第八話 「恋って難しいなぁ」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
「玄曜……覚えてないんだ」
玄曜が仕事に出かけ、ひとりになった厨房で、オレは洗い物をしながらぽつりと呟いた。
昨日――
玄曜に抱きしめられて、頭を撫でられて…
顔にキスしてもらって…
恥ずかしくて、どうしていいかわからなくて。
それでも、胸がいっぱいになるほど嬉しかった。
あんなふうに、誰かにドキドキしたのは初めてだった。
本当に、夢みたいで。
……それなのに。
「覚えてないんだ……」
……。
…………。
おいぃぃ……。
胸の奥が、じわっと重くなる。
なんだこれ。
モヤモヤする。
アイツなんで記憶がないんだよ……!
オレだけ、こんなに悶々としてるじゃん。
……なんか、腹立ってきたな。
でも。
もし――玄曜が、覚えていたら?
昨日のことを、あのぶっきらぼうな口調で。
冷たく、
「嫌だった」
なんて言われたら……。
「そ、それは……それはヤダー!!」
想像しただけで胸がぎゅっと締めつけられ、
泣きそうになる。
……だめだ。
なんでかわからないけど玄曜は覚えていないなら……。
オレの胸の中に閉じ込めておこう。
もう考えない。
考えないからな!
洗い物を終え、手を拭く。
ふと視線を落とすと、左の薬指の指輪が、きらりと光った。
「はあ……」
天鳳瑞奏には、
オレが勝手に好きなだけで、それでいい――そう言ったけど。
それでも。
玄曜が……
オレのこと、好きになってくれたらいいのに。
そんなことを、思ってしまう。
……でも、どうなんだろう。
玄曜って、どんな子がタイプなんだろ。
オレだって、結構可愛いと思うんだけど……。
……いや。
「オレ、男だったな」
ぽつりと呟いて、肩を落とす。
「女の子だったら……良かったのかな」
あー……!
恋って、ほんと難しいなぁ!
*
離れにいても、どうにも気が晴れない。
流星は気分転換に、顔馴染みの下女仲間のところへ向かうことにした。
「星鈴〜!」
下女仲間の小桃が声をかけてくる。
「小桃! 久しぶり!」
「星鈴、なんか元気ないわね? 好きな人とうまくいってないの?」
「う……っ!」
鋭い。
「それなら、恋くるくるやりに行こうよ!」
小桃は流星の手を引いて歩き出す。
「恋くるくる……?それなに?」
「好きな人を思い浮かべて針を回すと、相手の気持ちがわかる占い!」
……なんて都合のいい。
「下女仲間の支度室にあるから、行こっ!」
小桃が取り出したのは、手のひらサイズの丸い木盤だった。
表面には花模様と文字、中央には小さな回転針がついている。
「これ!
千縁恋兆卜盤!
またの名を、恋くるくる!
またの名を、恋の兆しを占う“はず”の盤よ!」
……“はず”、ね。
まあ、気軽なほうがいいか。
盤には
「両想」「片想」「進展」「停滞」「期待大」「諦めよ」
と文字が刻まれていた。
「……ほんとに当たるの?」
「当たる当たる! 昨日ね、他の子が“進展”出して、その日に手紙もらったんだって!」
「偶然じゃない?」
半信半疑のまま、流星は相手――玄曜を思い浮かべ、盤を回す。
くる、くる、くる……。
(玄曜が、オレのことどう思ってるのか……)
くる、くる、くる、くる……。
……止まらない。
くる、くる、くる、くる……。
「ん!?」
「ちょっと星鈴! 勢いよく回しすぎじゃない?」
「いや、軽く回したって!」
千縁恋兆卜盤は回り続け、
やがてカタカタカタカタと震え始めた。
「壊れちゃったのかな」
「あてにならないなぁ〜!」
「そのうち止まるでしょ! 星鈴、お茶しに行こ〜!」
二人が出ていった後。
箱にしまわれた千縁恋兆卜盤は、
カタン、と身体を傾けるように針を止めた。
“ゼェ……ゼェ……”
“はあぁ〜……! 怖かった!!”
“相手の想いが激重すぎだよぉ……!!”
そう呟くと、盤は力を使い果たしたように、しばらく眠りについた。
*
「それで? 星鈴の好きな人はどうなの?」
「それが……全然、恋愛対象じゃないみたいで……」
「えぇー!? そうなのー!? なんで!?」
「うーん……やっぱり女の子が好きなのかも」
「??」
小桃は首を傾げたが、深く考えず茶菓子を頬張った。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
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