第三話 「直伝!秘伝の料理」
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本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
“なんだってぇぇぇ!?”
周家の厨房に、怒号が響き渡った。
声の主は――包丁の龍霊雨器、玉衡切である。
“最近、玄曜坊ちゃんが来ないのは!!
その星鈴って小娘が、坊ちゃんの飯を作ってるからか!?”
「……まあ、そうです」
慎言は胃を押さえながら、力なく答えた。
「毎日、朝晩」
そう、小さく付け足す。
“毎日、朝晩だとぉぉぉ!?”
玉衡切は怒りを抑えきれず、まな板に向かって
ダン! ダン!! と刃を打ちつけた。
“ゆるさねぇ!!
玄曜坊ちゃんの胃袋を掴んだ星鈴って奴!!
ここに連れてこぉぉい!!!”
“今すぐ連れてこおぉーい!!!”
再び、厨房に怒号が響き渡る。
その頃――遠く離れた場所で。
「くっしゅん……!!」
星鈴が、小さくくしゃみをしていた。
*
「わああっ!!
包丁の龍霊雨器なんてっ!!
初めて見ます!!」
全身からパァァァ!と喜びのオーラを放ちながら、
星鈴は玉衡切と初対面を果たした。
“お……おう”
玉衡切は、思わずたじろぐ。
星鈴という小娘が現れたら、
自慢の包丁さばきでビビらせてやる――
そう意気込んでいた、はずだったのだが。
「さすがですね!綺麗な飾り切り!」
「知らなかった〜!こうやって切るんだ!」
「すごい!達人技ですっ!」
「センスあるー!美味しいー!」
「そうなんですね!尊敬しちゃうなぁ!」
「ははは。さすがは星鈴さん。
見事な『さしすせそ』です」
慎言も肩を震わせて笑っている。
――そう。
星鈴は、持ち前の明るさと人懐っこさ、
物おじしない笑顔によって、
老若男女、瞬時に距離を詰めるタイプ。
天然の“人たらし”なのである。
気づけば玉衡切とすっかり打ち解け、
並んで厨房に立ち、二人で点心を作っていた。
「私も料理は好きなんですけど……
まだまだ作れるレパートリーが少なくて」
「もっと色々作って、
玄曜様に食べさせてあげたいんですよね〜」
“……坊ちゃんは、
普段どんな物を食ってるんだい?”
「えーと。鶏ダシのお粥とか、包子とか」
「蒸し餃子に、焼売、ラーメン、ネギ餅も作りました!」
“そうか……”
玉衡切は、しばらく黙り込んだ。
そして――
“…気に入ったぜ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんを見込んで、
オレ秘伝の《玄曜坊ちゃんの好きな料理》を教えてやる”
「えっ!玄曜様の好きな料理!?
知りたいです!海老は好きですよね!」
“海老……そうだな”
玉衡切は、静かに言った。
その声は、どこか少し――寂しげだった。
玉衡切が教えてくれたのは、
海老と卵のとろみ羹だった。
玄曜が小さい頃から大好物だったものらしい。
卵は、完全に火を通さない。
とろみは、強くしすぎない。
器は、必ず温める――。
玉衡切は、一つひとつ、
美味しく仕上げるためのコツを丁寧に教えてくれた。
“これはな。
玄曜坊ちゃんの母上が、よく作っていたんだ”
「玄曜様の……お母さん……」
玄曜の家族の話を聞くのは、これが初めてだった。
オレが、まだ踏み込んでいない玄曜の部分。
“事情があって、離れ離れになってしまったがな。
離れる日に、最後に一緒に食べたのが……これだ”
「しばらくは、これ以外は食べなかった。
いや……きっと食べられなかったんだろうな」
「……そうだったんですね……」
“いつも、この厨房に来て食べてたよ。
あそこの隅に座ってな”
言われた方を見ると、慎言さんと目が合った。
少し困ったような表情をしている。
――きっと。
慎言さんも、並んで食べていたんだろう。
そんな気がした。
“それがな……。今は、食事を作って、一緒に食べてくれる人が
できたなんてなぁ……”
玄曜は、いつも「普通」って言いながらも、
出されたものは全部食べてくれる。
気に入ったものは、おかわりまでしてくれる。
――お母さんが作った、覚えている味だけを食べていた玄曜。
それ以外の食事を、受け入れるようになったということ。
それって……
玄曜にとって、ものすごい変化なんじゃないだろうか。
「玉衡切さん」
オレは、思わず声を上げた。
「玉衡切さんが玄曜様に作っていた料理、
全部、教えてほしいです」
「……私、全部作れるようになりたい」
“そうか”
玉衡切は、少しだけ刃を傾けた。
“オレの役目も……
そろそろ終わりそうだな”
そう、小さく呟く。
“お嬢ちゃん。
一つ、いいことを教えてやる”
「?」
“玄曜坊ちゃんの『普通』はな。
――めちゃくちゃ美味しい、って意味だからな”
*
「お帰りなさい!」
帰ってきた玄曜を、オレは出迎えた。
少し緊張しながら、
海老と卵のとろみ羹を食卓に並べる。
「玉衡切さんに……教えてもらった」
玄曜は、何も言わずに料理を見つめていた。
静かに、さじを持ち、
ゆっくりと口に運ぶ。
「……美味しい?」
「……」
返事がない。
「……」
オレは、膝の上で両手をぎゅっと握りしめる。
「……普通」
一口食べ終えた玄曜は、
そう言って――静かに、笑った。
その笑顔を見て、
胸が、どうしようもなくいっぱいになる。
なんで、玄曜のことを好きになったのか。
ずっと考えていたけど――
ようやく、わかった。
玄曜が、他の人には見せない顔。
それを――
オレにだけ、見せてくれるからだ。
※作者より
ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回は――
玄曜の「独占欲」が一気に動きます。
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次回も20:30更新です。




