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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第四章 「運命が、オレの許可なく走り出す」

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第五話 「月宵和宴 前編」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

琴の天鳳瑞奏てんほうずいそうと、二胡の龍吟天響りゅうぎんてんきょう

そして――オレと玄曜げんようによる演奏の日。


皇帝主催、家族と親族のみが集う宴。

月宵和宴つきよいわえん」の日が、ついにやってきた。


「うう……緊張してきたぁ……」


倉庫で支度中のオレと玄曜。その周囲では――


“だーかーらー! こちらにしてくださいな!”


“絶対この紅よっ!”


“今日は、こちらにしましょう!”


化粧道具トリオが、いつものように言い合いながら、

オレの顔を仕上げていく。

毎回こんな調子だけど、結局この三人、仲がいい。


一方その頃。


“ねー! 玄曜様! どれにします?”


“星鈴に似合うの、どれだと思う?”


玄曜は、かんざしや髪飾りに囲まれていた。

どうやら、今日のオレの髪飾りを選ばされているらしい。


……正直、ちょっと気になる。

玄曜、どんなの選ぶんだろう。


「適当でいいだろ」


ぶっきらぼうに言う玄曜に、


“ダメよ!!”


“ちゃんと選んで!!”


“ほら、早く!!”


三方向から一斉に詰め寄られ、さすがの玄曜も圧に押される。


「はあ……」


玄曜は面倒そうにため息をつき、すたすたと歩き出した。

数ある髪飾りと簪の収納箱の中から、ひとつの木箱を選び出す。


中に入っていたのは、銀色に輝く、美しい蝶の簪。


「これにしろ」


オレに手渡し、ぶっきらぼうに椅子へ腰を下ろす。


「早く支度しろ」


その瞬間、周囲の龍霊雨器りゅうれいうきたちが、ぴたりと静まり返った。

誰も、何も言わない。


――きっと、意味があるんだ。


だって、この蝶の模様。


(玄曜がくれた双蝶巡縁佩そうちょうじゅんえんはい……阿桃あとうと、同じ模様の蝶だ)


くしの龍霊雨器・和縁わえんが、手早くオレの髪を結い上げていく。

最後に、蝶の簪をそっと挿した。


鏡に映る自分は、まるで別人みたいだった。


今日用意された衣は、以前の式典衣とは違う。

漆黒の地に、金の雲文と鳳凰が刺繍された、息をのむほど美しい衣。


玄曜の衣も、オレと対になる漆黒。

背中には、見覚えのある刺繍があった。


雲文の中に散りばめられた、細かな点。


――これ、オレの仕事衣の裏に刺繍されているのと同じだ。

何か、意味があるのかな。


「玄曜……似合うな……」


思わず、口からこぼれた。


玄曜は、じっとオレを見つめている。


「……どう?」


オレは玄曜に近づき、そっと微笑む。


「似合ってる」


ゆっくりと、玄曜は言った。


「誰にも」


一拍置いて、


「誰にも、見せたくない」


不機嫌そうに長いため息をつき、ぶっきらぼうに呟く。


「……行くの、やめるか」


見るからに面倒くさそうな顔。

本気で行きたくないみたいだ。


「おい」


オレは、はにかみながら突っ込んだ。



月宵和宴は、後宮の奥。

灯りを落とした、小さな殿で催されていた。


賑やかさはなく、酒の香りも控えめ。

静寂の中に、淡い緊張だけが漂っている。


殿の奥には池があり、

その水面を挟んだ向かい側に、小さな舞台が設えられていた。


その舞台に――

琴の天鳳瑞奏てんほうずいそう

二胡の龍吟天響りゅうぎんてんきょう

そして、オレと玄曜が、静かに控えている。


(向こうにいる人たちが……)


思わず、息を呑んだ。


月明かりと、わずかな灯り。

池越しに見る小殿の人影は、はっきりとは見えない。


中央に座すのが、皇帝なのだろう。

その周囲には妃たち。

さらに奥には、皇子や公主と思しき人影が並んでいる。


普段目にしている後宮の人々とは、明らかに違う。

同じ場所にいながら、生きている世界がまるで違う――

そんな感覚に、背筋がひやりとした。


「玄曜」


静寂を裂くように、中央から声が落ちた。


その一声で、場の視線が一斉に皇帝へと向けられる。


「……大きくなったな」


それだけだった。


短い言葉。

けれど、その声には――

どこか優しさと、慈しみが滲んでいた。


玄曜は、一瞬だけ言葉を失った。

そして、ゆっくりと深く、頭を下げる。


「ご無沙汰しております。陛下」


それ以上の言葉は、交わされなかった。

 

静寂の中、玄曜がわずかにこちらへ視線を寄越した。


――その目は。


いつもと、少しだけ違って見えた。

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。

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