして――

あの地下で……

光に濡れ、涙をこぼしていた流星の姿。


(あの時からだ)


玄曜は、静かに息を吐いた。


「……そうか」


確信を得た玄曜は、ゆっくりと目を開く。


「ようやく、わかった」


自分の中にある、この感情が。

なぜ、こんなにも――コイツだけなのか。


玄曜は、隣ですやすやと眠る流星に視線を落とした。


穏やかな寝息。

無防備な寝顔。


「……絶対に、正妃にする」


それは誰に向けた言葉でもない。

ただ、自分自身に言い聞かせるように。


そう呟くと、玄曜は満足そうに、わずかに微笑んだ。

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。

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