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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
最終章 「天命とか聞いてないんだが 」

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第四話 「測らなくていい相性」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

 早朝。

朝の仕事へ向かう人々で賑わう後宮の外れ――

書類の保管庫と会議室を兼ねた一室へ、

オレは呼び出されて向かっていた。


隣を歩いているのは玄曜げんようではない。

慎言しんげんさんだ。


「あの……私が呼ばれた理由って?」


そう尋ねると、慎言さんは歩調を崩さずに答える。


照縁算盤しょうえんさんばんが不調を起こしていまして」


相変わらず落ち着いた声。

手には書類の束、袖口はきっちり整っている。

まだ朝だというのに、身なりに一切の乱れがない。


照縁算盤しょうえんさんばん……。不調って……算盤が、ですか?」


「ええ。本来は婚姻や養子縁組、同盟判断など、

政務用に使われているものです。

人と人との縁、相性、未来の安定度を数値化する

龍霊雨器りゅいれいうきですね」


「へぇ……!

後宮って、本当にいろんな龍霊雨器がいるんですね」


「そうですね。その照縁算盤が、今朝から“勝手に相性を測り始める”という

報告が上がりまして。急遽、星鈴さんをお呼びしました」


「勝手に……相性を」


「後宮内で無差別に測定を始めれば、混乱の元になります。

早急に原因を突き止めなければなりません」


――オレの相性を測られたら、どうなるんだろう。


もし、

オレと玄曜の相性を測って……

数字が低かったら……。


想像しただけで、胸の奥が少し沈んだ。


「……はぁ」


小さくため息が漏れる。

扉に伸ばした手が、妙に重たい。


その様子に気づいたのか、慎言さんは何でもないことのように、先に扉へ手をかけた。


「大丈夫ですよ、星鈴さん」


「え……?」


「どんな結果が出ても、それは“可能性”に過ぎません。

強制されるものではありませんから」


穏やかな声だった。


その一言に、オレはようやく少しだけ肩の力を抜いた。



部屋に入ると、中央の作業台の机に小ぶりな算盤が置かれていた。

算盤の玉は忙しなく揺れ、

パチパチパチパチ!

と、休む間もなく弾かれ続けている。


慎言は部屋を一望し、短く頷いた。


「なるほど」


「この前、配置換えの報告がありましたからね」


そう静かに呟く。


「……なにか、わかったんですか?」


「おそらく、部屋の配置換えで日当たりの時間が増えたのでしょう」


「ここ数日、雨続きで蒸し暑かったですし。

照縁算盤しょうえんさんばんは素材的に、高温多湿を嫌いますから」


確かに、部屋の中は少し蒸し暑い。


「つまり――」


慎言は淡々と結論を告げた。


「……熱中症ですね」


「えっ!!?ね、熱中症!?」


オレは思わず算盤にそっと触れた。


“フゥフゥ……”

苦しそうな声が聞こえてくる。

“あ……暑い……”


「暑さで、暴走してたってこと!?」


「おそらく……」


オレたちは急いで算盤を涼しい場所へ移し、日の光が直接当たらないよう棚の配置を変えた。


“助かった〜……”


「よかった!」


「ひとまず安心ですね」


慎言さんは穏やかに微笑んだ。


「慎言さんって……ほんとすごいですね。

部屋に入ってすぐ原因がわかるなんて……」


思わず漏れた本音だった。


「いえ、職務ですから」


なんでもない、という顔で慎言は言う。


この部屋に来るまでの間にも、他の文官たちから何件も相談を受けていたし……。


玄曜と違って裏表なしの爽やかお兄さん。

仕事もできて、家事もできて、

常識人で、話も通じて、

優しくて、頼りになって、

エリートで……給料もきっといい。


「落ち着いてて、優しくて、頭も良くて……女子からすれば、

めちゃくちゃ理想の結婚相手ですよね!」


慎言さんとの相性を測りたい女の人、たくさんいるんだろうな。


「ははは。とんでもない」


慎言は爽やかに笑った。


「結婚するなら……慎言さんみたいな人がいいなぁ〜!」


オレは冗談っぽく笑って言う。


「それはそれは。大変光栄なお話で」


慎言さんも、冗談だと受け取り軽く返した。


――だが、その次の瞬間。


ガンッ!!


背後で、乱暴に扉が開く音が響いた。


「おい……」


聞こえた声に、慎言さんとオレは同時に背筋を凍らせた。


よりによって――

冗談を冗談で受け取れない男、

玄曜に、聞かれてしまった。


顔全体で「最高に不機嫌だ」と主張している。


「……今、なんて言った?」


おい!

素が出てるぞ!玄曜!!


オレは慌てて周囲を見渡す。

……誰もいなくてよかった。


「玄曜様!!

た、例えばの話です!もしも!の話です!!

現実的に起こり得ない話です!!」


慎言は冷静に、しかし全力で訂正した。


「玄曜、冗談に決まってるだろ」


オレも小声で耳打ちする。


玄曜は不機嫌そうにオレを横目で一瞥すると、照縁算盤に向き直った。


「照縁算盤。

こいつらの相性を出せ」


“ええ〜?

今日はもう疲れて――ぐっ!!!”


玄曜は照縁算盤をガッ!!!!と掴んだ。


「早くやれ」


圧がすごい。


“は、はいっ!!”


……完全に八つ当たりされてる。

なんか、ごめん。


“お二人の相性は〜

『安定・平和・協力』で最高値でございま〜す!”


“均衡も取れ、お互いを支え合える、素晴らしい相性でございま〜す!”


「へえ!そうなんだ!」


それは素直に嬉しい。


「は、ははは……」


慎言は玄曜を横目に見ながら、ぎこちなく笑った。


「次はコイツとオレの相性を見ろ」


玄曜は自分とオレを指差す。

 

「ええ!!?」オレと玄曜の!?

 

“えっ!!?”


「誤作動は許さねぇ」


声が、やけに低い。


“ひえぇっ……!い、いきますよ〜!”


“お二人の相性は〜

『破滅的・波乱・国家規模』で最高値でございま〜す!”


……ん?

それって、いいの?


「さっきの相性と、どっちが上だ」


“ひえっ!

どちらかと言われますと……

貴方様との方が、桁違いに上でございます”


「なら、いい」


玄曜は満足そうに、ニヤリと笑った。


……あ、いいんだ。


玄曜が単純で、ほんと助かった。



その日の夜。


なぜか玄曜から、「今日からこっちで寝ろ」

と、一方的に告げられ…。

拒否する間もなく、玄曜の寝台へ引きずられるように連れてこられてしまった。


オレを後ろから抱きしめた玄曜は、あっという間に眠りに落ちている。


(……なんでだよ)


抱き枕代わりだとでも思っているのか?


背中越しに、玄曜の体温がじんわりと伝わってくる。

スゥスゥと規則正しい寝息がオレの耳元で優しく聞こえる。

「うぅ―……」


(人の気持ちも知らないで……)


身じろぎしても、玄曜の腕は緩まない。

むしろ、無意識に引き寄せられた気がする。


それにしても――


「破滅的・波乱・国家規模」で、最高値って……。

本当に……オレたち、相性いいのかなぁ……。


そう思いながら、

逃げ場のない腕の中で、そっとため息をついた。

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。

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