第五話 「月宵和宴 前編」
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本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
琴の天鳳瑞奏と、二胡の龍吟天響。
そして――オレと玄曜による演奏の日。
皇帝主催、家族と親族のみが集う宴。
「月宵和宴」の日が、ついにやってきた。
「うう……緊張してきたぁ……」
倉庫で支度中のオレと玄曜。その周囲では――
“だーかーらー! こちらにしてくださいな!”
“絶対この紅よっ!”
“今日は、こちらにしましょう!”
化粧道具トリオが、いつものように言い合いながら、
オレの顔を仕上げていく。
毎回こんな調子だけど、結局この三人、仲がいい。
一方その頃。
“ねー! 玄曜様! どれにします?”
“星鈴に似合うの、どれだと思う?”
玄曜は、簪や髪飾りに囲まれていた。
どうやら、今日のオレの髪飾りを選ばされているらしい。
……正直、ちょっと気になる。
玄曜、どんなの選ぶんだろう。
「適当でいいだろ」
ぶっきらぼうに言う玄曜に、
“ダメよ!!”
“ちゃんと選んで!!”
“ほら、早く!!”
三方向から一斉に詰め寄られ、さすがの玄曜も圧に押される。
「はあ……」
玄曜は面倒そうにため息をつき、すたすたと歩き出した。
数ある髪飾りと簪の収納箱の中から、ひとつの木箱を選び出す。
中に入っていたのは、銀色に輝く、美しい蝶の簪。
「これにしろ」
オレに手渡し、ぶっきらぼうに椅子へ腰を下ろす。
「早く支度しろ」
その瞬間、周囲の龍霊雨器たちが、ぴたりと静まり返った。
誰も、何も言わない。
――きっと、意味があるんだ。
だって、この蝶の模様。
(玄曜がくれた双蝶巡縁佩……阿桃と、同じ模様の蝶だ)
櫛の龍霊雨器・和縁が、手早くオレの髪を結い上げていく。
最後に、蝶の簪をそっと挿した。
鏡に映る自分は、まるで別人みたいだった。
今日用意された衣は、以前の式典衣とは違う。
漆黒の地に、金の雲文と鳳凰が刺繍された、息をのむほど美しい衣。
玄曜の衣も、オレと対になる漆黒。
背中には、見覚えのある刺繍があった。
雲文の中に散りばめられた、細かな点。
――これ、オレの仕事衣の裏に刺繍されているのと同じだ。
何か、意味があるのかな。
「玄曜……似合うな……」
思わず、口からこぼれた。
玄曜は、じっとオレを見つめている。
「……どう?」
オレは玄曜に近づき、そっと微笑む。
「似合ってる」
ゆっくりと、玄曜は言った。
「誰にも」
一拍置いて、
「誰にも、見せたくない」
不機嫌そうに長いため息をつき、ぶっきらぼうに呟く。
「……行くの、やめるか」
見るからに面倒くさそうな顔。
本気で行きたくないみたいだ。
「おい」
オレは、はにかみながら突っ込んだ。
*
月宵和宴は、後宮の奥。
灯りを落とした、小さな殿で催されていた。
賑やかさはなく、酒の香りも控えめ。
静寂の中に、淡い緊張だけが漂っている。
殿の奥には池があり、
その水面を挟んだ向かい側に、小さな舞台が設えられていた。
その舞台に――
琴の天鳳瑞奏、
二胡の龍吟天響。
そして、オレと玄曜が、静かに控えている。
(向こうにいる人たちが……)
思わず、息を呑んだ。
月明かりと、わずかな灯り。
池越しに見る小殿の人影は、はっきりとは見えない。
中央に座すのが、皇帝なのだろう。
その周囲には妃たち。
さらに奥には、皇子や公主と思しき人影が並んでいる。
普段目にしている後宮の人々とは、明らかに違う。
同じ場所にいながら、生きている世界がまるで違う――
そんな感覚に、背筋がひやりとした。
「玄曜」
静寂を裂くように、中央から声が落ちた。
その一声で、場の視線が一斉に皇帝へと向けられる。
「……大きくなったな」
それだけだった。
短い言葉。
けれど、その声には――
どこか優しさと、慈しみが滲んでいた。
玄曜は、一瞬だけ言葉を失った。
そして、ゆっくりと深く、頭を下げる。
「ご無沙汰しております。陛下」
それ以上の言葉は、交わされなかった。
静寂の中、玄曜がわずかにこちらへ視線を寄越した。
――その目は。
いつもと、少しだけ違って見えた。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
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