第六話 「月宵和宴 後編」
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
演奏が始まると同時に、
オレは再び、天鳳瑞奏に身体を開け渡した。
前回の演奏とは違う。
ただただ静かで――
心の奥を、ゆっくり洗い流していくような音色だった。
厳かに、穏やかに時間が流れていく。
“いい雰囲気ねぇ……”
“星鈴ちゃん、今日も来てくれてありがとぉ〜。久しぶりねぇ”
「(久しぶり!オレも、天鳳瑞奏に会えて嬉しい)」
“玄曜ちゃんとはぁ、あれから仲良くなれたぁ?”
仲良く……か。
天鳳瑞奏になら、
言ってもいいかもしれない。
「(オレさ……)」
“んん〜?”
「(玄曜のこと、好きになったんだ)」
“えぇっ!?”
頭の中で、キィン!と高い音が響いた。
――それでも、演奏は一切ぶれない。
“えっ!? やだぁ〜!そ、そうなのぉ〜!!”
“えぇ〜! そうなんだぁ〜!!”
んふふ。
んふふふふ。
んふふふふふ。
天鳳瑞奏は、すっかり上機嫌だった。
「(あの……玄曜には内緒にしてて……
できれば、ここだけの秘密で……)」
“えぇ〜。どうしてぇ?”
「(玄曜は……オレのこと、なんとも思ってないから)」
“…………”
「(いいんだ。側にいられるだけで。
オレが勝手に好きなだけで……それでいいって思ってる)」
“……それは、ダメよ”
天鳳瑞奏が、静かに言った。
口調も、いつもより落ち着いている。
「(天鳳瑞奏……?)」
“ようやく……ようやく、ここまで踏み込めた子が現れたのに……”
演奏は、終盤に差しかかっていた。
“ようやく……
あの方が幸せになれるって、思えたのに……”
“あの方が気づかないばかりに……”
“なんて鈍いのかしら……”
“鈍すぎよ……ほんと、子供のままなんだから……”
ぶつぶつと、天鳳瑞奏は呟いている。
「(天鳳瑞奏……? 聞こえてる?)」
“……やっぱりぃ!”
唐突に、ぱっと声が明るくなった。
“私が、なんとかしないとぉ!”
“星鈴ちゃん!
やっぱりねぇ、玄曜ちゃんにはグイグイいかないと!”
「(え? え? なに? なにが?)」
訳がわからず、オレは焦る。
“もっと仲良くなれるようにぃ!
手伝ってあげるわよぉ〜!”
そう言い切った瞬間――
再び、温かな光がオレの身体を駆け巡った。
すぅ……と視界が澄み、
瞳の色が、元に戻る。
その瞬間、
身体が急に熱を帯び――
オレは、そのまま、ゆっくりと倒れ込んだ。
*
視界が揺れる。
身体も、頭も、ふわふわしていた。
――玄曜に、抱き抱えられている。
ぼんやりと溶けそうな意識の中で、触れられている場所から、じんわりと熱が流れ込んでくる。
その感覚が、心臓の奥まで染み渡っていくようだった。
「流星。着いたぞ」
離れの流星の部屋。
玄曜は寝台にそっと流星を寝かせる。
「玄曜……」
流星の瞳はとろんと潤み、口調は甘える子どものように蕩けていた。
以前と同じ――流星から漂う、その空気。
(また、天鳳瑞奏の仕業か……)
「玄曜…ぎゅってして……」
流星は玄曜の袖を引き、寝台へと引き寄せる。
「わかった」
玄曜は寝台に上がり、横たわる流星を抱きしめた。
「頭も、撫でて」
「……わかった」
そっと撫でると、流星は小さく、甘い吐息を漏らす。
「玄曜……オレ……」
「なんだ?」
「……もっと、ご褒美がほしい」
「……わかった。言ってみろ」
「玄曜と……もっと、仲良くなりたい」
流星の瞳が、蕩けるように揺れる。
玄曜は返す言葉を見つけられず、しばらくその顔を見つめていた。
「……どうすればいいんだよ」
「……キスして」
囁くように流星が言い、
「ここ」と、自分の頬を指差す。
玄曜は一瞬、目を見開いたあと、何も言わずに頬へと口づけた。
「……ここにも」
両頬。
おでこ。
瞼。
鼻先。
耳。
流星が指差した場所へ、触れるだけの軽いキスを、順に落としていく。
「……次は?」
玄曜が耳元で囁く。
低く、静かな声。
「ん……」
その声に、流星はぴくりと肩を震わせた。
流星はとろんと目を潤ませたまま、指を自分の唇へ運び、そっと目を閉じる。
玄曜は、ゆっくりと顔を近づけていく――が。
――かくん。
流星の顔が、力なく横へと倒れた。
「……流星?」
くかー。
返事はない。
流星は完全に寝落ちしていた。
「……コイツ……! またかよ!」
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
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