第十一話 「理想の未来 後編」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
玄曜の首から下げられた、対の燕帰守環がきらりと光った。
「……発動したか」
絵巻の中で、何かが起きている。
玄曜は広げられた幻世絵巻に向かって、
ぶっきらぼうに声を投げる。
「おい。そいつに手を出すな」
“キッヒッヒ……!!”
幻世絵巻が、高らかな笑い声を上げた。
絵巻が大きく波打ち、部屋全体が揺れる。
“今頃、あの子は私の幻の中に沈んでいるよ……!!”
“ようやく地下から出られた! 久しぶりに、人も喰えた!”
“さあ!さあ!お前にも、望む未来を与えてやる!”
絵巻が大きくうねり、霧のような気配が玄曜を取り囲む。
だが――玄曜は、表情ひとつ変えなかった。
「効かねぇよ」
“……なに?”
「悪意や敵意といった龍霊雨器の能力は、オレには効かない」
“なんだと!? なぜだ!?
お前は……人間だろう!?”
玄曜の天青色の瞳が、静かに揺らめく。
玄曜が絵巻に向かって手をかざすと、
描かれていた世界が、触れた先から波打ち
――消えていった。
最初から、存在しなかったかのように。
“……ひっ!?”
幻世絵巻は、初めて“恐怖”を覚えた。
人間相手に、これほどの恐怖を抱いたことはない。
自分の存在そのものが、削り取られていく感覚。
“な、なんだ……お前の力は……!!”
「オレは、呪われてるんだよ」
“やめろ!! やめてくれ!!”
「お前は、人間を喰いすぎた」
“やめろ!!! 頼む!!!”
玄曜は、ただ静かに幻世絵巻を見つめていた。
――この力のせいで、与えられた未来しか選べない。
この後宮から出ることなく、
与えられた未来を生きるしかない。
……こんな力が、あるせいで。
玄曜は迷いなく、絵巻へと手を伸ばした。
その手は、幻世絵巻の中へと、溶け込んでいく。
*
「うわっ!」
地面がぐらりと揺れ、
周囲の景色が、次々と剥がれ落ちていく。
「なに……!?」
目の前の幻が、崩れ、消えていく。
――誰が、こんなことを。
「……そんなこと、できるヤツ」
なぜか、オレは確信した。
玄曜しかいない。
景色も人も、すべてが無へと崩れていく。
「行かなくちゃ!!」
世界が、まだ残っている方へ。
流星は走り出した。
崩れゆく空間の中、一本の道が現れる。
迷わず、駆け抜ける。
――この先に、きっと。
“飲み込まれるぞ”
“戻れなくなる”
“選ぶべきじゃない”
あちこちから声がする。
構わない。
だって、この先に――
道が途切れる。
流星は足を止めず、そのまま飛び込んだ。
暗闇に向かって、思いきり腕を伸ばす。
――その手を、誰かが掴んだ。
一気に、身体が引き寄せられる。
目の前の闇が、
ガラスが割れるように砕け散った。
その先に――
「玄曜!!」
勢いのまま、流星は玄曜に飛びついた。
「帰ってきた!!!」
「いって! クソ! なんだよ!!」
「本物だぁー!!」
この、ぶっきらぼうな感じ。
間違いない。
流星は目を輝かせ、玄曜の両手を掴んだ。
「はあ?」
何言ってんだ、という顔で見下ろす玄曜。
「玄曜だぁー!!
やっぱり、こうでなくちゃ!」
真っ白になった幻世絵巻の周囲には、
多くの人々が倒れ込んでいた。
――きっと、この屋敷の人たちだ。
「ただいま!」
流星が、にこっと笑う。
玄曜は、呆れたように視線を逸らし、
「……ああ」
ぶっきらぼうに、そう返した。
*
「いやぁ〜!大変だったあぁ〜!」
オレは軽く背伸びをしながら、玄曜と並んで歩く。
元に戻った屋敷の人たちは、慎言さんが対応してくれていた。
気づけば文官たちが集まり、手際よく動いている。
……本当に、慎言さんって有能だ。
あたりはすっかり暗くなり、
通り道を照らすのは灯籠の橙色の灯りだけ。
「燕栖がいて、めちゃくちゃ助かった!
双燕守環の守護、すごいな!」
「……そうだな」
……なんか。
玄曜、機嫌悪いな。
幻世絵巻と、何かあったのかな。
少し前を歩く玄曜の背中を見ながら、
さっき幻の中で見た“玄曜”を思い出す。
「幻世絵巻の中でさ……
幻を見てたんだけど。オレの望む未来とは、
ちょっと違った」
「オマエの望む未来なんて、大したもんじゃねぇだろ」
玄曜は振り向きもせず、ぶっきらぼうに言う。
「酷っ!」
オレも、ついぶっきらぼうに返した。
「じゃあ玄曜は?
玄曜の望む未来って、なんなの?」
「ねぇよ。そんなもん」
「なりたいものとか、やりたいことは?」
「あるわけないだろ」
ますます不機嫌そうな声。
……意外だ。
玄曜ほど顔も良くて、頭も良くて、
何でもできそうなヤツが、“何もない”なんて。
そのとき、気づいたら――
オレの口は、自然に動いていた。
「それならさ!オレの後宮勤めが終わったら、
オレの家に……白家に来ればいいじゃん!」
玄曜の足が、ぴたりと止まる。
「家業はなくなっちゃったから、別の仕事始めないとだけど……。
あ! 海老ワンタン麺屋とか、いいかも!」
「オレが厨房で、玄曜は外面いいから接客で……。
それだと、忙しくなりそうだな」
でも――いいな。
きっと楽しい未来。
ふと気づくと、玄曜が振り向いていた。
その表情を見た瞬間、
オレは、息が詰まりそうになる。
「……玄曜?」
なんで。
そんな、泣きそうな顔してるんだよ。
“やるわけないだろ。バカ”
って言ってくれないと。
気まずくなって、思わず顔をそらす。
何か言わなきゃ、と焦るのに、言葉が出てこない。
玄曜は、しばらくオレを見つめていた。
そして――信じられない、というように。
「……オマエの望む未来に、オレがいるのか?」
小さく、そう呟いた。
「――そうだよ」
そう言おうとした、そのとき。
橙色の灯りが、あちこちから浮かび上がった。
「……何?」
「今日は、天燈上げの日だったな……」
「わあ……」
オレは玄曜と並んで、空を見上げる。
後宮のあちこちから、天燈が夜空へと昇っていく。
真っ暗な空を、橙色の灯りが照らし、
まるで天の川みたいだった。
「間に合えば、上げられるぞ」
夢中で空を見つめるオレに、玄曜は呆れたように言う。
「えっ! やりたい!!」
「あっちだ」
玄曜が指をさす。
どうやら、近くでやっているらしい。
「行こう! 早く!」
オレは玄曜の手を引いて、歩き出した。
――さっき、言えばよかったな。
恥ずかしくて、飲み込んでしまった言葉。
“オマエの望む未来に、オレがいるのか?”
――そうだよ。
でも、オレが望む未来じゃなくて。
オレと玄曜が、望む未来で――一緒にいたいんだよ。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。
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