第四話 「測らなくていい相性」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
早朝。
朝の仕事へ向かう人々で賑わう後宮の外れ――
書類の保管庫と会議室を兼ねた一室へ、
オレは呼び出されて向かっていた。
隣を歩いているのは玄曜ではない。
慎言さんだ。
「あの……私が呼ばれた理由って?」
そう尋ねると、慎言さんは歩調を崩さずに答える。
「照縁算盤が不調を起こしていまして」
相変わらず落ち着いた声。
手には書類の束、袖口はきっちり整っている。
まだ朝だというのに、身なりに一切の乱れがない。
「照縁算盤……。不調って……算盤が、ですか?」
「ええ。本来は婚姻や養子縁組、同盟判断など、
政務用に使われているものです。
人と人との縁、相性、未来の安定度を数値化する
龍霊雨器ですね」
「へぇ……!
後宮って、本当にいろんな龍霊雨器がいるんですね」
「そうですね。その照縁算盤が、今朝から“勝手に相性を測り始める”という
報告が上がりまして。急遽、星鈴さんをお呼びしました」
「勝手に……相性を」
「後宮内で無差別に測定を始めれば、混乱の元になります。
早急に原因を突き止めなければなりません」
――オレの相性を測られたら、どうなるんだろう。
もし、
オレと玄曜の相性を測って……
数字が低かったら……。
想像しただけで、胸の奥が少し沈んだ。
「……はぁ」
小さくため息が漏れる。
扉に伸ばした手が、妙に重たい。
その様子に気づいたのか、慎言さんは何でもないことのように、先に扉へ手をかけた。
「大丈夫ですよ、星鈴さん」
「え……?」
「どんな結果が出ても、それは“可能性”に過ぎません。
強制されるものではありませんから」
穏やかな声だった。
その一言に、オレはようやく少しだけ肩の力を抜いた。
*
部屋に入ると、中央の作業台の机に小ぶりな算盤が置かれていた。
算盤の玉は忙しなく揺れ、
パチパチパチパチ!
と、休む間もなく弾かれ続けている。
慎言は部屋を一望し、短く頷いた。
「なるほど」
「この前、配置換えの報告がありましたからね」
そう静かに呟く。
「……なにか、わかったんですか?」
「おそらく、部屋の配置換えで日当たりの時間が増えたのでしょう」
「ここ数日、雨続きで蒸し暑かったですし。
照縁算盤は素材的に、高温多湿を嫌いますから」
確かに、部屋の中は少し蒸し暑い。
「つまり――」
慎言は淡々と結論を告げた。
「……熱中症ですね」
「えっ!!?ね、熱中症!?」
オレは思わず算盤にそっと触れた。
“フゥフゥ……”
苦しそうな声が聞こえてくる。
“あ……暑い……”
「暑さで、暴走してたってこと!?」
「おそらく……」
オレたちは急いで算盤を涼しい場所へ移し、日の光が直接当たらないよう棚の配置を変えた。
“助かった〜……”
「よかった!」
「ひとまず安心ですね」
慎言さんは穏やかに微笑んだ。
「慎言さんって……ほんとすごいですね。
部屋に入ってすぐ原因がわかるなんて……」
思わず漏れた本音だった。
「いえ、職務ですから」
なんでもない、という顔で慎言は言う。
この部屋に来るまでの間にも、他の文官たちから何件も相談を受けていたし……。
玄曜と違って裏表なしの爽やかお兄さん。
仕事もできて、家事もできて、
常識人で、話も通じて、
優しくて、頼りになって、
エリートで……給料もきっといい。
「落ち着いてて、優しくて、頭も良くて……女子からすれば、
めちゃくちゃ理想の結婚相手ですよね!」
慎言さんとの相性を測りたい女の人、たくさんいるんだろうな。
「ははは。とんでもない」
慎言は爽やかに笑った。
「結婚するなら……慎言さんみたいな人がいいなぁ〜!」
オレは冗談っぽく笑って言う。
「それはそれは。大変光栄なお話で」
慎言さんも、冗談だと受け取り軽く返した。
――だが、その次の瞬間。
ガンッ!!
背後で、乱暴に扉が開く音が響いた。
「おい……」
聞こえた声に、慎言さんとオレは同時に背筋を凍らせた。
よりによって――
冗談を冗談で受け取れない男、
玄曜に、聞かれてしまった。
顔全体で「最高に不機嫌だ」と主張している。
「……今、なんて言った?」
おい!
素が出てるぞ!玄曜!!
オレは慌てて周囲を見渡す。
……誰もいなくてよかった。
「玄曜様!!
た、例えばの話です!もしも!の話です!!
現実的に起こり得ない話です!!」
慎言は冷静に、しかし全力で訂正した。
「玄曜、冗談に決まってるだろ」
オレも小声で耳打ちする。
玄曜は不機嫌そうにオレを横目で一瞥すると、照縁算盤に向き直った。
「照縁算盤。
こいつらの相性を出せ」
“ええ〜?
今日はもう疲れて――ぐっ!!!”
玄曜は照縁算盤をガッ!!!!と掴んだ。
「早くやれ」
圧がすごい。
“は、はいっ!!”
……完全に八つ当たりされてる。
なんか、ごめん。
“お二人の相性は〜
『安定・平和・協力』で最高値でございま〜す!”
“均衡も取れ、お互いを支え合える、素晴らしい相性でございま〜す!”
「へえ!そうなんだ!」
それは素直に嬉しい。
「は、ははは……」
慎言は玄曜を横目に見ながら、ぎこちなく笑った。
「次はコイツとオレの相性を見ろ」
玄曜は自分とオレを指差す。
「ええ!!?」オレと玄曜の!?
“えっ!!?”
「誤作動は許さねぇ」
声が、やけに低い。
“ひえぇっ……!い、いきますよ〜!”
“お二人の相性は〜
『破滅的・波乱・国家規模』で最高値でございま〜す!”
……ん?
それって、いいの?
「さっきの相性と、どっちが上だ」
“ひえっ!
どちらかと言われますと……
貴方様との方が、桁違いに上でございます”
「なら、いい」
玄曜は満足そうに、ニヤリと笑った。
……あ、いいんだ。
玄曜が単純で、ほんと助かった。
*
その日の夜。
なぜか玄曜から、「今日からこっちで寝ろ」
と、一方的に告げられ…。
拒否する間もなく、玄曜の寝台へ引きずられるように連れてこられてしまった。
オレを後ろから抱きしめた玄曜は、あっという間に眠りに落ちている。
(……なんでだよ)
抱き枕代わりだとでも思っているのか?
背中越しに、玄曜の体温がじんわりと伝わってくる。
スゥスゥと規則正しい寝息がオレの耳元で優しく聞こえる。
「うぅ―……」
(人の気持ちも知らないで……)
身じろぎしても、玄曜の腕は緩まない。
むしろ、無意識に引き寄せられた気がする。
それにしても――
「破滅的・波乱・国家規模」で、最高値って……。
本当に……オレたち、相性いいのかなぁ……。
そう思いながら、
逃げ場のない腕の中で、そっとため息をついた。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
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