第六話 「オレのものは、オレのもの」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
流星への独占欲と所有欲。
その根幹にある感情に、玄曜は確かに気づいた。
――それでも、玄曜は何も変わらない。
相変わらず朝は弱く、
世界が急にキラキラと輝き出すこともない。
いつだって、玄曜は玄曜なのだ。
「星鈴を正妃にする」
開口一番、それだった。
「ごふっ!!」
慎言は思わず咳き込んだ。
玄曜に仕えて早十三年。
多種多様な無茶振りに振り回されてきたが――
これは、その中でも群を抜いている。
(一番の無茶が来たな……)
「星鈴さんを……ですか?」
慎言の問いに、玄曜は言葉を返さない。
ただ、視線だけを向けてきた。
「彼女は、我々とは身分が違います」
慎言は、声を低く、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「後ろ盾のない後宮で……苦労されるのは……
玄曜様が、一番よくご存知のはずです」
「お母上と同じ道を、辿らせるおつもりですか?」
否定も肯定もない。
だが、その口調には揺るぎない意志だけが込められていた。
玄曜は表情を変えず、慎言を見つめている。
――ああ、これはもう駄目だ。
こうなった我が主人は、絶対に折れない。
慎言は、わざとらしく深いため息をついた。
「……星鈴さんには、言ったんですか?」
「言った」
即答だった。
(言ったんかい……)
慎言は思わず頭を抱える。
「星鈴さんは、何と?」
「意味分かって言ってるのか、って言われた」
「……ふふ」
思わず笑ってしまった。
そりゃそうだ。
承諾されるはずがない。
この方の、子供じみた独占欲と所有欲が、
ついに「正妃にする」にまで到達したのだから。
「好きなやつを正妃にして、何が悪いんだ」
ぶっきらぼうに、玄曜は言った。
――ん?
「!!!?」
慎言は慌てて口に手を当て、声が出そうになるのを必死で抑えた。
(静心,此事未合天命!!)
――心を静めよ。この事は、まだ天命にあらず。
心身を落ち着かせるため、何度も何度も、胸の内で唱える。
ついに……!!
いや、ようやく……!!?
やっと!!!?
気づいたか!!!!
「玄曜様……」
「なんだ?」
「星鈴様には……お気持ちは、伝えられたのですか?」
「その……玄曜様が星鈴さんへ
向けられている……好意を……」
「言う必要ないだろ」
即座に返ってきた。
「アイツは、オレのものなんだから」
何を当たり前のことを、という顔だった。
――ダ〜メだ、これは。
慎言は、ますます頭を抱えた。
本当に、この方は……。
(……子供なんだから)
*
慎言との話を終え、玄曜が回廊を歩いていた、その時だった。
すぐ近くから、聞き覚えのある笑い声が届く。
――星鈴だな。
そう思った瞬間、自然と足が向いていた。
中庭に、武官たちに囲まれている星鈴の姿を見つける。
やけに距離が近い。
そのうちの一人が、星鈴の肩に落ちた花弁を手で払った――
その瞬間。
――――イラァ……!!
玄曜の胸の奥で、ドス黒い嫉妬心が一気に燃え上がった。
「星鈴さん」
極めて静かな声で、玄曜は呼びかける。
「玄曜様!なにかご用でした?」
「はい。用があります。こちらへ」
にこり、と完璧な笑みを浮かべ、手を取る。
そしてそのまま、あっという間に人気のない場所へと連れて行った。
「……おい」
星鈴を壁際へ追い込み、ものすごい圧で迫る。
「なんだよ?」
「他の奴に、触らせるな」
「……はあ?」
「他の奴と、喋るな」
「無理だろ」
玄曜は、あからさまに不機嫌な顔も声も、隠そうとしない。
(なんなんだ?)
腹でも減ったのか。
仕方のない奴だな、と流星は内心で呆れる。
玄曜は変わらない。
いつだって、玄曜は玄曜なのだが――
彼の中で、大きく変わったものが一つある。
流星は
「オレのもの」から、
「オレの好きなもの」へと、格上げされた。
――そのせいで。
独占欲も、所有欲も、
見事に格上げされてしまったのである。
「ほら。腹減ってるなら、これやるから」
流星は袖の中から、揚げ菓子を取り出し、
そのまま玄曜の口に押し込んだ。
「美味いだろ? 今朝、作ったんだ」
にこっと、無邪気に笑う。
「…………」
「残りもやるから、機嫌なおせ」
残りの揚げ菓子の包みを玄曜の手に握らせ、
その手を、そっと包み込む。
「…………」
「今日の夜は、海老炒飯作ってやるからさ」
流星は玄曜を見上げて、ふふっと微笑んだ。
「…………わかった」
彼の中で、もう一つ。
大きく変わってしまったものがある。
それは。
流星の笑顔に、
ほんの少しだけ――弱くなってしまったことだった。
*
夜。寝台でくつろいでいた流星は、背後からふいに腕を回され、軽く引き寄せられた。
「げっ……玄曜……?」
驚いて身をよじると、腕が少しだけ強まった。
「ちょ、玄曜……!」
無理に抜け出そうとすると、低く息を吐かれる。
「動くな」
言葉は短いが、強くはない。
それでも距離が近すぎて、なんだか落ち着かない。
「……ふん」
玄曜は体勢を変え、流星を寝台に転がす。
覆い被さるほどではなく、すぐそばに膝をついて見下ろした。
「おい……玄曜……」
「流星……」
耳元で名を呼ばれ、吐息がかかる。
「明日」
「ん?」
「明日も、飯いる」
玄曜は、珍しく念を押すようにそう言った。
「わざわざ言わなくても作るけど?」
「……いいから」
「なんなんだよ」
意味がわからず抗議しようとした瞬間、
玄曜は後ろから、抱き枕のようにオレを包み込んだ。
「オレのものは、オレのものだ」
呟くように、玄曜はポツリと言った。
……しばらくして。
スゥスゥと、規則正しい寝息が、背後から聞こえてくる。
「……もう寝てるし」
流星は呆れたように呟いた。
(最近、ますます我儘な俺様になったなぁ…)
(なんでなんだろ??)
「ほんと……子供みたい」
わざわざ言わなくても作るのに。
その理由を…オレが知るのは翌日のことになる。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。
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