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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第四章 「運命が、オレの許可なく走り出す」

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第三話 「直伝!秘伝の料理」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

“なんだってぇぇぇ!?”


周家の厨房に、怒号が響き渡った。

声の主は――包丁の龍霊雨器りゅうれいうき玉衡切ぎょくこうさいである。


“最近、玄曜げんよう坊ちゃんが来ないのは!!

その星鈴って小娘が、坊ちゃんの飯を作ってるからか!?”


「……まあ、そうです」


慎言は胃を押さえながら、力なく答えた。


「毎日、朝晩」

そう、小さく付け足す。


“毎日、朝晩だとぉぉぉ!?”


玉衡切ぎょくこうさいは怒りを抑えきれず、まな板に向かって

ダン! ダン!! と刃を打ちつけた。


“ゆるさねぇ!!

玄曜坊ちゃんの胃袋を掴んだ星鈴って奴!!

ここに連れてこぉぉい!!!”


“今すぐ連れてこおぉーい!!!”


再び、厨房に怒号が響き渡る。



その頃――遠く離れた場所で。


「くっしゅん……!!」


星鈴が、小さくくしゃみをしていた。



「わああっ!!

包丁の龍霊雨器なんてっ!!

初めて見ます!!」


全身からパァァァ!と喜びのオーラを放ちながら、

星鈴は玉衡切ぎょくこうさいと初対面を果たした。


“お……おう”


玉衡切ぎょくこうさいは、思わずたじろぐ。


星鈴という小娘が現れたら、

自慢の包丁さばきでビビらせてやる――

そう意気込んでいた、はずだったのだが。


「さすがですね!綺麗な飾り切り!」

「知らなかった〜!こうやって切るんだ!」

「すごい!達人技ですっ!」

「センスあるー!美味しいー!」

「そうなんですね!尊敬しちゃうなぁ!」


「ははは。さすがは星鈴さん。

見事な『さしすせそ』です」


慎言も肩を震わせて笑っている。


――そう。


星鈴は、持ち前の明るさと人懐っこさ、

物おじしない笑顔によって、

老若男女、瞬時に距離を詰めるタイプ。


天然の“人たらし”なのである。


気づけば玉衡切ぎょくこうさいとすっかり打ち解け、

並んで厨房に立ち、二人で点心を作っていた。


「私も料理は好きなんですけど……

まだまだ作れるレパートリーが少なくて」


「もっと色々作って、

玄曜様に食べさせてあげたいんですよね〜」


“……坊ちゃんは、

普段どんな物を食ってるんだい?”


「えーと。鶏ダシのお粥とか、包子とか」

「蒸し餃子に、焼売、ラーメン、ネギ餅も作りました!」


“そうか……”


玉衡切ぎょくこうさいは、しばらく黙り込んだ。


そして――


“…気に入ったぜ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんを見込んで、

オレ秘伝の《玄曜坊ちゃんの好きな料理》を教えてやる”


「えっ!玄曜様の好きな料理!?

知りたいです!海老は好きですよね!」


“海老……そうだな”


玉衡切ぎょくこうさいは、静かに言った。

その声は、どこか少し――寂しげだった。


 

玉衡切ぎょくこうさいが教えてくれたのは、

海老と卵のとろみかんだった。


玄曜が小さい頃から大好物だったものらしい。


卵は、完全に火を通さない。

とろみは、強くしすぎない。

器は、必ず温める――。


玉衡切ぎょくこうさいは、一つひとつ、

美味しく仕上げるためのコツを丁寧に教えてくれた。


“これはな。

玄曜坊ちゃんの母上が、よく作っていたんだ”


「玄曜様の……お母さん……」


玄曜の家族の話を聞くのは、これが初めてだった。

オレが、まだ踏み込んでいない玄曜の部分。


“事情があって、離れ離れになってしまったがな。

離れる日に、最後に一緒に食べたのが……これだ”


「しばらくは、これ以外は食べなかった。

いや……きっと食べられなかったんだろうな」


「……そうだったんですね……」


“いつも、この厨房に来て食べてたよ。

あそこの隅に座ってな”


言われた方を見ると、慎言さんと目が合った。

少し困ったような表情をしている。


――きっと。

慎言さんも、並んで食べていたんだろう。

そんな気がした。


“それがな……。今は、食事を作って、一緒に食べてくれる人が

できたなんてなぁ……”


玄曜は、いつも「普通」って言いながらも、

出されたものは全部食べてくれる。

気に入ったものは、おかわりまでしてくれる。


――お母さんが作った、覚えている味だけを食べていた玄曜。

それ以外の食事を、受け入れるようになったということ。


それって……

玄曜にとって、ものすごい変化なんじゃないだろうか。


玉衡切ぎょくこうさいさん」


オレは、思わず声を上げた。


玉衡切ぎょくこうさいさんが玄曜様に作っていた料理、

全部、教えてほしいです」


「……私、全部作れるようになりたい」


“そうか”


玉衡切ぎょくこうさいは、少しだけ刃を傾けた。


“オレの役目も……

そろそろ終わりそうだな”


そう、小さく呟く。


“お嬢ちゃん。

一つ、いいことを教えてやる”


「?」


“玄曜坊ちゃんの『普通』はな。

――めちゃくちゃ美味しい、って意味だからな”



「お帰りなさい!」


帰ってきた玄曜を、オレは出迎えた。


少し緊張しながら、

海老と卵のとろみかんを食卓に並べる。


玉衡切ぎょくこうさいさんに……教えてもらった」


玄曜は、何も言わずに料理を見つめていた。


静かに、さじを持ち、

ゆっくりと口に運ぶ。


「……美味しい?」


「……」


返事がない。


「……」


オレは、膝の上で両手をぎゅっと握りしめる。


「……普通」


一口食べ終えた玄曜は、

そう言って――静かに、笑った。


その笑顔を見て、

胸が、どうしようもなくいっぱいになる。


なんで、玄曜のことを好きになったのか。

ずっと考えていたけど――

ようやく、わかった。


玄曜が、他の人には見せない顔。

それを――

オレにだけ、見せてくれるからだ。

※作者より


ここまで読んでいただきありがとうございます!


次回は――

玄曜の「独占欲」が一気に動きます。


続きが気になる方は、ブックマークして

お待ちいただけると嬉しいです。

次回も20:30更新です。

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