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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第四章 「運命が、オレの許可なく走り出す」

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第七話 「動揺が隠しきれない」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

 朝の日差しが、流星の瞼をやさしく照らしていた。


「……ん……ふわ……」


小さくあくびをひとつ。目を擦る。

朝に強い流星は、すぐに意識がはっきりし、上体を起こした。


「昨日の演奏も……綺麗だったな〜」


月宵和宴。

着飾った自分と玄曜。

皇帝の家族、静かな小殿、月明かりの舞台。

天鳳瑞奏てんほうずいそうとの会話――。


そして……。


演奏が終わった直後、突然、身体が熱を帯びて……。


「……あれ?」


思考が、ふと引っかかる。


自分と玄曜の、昨日の夜の記憶――。


……え?


「は!!!!??」


流星は勢いよく跳ね起きた。


「えっ!? なに!? えっ!?」


昨日……!!

オレ……!!

げ、玄曜と……!!?

なんであんな事!!?

なんでっ!!?どうして!?


「あわあわあわわわ……!」


部屋の中を、落ち着きなく行ったり来たり。

心臓はバクバク、頭も視界もぐるぐる。


羞恥と混乱で、完全にパニックだ。


「なんで!?」

「どうして!?」

「ど、どうしよう!!!!」


「……どんな顔して玄曜に会えばいいのっ!?」

 声にならない悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちる。


向かいの鏡には、いつもの寝衣を着た自分が映っていた。

身体は拭われ、髪も整えられている。

化粧も、きちんと落とされていた。


……なのに。


嫌な予感がして、上の寝衣をそっと脱ぐ。


首元と、胸元に――

いくつも残る、赤い印。


「ぎょえええ!!また虫に刺されてる!!!」



朝、玄曜は目を覚ました。


玄曜は朝が非常に弱い。

できるだけ寝ていたいし、できるだけダラダラしていたい。


起き上がるのはまだしも、うつらうつらと夢の中へ戻ろうとした、その瞬間。

昨日の流星との一夜が、唐突に脳裏をよぎった。


「あー……クソ……」


またオレだけ覚えているんだろうな。


どうせ能天気に「おはよう〜」とか言って、何事もなかった顔をしているに違いない。


……覚えていてほしいのか?

それで、どうなる?


覚えていたら――

流星アイツは、今よりオレのものになるのか?


「……わかんねぇ」


考えていたら、頭が冴えてきた。

もう一度寝る気も失せたな……起きるか。


玄曜は身体を起こし、一階へ向かおうと扉を開けた。



ガチャ。


扉は、同時に開いた。


玄曜の向かいに、流星が。

流星の向かいに、玄曜がいた。


「……流――」


「うわあーーーっっ!!!」


玄曜だ、と認識した瞬間。

流星は顔を真っ赤にして大絶叫した。


口をパクパクさせ、全身を震わせながら玄曜を凝視している。


……とんでもなく動揺してる。

流星コイツ……絶対覚えてるな。


玄曜は無言で流星を見つめた。


「げっ、げん……!」


流星は「あわわわわ……」と何か言おうとしていたが、限界を迎えたのか、赤い顔のまま走り出した。


廊下で足を滑らせ、

階段を踏み外し、

一階では棚にぶつかる音が派手に響く。


……あそこまで隠せない人間がいるのか。


玄曜は逆に感心していた。

動揺しすぎて、そのうち死ぬんじゃないか?


厨房での流星は、終始ぎこちなく、挙動不審だった。

それでも朝食の鮭とネギの粥がちゃんと完成しているだけ、まだマシだろう。


見ている玄曜の方が、これでは仕事に支障が出そうだ……と本気で心配になってきた。


……仕方ない。


「昨日」


粥を食べながら、玄曜が口を開く。


「ん!!?」


突然話しかけられ、流星は喉に詰まりそうになった。


「昨日は、帰ってからの記憶がない。気がついたら朝だった」


玄曜はモグモグと粥を食べながら、落ち着いて淡々と言う。


流星は、ポカン……とした間抜けな顔で玄曜を見つめていた。


「昨日、何かあったのか?」


「…………」


「流星。どうした」


「……はっ! えっ!? な、何が!?」


「昨日、演奏が終わって帰ってきた後だ。何かあったのか?」


「なっ!! なにもっ!? 全然!! なにもなかったよ!!」


流星は立ち上がり、大袈裟に両手を広げ、ブンブンと振る。


その拍子に、首元の開いた寝衣から、赤い印がちらりと覗いた。


「……その赤いの」


「!?」


「虫にでも刺されたのか?」


極めて、ぶっきらぼうに。

玄曜はそう言った。


「む、虫…………」


流星の顔が、みるみるうちにまた赤くなる。

視線を逸らし、気まずそうに俯いた。


……きっと、昨日の出来事を思い出しているのだろう。


玄曜は粥を食べ終え、何事もなかったように立ち上がった。


「……流星」


「は、はい!?」


名前を呼ばれただけで、流星の背筋がピンと伸びる。


「ここ、付いてる」


「え?」


玄曜は流星の方へ一歩、近づいた。

一歩だけなのに、距離が一気に詰まる。


流星は思わず後ずさろうとして、背中が柱に当たった。


「ちょ、ちょっと待っ――」


言い終わる前に、玄曜が手を伸ばす。

流星の顎に触れる……かと思ったが、指先は頬の横をなぞるだけだった。


「……粥」


親指で、口元を軽く拭われる。


「口に付いてた」


それだけ。

それだけなのに。


「っ……!!」


流星の顔が一瞬で真っ赤になる。


――おもしれぇ。


この前、オレを散々振り回した仕返しだ。


存分に振り回してやる。


玄曜は、ひどく満足げな笑みを浮かべ、さらに流星を赤面させた。

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。

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