第九話 「お前は誰のものなんだ」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
「わっ! 何!?」
思わず声を上げると、文官の作業部屋の中を、
何かがぴょんぴょん跳ね回っていた。
目の前に、ぴょんっと現れたそれを見て――
「……蛙っ!?」
蛙の文鎮はケロケロッと鳴くと、また部屋の中を跳ね回る。
「なんでこんなことに……?」
「わ、私の私物の文鎮なのですがっ! 急に動き出して……!」
若い文官が、今にも泣き出しそうな顔で、オレと玄曜を出迎えた。
「蛙の文鎮!?」
見た目はただの文鎮なのに、動きは本物の蛙そのものだ。
「とりあえず、動きを止めないと……!」
「仕方ないですね」
玄曜はそう言うと、手にしていた書物で、蛙の文鎮をパシッと弾いた。
そのまま机の上に押し付け、動きを封じる。
「星鈴さん」
玄曜が書物を素早くどけた、その瞬間――
「えいっ!」
オレは文鎮を両手で包み込んだ。
手のひらから、思念のようなものが流れ込んでくる。
『比べられるのが……嫌だった……』
『自分が劣っている気がして……』
誰かの声が、頭の中に響く。
「あれ? でも、これ……」
龍霊雨器の記憶じゃない。
……もしかして。
「教えようとしてくれたの?」
蛙の文鎮にそっと囁くと、ケロッと鳴き、元の文鎮の姿へと戻った。
*
「……あなたの記憶だったんですね」
星鈴は、文鎮の持ち主の文官に、優しく声をかけた。
「ご迷惑をおかけしました……」
文官は深く頭を下げる。
「最近、自分より後に入った文官に先を越されて……。うまくいかないことが続いて……」
「気持ちが抑えきれなくなっていました……」
きっと、文官の強い焦燥が、蛙の文鎮に宿る龍霊雨器と共鳴したのだろう。
「悔しいって思うの、悪いことじゃないですよ」
星鈴は蛙の文鎮を、文官の手にそっと戻した。
「ちゃんと悔しがれる人の方が、前に進めると思います」
その言葉に、文官は静かに頷いた。
「玄曜様……申し訳ありませんでした。どんな処罰も受けます」
「今回は被害もありません。処罰はありませんし、
あなたは十分優秀な文官ですよ」
玄曜は淡々とそう告げた。
……が。
文官が、いつまでも星鈴の手を握ったままなので、玄曜の表情が
露骨に不機嫌になっていた。
*
「……おい」
「ん?」
「誰にでも、そんな顔するな」
「そんな顔?」
「……あと、手も握るな」
「?」
「勘違いする奴がいるだろ」
「何言ってんの?」
「お前は、誰のものなんだ」
「……はあ〜!」
オレは腕を組み、わざと不機嫌そうに玄曜を見る。
玄曜はというと、オレ以上に不機嫌な顔をしていた。
本当、子供みたいだ。
「はいはい、わかりましたよ」
オレは、まるで玄曜みたいに、ぶっきらぼうに言ってやる。
「誰のものでもない、玄曜だけのも――」
「ふわっ!?」
突然、玄曜がわざとらしくオレの腰を撫で、そのまま横をすり抜けた。
意地悪そうに、ニヤリと笑いながら。
「わかってるなら、いい」
そう言って、スタスタと歩いていく。
「くそ〜!」
一瞬でご機嫌になりやがって〜!
本当に子供みたい!
……どんな人生送ってきたら、あんな傍若無人な俺様になるんだよ!
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
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