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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第四章 「運命が、オレの許可なく走り出す」

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第十話 「理想の未来 前編」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

「緊急です」


そう言われて、オレと玄曜げんよう慎言しんげんさんに呼び出され、

ある宦官一族の屋敷へと向かった。


屋敷は、異様なほど静まり返っていた。

人の気配が、まるでない。


「……屋敷の人は、どこへ?」


慎言さんはそっと息を殺し、小さく囁いた。


「説明いたします。こちらへ」



オレと玄曜は、屋敷の大広間へと通された。


広間いっぱいに広げられた、一本の長い絵巻。

そこには後宮の姿が、異様なほど鮮やかに描かれていた。


「この絵……後宮?」

 

人の姿も数え切れないほどあった。


「すごい……生きてるみたい」


まるで、絵巻の中にもう一つの後宮が存在しているかのようだ。


慎言が静かに告げる。


「――『万景繋縁幻世絵巻ばんけいけいえんげんせいえまき』。龍霊雨器りゅうれいうきです」


「龍霊雨器!?」


思わず声が出た。


「なぜ、これがこの屋敷にある?

 保管されていたはずだろ」


玄曜が口を開く。

その声音には、わずかな苛立ちが滲んでいた。


「はい。この絵巻は長年、後宮地下の保管庫に

収められていたと聞いております」


慎言は言いにくそうに続ける。


「先日、この幻世絵巻げんせいえまきの話を、屋敷の主人が

大層気に入り……手に入れた、と」


「……なるほど」


玄曜が吐き捨てるように言った。


この反応を見るに、相当な権力を持つ宦官一族なのだろう。

龍霊雨器の所有は、家の格を大きく引き上げる。

手に入るのなら、これ以上ない名誉だ。


「手に入れたのは、三日前と聞いております」

慎言は一拍置いてから言った。

「その直後、所有者一族が……全員、姿を消しました」


「消えた……?」


屋敷の人間、全員が?


「この絵巻は、人を取り込み増えていく性質を持つ龍霊雨器です」

慎言の声は低い。


「約百二十年前、極めて危険と判断され、地下に封じられたと……」


「じゃあ……屋敷の人たちは、みんなこの絵巻の中に?」


「…………めんどくせぇな」


玄曜が、露骨に不機嫌そうに呟いた。


「でも……どうやって助け出すんですか?」


人数も相当いるはずだ。

龍霊雨器に、直接頼む……?


オレは、そっと絵巻を覗き込む。


よく見ると、絵の中では風が吹き、木々が揺れ、雲が流れていた。

人々は歩き、談笑し、誰もが――幸せそうに笑っている。


(……みんな、嬉しそうだ)


気づけば、オレは絵巻に手を伸ばしていた。


その瞬間。


オレの身体は、霧のように掻き消えた。


「あのクソバカ……!!!」


「星鈴さん!!!」


慎言は顔を青ざめ、思わず胃を押さえる。


「あはは……取り込まれてしまいましたね……」


ちらりと横目で玄曜を見る。


――最高潮に、不機嫌だ。


慎言の胃は、きりきりと音を立てていた。


「……中に取り込まれた奴は、どうなる」


玄曜が静かに問う。

その落ち着きが、かえって怖い。


「絵巻の世界で……望むままの未来を過ごせる…

そう言い伝えられております」


「望むままの……未来?」


流星アイツの――?



――ようこそ。ようこそ。


ここなら、何もかも思い通り。

貴方の思い描く世界で、

望む未来を、生き続けられますよ。


朗らかな声が、頭の中に直接響き渡る。


――どういう、こと……?


はっと目を開けると、そこは離れの自分の部屋だった。


「あれ……?」


寝台から身を起こす。

見慣れた天井、見慣れた調度品。

いつもの朝。変わらない一日の始まり。


「……夢、だったのかな」


身支度を整えて一階へ降りると、玄曜がお茶を淹れていた。


「……玄曜?」


珍しい。朝から、やけにきちんとしている。


オレが作った朝食を、オレと玄曜で向かい合って食べる。


「今日は、上位官僚の屋敷に行く」

玄曜が言った。

「龍霊雨器で、また揉めてるらしい」


「そうなんだ!どんな龍霊雨器なんだろう」


「さあな」


ぶっきらぼうに言いながら、空になった椀を差し出してくる。


「ちゃんと『おかわりください』って言え」


「……ふん」


仕方ないな、と笑いながら椀を受け取る。


――何気ないやりとり。

こんな日々が、ずっと続けばいいのになぁ。



依頼主の屋敷へ向かい、玄曜と並んで歩く。


日差しは暖かく、風は穏やか。

すれ違う人たちも、皆笑顔だ。


なんて、平和なんだろう。


「いい天気〜!」


伸びをしながら歩き、少し前を行く玄曜の背中を見ると、

自然と頬が緩む。

 

今日は玄曜、仕事はないのかな。

夜ご飯は何にしよう。

この前おかわりしてた炒飯にしようかな。

時間があったら甘味も作ろう。

胡桃のお菓子にも挑戦してみようかな……。


幸せだなぁ。


本当に、幸せだと思う。


――でも、何かが決定的に違う。

 

ふいに、足が止まった。


「おい」

玄曜がぶっきらぼうに振り返る。


「何やってんだ?」


「……なんか、違う」


「は?」


「なあ」

オレは、玄曜をまっすぐ見据えた。


「……アンタ、玄曜じゃないだろ」


空気が変わる。


玄曜が、ゆっくりと目を合わせる。

オレは静かに身構えた。


「何言ってんだ?」


低く、無愛想な声。


「アンタ龍霊雨器だろ。気配でわかる」


「……だから?」


「?」


「何が不満だ?」


玄曜の姿をした“それ”が、静かに言う。


「ここは、オマエが望んだ理想の世界。

オマエが思い描いた未来だ」


「ここでなら、ずっと一緒にいられる」


胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。


「……ずっと、オレの側にいたいんだろ?」


「玄曜……」


「オマエの想いだって……オレなら、受け入れられる」

「ここでなら、な」


「……絶対、嫌だ」


オレがそう言った瞬間。


玄曜の姿をした“何か”が、どろりと溶け落ちた。


それは矢の形へと変わり、

一斉にオレへと襲いかかる!


その瞬間。


左薬指の指輪が、きらりと光った。


――双燕守環そうえんしゅかんが発動し、

オレの周囲に陣が張られ、

化け物の攻撃を――バチィッ!! と弾き飛ばす。


燕栖えんせい!!」


さすが、防御と守護の龍霊雨器。


曖昧だった記憶が、一気に蘇る。


――そうだ。

オレ、絵巻の龍霊雨器に取り込まれたんだ……!


“なんなんだ、お前は!!

 なぜ、私の幻を見破った!”


「わかるに決まってるだろ!」


オレは叫ぶ。


「無愛想さのクオリティが低いんだよ!!」

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。

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