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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第四章 「運命が、オレの許可なく走り出す」

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第二話 「おじいちゃんと内緒の話」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

後宮内、曹家そうけの屋敷で龍霊雨器のトラブルがあると聞いて来たものの、

実際に対処してみれば、大した騒ぎではなかった。


「……何で呼ばれたんだろう?」

しかも、オレだけ指定で。まあ、いいけど。


用事を終えたオレは、一人で屋敷の庭先を歩いていた。


ふと視線を向けると、

杖をついた一人の老人が、腰をさすりながらゆっくり歩いているのが目に入る。

足元も少しおぼつかない。


「大丈夫ですか?」


声をかけると、老人は顔を上げた。


「ああ……少し腰が痛くてな。お嬢さん、すまないが、あの亭まで連れて行ってくれないかね?」


指さされた先には、庭の奥、池のほとりに建つ小さなあずまやがあった。


「いいですよ!」


オレはそう答え、老人の手を取り、ゆっくりと一緒に歩き出す。


亭に着くと、老人は安堵したように息を吐いた。


「ふう……やれやれ」


「どうぞ、ゆっくり座ってくださいね」


「いやはや、年には敵わんな」


そう言って腰を下ろした老人は、ふと星鈴を見据えた。

その瞳には、年齢を感じさせない強い意志が宿っている。


……あれ?

随分と貫禄のあるおじいちゃんだな。

さっきまでの弱々しさが、嘘みたいだ。


「お嬢さん。お礼に、茶を一杯ご馳走させてほしい」


亭の中には、すでに湯が沸き、茶の支度が整っていた。

老人の動きには、迷いがない。


「暇な老人に、少し付き合ってくれるかね?」


「はい! いいですよ!」


オレはにこりと笑って頷いた。

まあ、今日はもう仕事もないし。


「ははは。これは結構。

私は――…景昌けいしょうだ。お嬢さんの名を聞いても?」


「星鈴です」


「星鈴。後宮には長いのかね?」


「いえ。まだ一年もいません」


「そうか。仕事は楽しいかね?」


「はい!」


老人は満足そうに頷いた。


「私も仕事をしていてな……そろそろ引退を考えている。

誰に跡を継がせるかで、少し悩んでいてね」


「そうなんですね」


「子供も、孫も何人かいる。その中に――特別な孫がいる。

私も、“仕事仲間”も、跡を継がせるならその子がいいと思っている」


老人はそう言って、星鈴に優しく微笑んだ。

亭を、柔らかな茶の香りが包む。


茶杯を差し出しながら、老人は続ける。


「その子はな……幼い頃に父親を病で亡くしている。

父が亡くなった時、母親は家を出ねばならなかった」


「母親は、子を連れて行きたがった。

だが……私が、どうしても手放せなくてな」


老人の声が、少し低くなる。


「私のせいで、随分と寂しい思いをさせてしまった。

だから……跡を継がせることが、償いになるのではないかと」


「……お孫さんは、何て言ってるんですか?」


「……ここ数年、会っていない。

話す機会もなくてな。まだ、伝えてはいない」


「えっ!?

それって……お孫さんの知らないところで、将来が決まっちゃうってことですよね?」


「まあ……そういうことになる」


「うーん……」


星鈴は少し考えてから、口を開いた。


「私だったら、自分で決めたいです。

もし、お孫さんに他になりたいものとか、やりたいことがあったら……可哀想だし」


「ふむ……他に、か。

あの子に、あるのだろうか」


「おじいちゃんの事情はわからないですけど……

一度、会ってみたらどうですか?

ちゃんと話してみたら、お孫さんも嬉しいと思います」


「……しかしな。私から接触すると、問題があってね」


「どうして?」


「おじいちゃんが、孫に会いたくて会うのに、なんで問題があるんですか?」


星鈴の率直な言葉に、老人の瞳が揺れた。


「美味しいお菓子と、美味しいお茶を用意して、

『久しぶり』って言えばいいじゃないですか」


風が吹き、池の水面が静かに揺れる。


老人は視線を水面から星鈴へと戻した。


「……星鈴、ありがとう。

私も、随分と臆病になっていたのかもしれんな」


そう言った老人の表情は、どこかすっきりしていた。


「次に会えた時は……声をかけてみるか」


「今日の話は、私と星鈴だけの秘密だ。

誰にも話してはいけない。いいかな?」


「はい。わかりました」


二人は小さく声を潜め、こっそりと笑い合った。



星鈴が立ち去った後、

景昌けいしょうはしばらく、その場に佇んでいた。


やがて、何かを考え込むように、庭園をゆっくりと歩き出す。


「陛下」


屋敷の主、曹子文そうしぶんが静かに声をかけた。


子文しぶん。すまなかったな。

屋敷を貸してくれて、感謝している」


「いえ。……いかがでしたか?」


「うむ」


景昌けいしょうは足を止め、星鈴の姿が消えた方角へと視線を向けた。


脳裏に浮かぶのは、

あの娘の左薬指に輝いていた、金の指輪。

そして、腰から下げられていた桃木の佩。


双燕守環そうえんしゅかん……双蝶巡縁佩そうちょうじゅんえんはい


低く呟く。


「随分と……気に入っているようだな……」


「さて……どうしたものか」


景昌けいしょうは小さく息を吐いた。


「……あの娘を、引き離すべきか……」


風が庭を渡り、木々の葉を揺らす。

その言葉が、誰に向けられたものなのか――

子文しぶんは、あえて問わなかった。

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 19時頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。


もし物語を楽しんでいただけましたら、評価で応援いただけると励みになります。

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