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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第四章 「運命が、オレの許可なく走り出す」

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第十一話 「理想の未来 後編」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

 玄曜げんようの首から下げられた、対の燕帰守環えんきしゅかんがきらりと光った。


「……発動したか」


絵巻の中で、何かが起きている。


玄曜は広げられた幻世絵巻げんせいえまきに向かって、

ぶっきらぼうに声を投げる。


「おい。そいつに手を出すな」


“キッヒッヒ……!!”


幻世絵巻げんせいえまきが、高らかな笑い声を上げた。

絵巻が大きく波打ち、部屋全体が揺れる。


“今頃、あの子は私の幻の中に沈んでいるよ……!!”


“ようやく地下から出られた! 久しぶりに、人も喰えた!”


“さあ!さあ!お前にも、望む未来を与えてやる!”


絵巻が大きくうねり、霧のような気配が玄曜を取り囲む。


だが――玄曜は、表情ひとつ変えなかった。


「効かねぇよ」


“……なに?”


「悪意や敵意といった龍霊雨器の能力は、オレには効かない」


“なんだと!? なぜだ!?

 お前は……人間だろう!?”


玄曜の天青色てんせいしょくの瞳が、静かに揺らめく。


玄曜が絵巻に向かって手をかざすと、

描かれていた世界が、触れた先から波打ち

――消えていった。


最初から、存在しなかったかのように。


“……ひっ!?”


幻世絵巻げんせいえまきは、初めて“恐怖”を覚えた。


人間相手に、これほどの恐怖を抱いたことはない。

自分の存在そのものが、削り取られていく感覚。


“な、なんだ……お前の力は……!!”


「オレは、呪われてるんだよ」


“やめろ!! やめてくれ!!”


「お前は、人間を喰いすぎた」


“やめろ!!! 頼む!!!”


玄曜は、ただ静かに幻世絵巻げんせいえまきを見つめていた。


――この力のせいで、与えられた未来しか選べない。

この後宮から出ることなく、

与えられた未来を生きるしかない。


……こんな力が、あるせいで。


玄曜は迷いなく、絵巻へと手を伸ばした。


その手は、幻世絵巻げんせいえまきの中へと、溶け込んでいく。



「うわっ!」


地面がぐらりと揺れ、

周囲の景色が、次々と剥がれ落ちていく。


「なに……!?」


目の前の幻が、崩れ、消えていく。


――誰が、こんなことを。


「……そんなこと、できるヤツ」


なぜか、オレは確信した。


玄曜しかいない。


景色も人も、すべてが無へと崩れていく。


「行かなくちゃ!!」


世界が、まだ残っている方へ。


流星は走り出した。


崩れゆく空間の中、一本の道が現れる。


迷わず、駆け抜ける。


――この先に、きっと。


“飲み込まれるぞ”

“戻れなくなる”

“選ぶべきじゃない”

 

あちこちから声がする。

構わない。


だって、この先に――


道が途切れる。


流星は足を止めず、そのまま飛び込んだ。


暗闇に向かって、思いきり腕を伸ばす。


――その手を、誰かが掴んだ。


一気に、身体が引き寄せられる。


目の前の闇が、

ガラスが割れるように砕け散った。


その先に――


「玄曜!!」


勢いのまま、流星は玄曜に飛びついた。


「帰ってきた!!!」


「いって! クソ! なんだよ!!」


「本物だぁー!!」


この、ぶっきらぼうな感じ。

間違いない。


流星は目を輝かせ、玄曜の両手を掴んだ。


「はあ?」


何言ってんだ、という顔で見下ろす玄曜。


「玄曜だぁー!!

 やっぱり、こうでなくちゃ!」


真っ白になった幻世絵巻げんせいえまきの周囲には、

多くの人々が倒れ込んでいた。


――きっと、この屋敷の人たちだ。


「ただいま!」


流星が、にこっと笑う。


玄曜は、呆れたように視線を逸らし、


「……ああ」


ぶっきらぼうに、そう返した。



「いやぁ〜!大変だったあぁ〜!」


オレは軽く背伸びをしながら、玄曜と並んで歩く。


元に戻った屋敷の人たちは、慎言さんが対応してくれていた。

気づけば文官たちが集まり、手際よく動いている。


……本当に、慎言さんって有能だ。


あたりはすっかり暗くなり、

通り道を照らすのは灯籠の橙色の灯りだけ。


燕栖えんせいがいて、めちゃくちゃ助かった!

双燕守環そうえんしゅかんの守護、すごいな!」


「……そうだな」


……なんか。

玄曜、機嫌悪いな。


幻世絵巻げんせいえまきと、何かあったのかな。


少し前を歩く玄曜の背中を見ながら、

さっき幻の中で見た“玄曜”を思い出す。


幻世絵巻げんせいえまきの中でさ……

幻を見てたんだけど。オレの望む未来とは、

ちょっと違った」


「オマエの望む未来なんて、大したもんじゃねぇだろ」


玄曜は振り向きもせず、ぶっきらぼうに言う。


「酷っ!」

オレも、ついぶっきらぼうに返した。


「じゃあ玄曜は?

 玄曜の望む未来って、なんなの?」


「ねぇよ。そんなもん」


「なりたいものとか、やりたいことは?」


「あるわけないだろ」


ますます不機嫌そうな声。


……意外だ。


玄曜ほど顔も良くて、頭も良くて、

何でもできそうなヤツが、“何もない”なんて。


そのとき、気づいたら――

オレの口は、自然に動いていた。


「それならさ!オレの後宮勤めが終わったら、

オレの家に……白家はくけに来ればいいじゃん!」


玄曜の足が、ぴたりと止まる。


「家業はなくなっちゃったから、別の仕事始めないとだけど……。

あ! 海老ワンタン麺屋とか、いいかも!」


「オレが厨房で、玄曜は外面いいから接客で……。

それだと、忙しくなりそうだな」


でも――いいな。

きっと楽しい未来。


ふと気づくと、玄曜が振り向いていた。


その表情を見た瞬間、

オレは、息が詰まりそうになる。


「……玄曜?」


なんで。

そんな、泣きそうな顔してるんだよ。


“やるわけないだろ。バカ”

って言ってくれないと。


気まずくなって、思わず顔をそらす。

何か言わなきゃ、と焦るのに、言葉が出てこない。


玄曜は、しばらくオレを見つめていた。


そして――信じられない、というように。


「……オマエの望む未来に、オレがいるのか?」


小さく、そう呟いた。


「――そうだよ」

そう言おうとした、そのとき。

橙色の灯りが、あちこちから浮かび上がった。


「……何?」


「今日は、天燈てんとう上げの日だったな……」


「わあ……」


オレは玄曜と並んで、空を見上げる。


後宮のあちこちから、天燈てんとうが夜空へと昇っていく。

真っ暗な空を、橙色の灯りが照らし、

まるで天の川みたいだった。


「間に合えば、上げられるぞ」


夢中で空を見つめるオレに、玄曜は呆れたように言う。


「えっ! やりたい!!」


「あっちだ」


玄曜が指をさす。

どうやら、近くでやっているらしい。


「行こう! 早く!」


オレは玄曜の手を引いて、歩き出した。


――さっき、言えばよかったな。


恥ずかしくて、飲み込んでしまった言葉。


“オマエの望む未来に、オレがいるのか?”


――そうだよ。


でも、オレが望む未来じゃなくて。


オレと玄曜が、望む未来で――一緒にいたいんだよ。


 

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。

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