第七話 「動揺が隠しきれない」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
朝の日差しが、流星の瞼をやさしく照らしていた。
「……ん……ふわ……」
小さくあくびをひとつ。目を擦る。
朝に強い流星は、すぐに意識がはっきりし、上体を起こした。
「昨日の演奏も……綺麗だったな〜」
月宵和宴。
着飾った自分と玄曜。
皇帝の家族、静かな小殿、月明かりの舞台。
天鳳瑞奏との会話――。
そして……。
演奏が終わった直後、突然、身体が熱を帯びて……。
「……あれ?」
思考が、ふと引っかかる。
自分と玄曜の、昨日の夜の記憶――。
……え?
「は!!!!??」
流星は勢いよく跳ね起きた。
「えっ!? なに!? えっ!?」
昨日……!!
オレ……!!
げ、玄曜と……!!?
なんであんな事!!?
なんでっ!!?どうして!?
「あわあわあわわわ……!」
部屋の中を、落ち着きなく行ったり来たり。
心臓はバクバク、頭も視界もぐるぐる。
羞恥と混乱で、完全にパニックだ。
「なんで!?」
「どうして!?」
「ど、どうしよう!!!!」
「……どんな顔して玄曜に会えばいいのっ!?」
声にならない悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちる。
向かいの鏡には、いつもの寝衣を着た自分が映っていた。
身体は拭われ、髪も整えられている。
化粧も、きちんと落とされていた。
……なのに。
嫌な予感がして、上の寝衣をそっと脱ぐ。
首元と、胸元に――
いくつも残る、赤い印。
「ぎょえええ!!また虫に刺されてる!!!」
*
朝、玄曜は目を覚ました。
玄曜は朝が非常に弱い。
できるだけ寝ていたいし、できるだけダラダラしていたい。
起き上がるのはまだしも、うつらうつらと夢の中へ戻ろうとした、その瞬間。
昨日の流星との一夜が、唐突に脳裏をよぎった。
「あー……クソ……」
またオレだけ覚えているんだろうな。
どうせ能天気に「おはよう〜」とか言って、何事もなかった顔をしているに違いない。
……覚えていてほしいのか?
それで、どうなる?
覚えていたら――
流星は、今よりオレのものになるのか?
「……わかんねぇ」
考えていたら、頭が冴えてきた。
もう一度寝る気も失せたな……起きるか。
玄曜は身体を起こし、一階へ向かおうと扉を開けた。
*
ガチャ。
扉は、同時に開いた。
玄曜の向かいに、流星が。
流星の向かいに、玄曜がいた。
「……流――」
「うわあーーーっっ!!!」
玄曜だ、と認識した瞬間。
流星は顔を真っ赤にして大絶叫した。
口をパクパクさせ、全身を震わせながら玄曜を凝視している。
……とんでもなく動揺してる。
流星……絶対覚えてるな。
玄曜は無言で流星を見つめた。
「げっ、げん……!」
流星は「あわわわわ……」と何か言おうとしていたが、限界を迎えたのか、赤い顔のまま走り出した。
廊下で足を滑らせ、
階段を踏み外し、
一階では棚にぶつかる音が派手に響く。
……あそこまで隠せない人間がいるのか。
玄曜は逆に感心していた。
動揺しすぎて、そのうち死ぬんじゃないか?
厨房での流星は、終始ぎこちなく、挙動不審だった。
それでも朝食の鮭とネギの粥がちゃんと完成しているだけ、まだマシだろう。
見ている玄曜の方が、これでは仕事に支障が出そうだ……と本気で心配になってきた。
……仕方ない。
「昨日」
粥を食べながら、玄曜が口を開く。
「ん!!?」
突然話しかけられ、流星は喉に詰まりそうになった。
「昨日は、帰ってからの記憶がない。気がついたら朝だった」
玄曜はモグモグと粥を食べながら、落ち着いて淡々と言う。
流星は、ポカン……とした間抜けな顔で玄曜を見つめていた。
「昨日、何かあったのか?」
「…………」
「流星。どうした」
「……はっ! えっ!? な、何が!?」
「昨日、演奏が終わって帰ってきた後だ。何かあったのか?」
「なっ!! なにもっ!? 全然!! なにもなかったよ!!」
流星は立ち上がり、大袈裟に両手を広げ、ブンブンと振る。
その拍子に、首元の開いた寝衣から、赤い印がちらりと覗いた。
「……その赤いの」
「!?」
「虫にでも刺されたのか?」
極めて、ぶっきらぼうに。
玄曜はそう言った。
「む、虫…………」
流星の顔が、みるみるうちにまた赤くなる。
視線を逸らし、気まずそうに俯いた。
……きっと、昨日の出来事を思い出しているのだろう。
玄曜は粥を食べ終え、何事もなかったように立ち上がった。
「……流星」
「は、はい!?」
名前を呼ばれただけで、流星の背筋がピンと伸びる。
「ここ、付いてる」
「え?」
玄曜は流星の方へ一歩、近づいた。
一歩だけなのに、距離が一気に詰まる。
流星は思わず後ずさろうとして、背中が柱に当たった。
「ちょ、ちょっと待っ――」
言い終わる前に、玄曜が手を伸ばす。
流星の顎に触れる……かと思ったが、指先は頬の横をなぞるだけだった。
「……粥」
親指で、口元を軽く拭われる。
「口に付いてた」
それだけ。
それだけなのに。
「っ……!!」
流星の顔が一瞬で真っ赤になる。
――おもしれぇ。
この前、オレを散々振り回した仕返しだ。
存分に振り回してやる。
玄曜は、ひどく満足げな笑みを浮かべ、さらに流星を赤面させた。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
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