第二話 「おじいちゃんと内緒の話」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
後宮内、曹家の屋敷で龍霊雨器のトラブルがあると聞いて来たものの、
実際に対処してみれば、大した騒ぎではなかった。
「……何で呼ばれたんだろう?」
しかも、オレだけ指定で。まあ、いいけど。
用事を終えたオレは、一人で屋敷の庭先を歩いていた。
ふと視線を向けると、
杖をついた一人の老人が、腰をさすりながらゆっくり歩いているのが目に入る。
足元も少しおぼつかない。
「大丈夫ですか?」
声をかけると、老人は顔を上げた。
「ああ……少し腰が痛くてな。お嬢さん、すまないが、あの亭まで連れて行ってくれないかね?」
指さされた先には、庭の奥、池のほとりに建つ小さな亭があった。
「いいですよ!」
オレはそう答え、老人の手を取り、ゆっくりと一緒に歩き出す。
亭に着くと、老人は安堵したように息を吐いた。
「ふう……やれやれ」
「どうぞ、ゆっくり座ってくださいね」
「いやはや、年には敵わんな」
そう言って腰を下ろした老人は、ふと星鈴を見据えた。
その瞳には、年齢を感じさせない強い意志が宿っている。
……あれ?
随分と貫禄のあるおじいちゃんだな。
さっきまでの弱々しさが、嘘みたいだ。
「お嬢さん。お礼に、茶を一杯ご馳走させてほしい」
亭の中には、すでに湯が沸き、茶の支度が整っていた。
老人の動きには、迷いがない。
「暇な老人に、少し付き合ってくれるかね?」
「はい! いいですよ!」
オレはにこりと笑って頷いた。
まあ、今日はもう仕事もないし。
「ははは。これは結構。
私は――…景昌だ。お嬢さんの名を聞いても?」
「星鈴です」
「星鈴。後宮には長いのかね?」
「いえ。まだ一年もいません」
「そうか。仕事は楽しいかね?」
「はい!」
老人は満足そうに頷いた。
「私も仕事をしていてな……そろそろ引退を考えている。
誰に跡を継がせるかで、少し悩んでいてね」
「そうなんですね」
「子供も、孫も何人かいる。その中に――特別な孫がいる。
私も、“仕事仲間”も、跡を継がせるならその子がいいと思っている」
老人はそう言って、星鈴に優しく微笑んだ。
亭を、柔らかな茶の香りが包む。
茶杯を差し出しながら、老人は続ける。
「その子はな……幼い頃に父親を病で亡くしている。
父が亡くなった時、母親は家を出ねばならなかった」
「母親は、子を連れて行きたがった。
だが……私が、どうしても手放せなくてな」
老人の声が、少し低くなる。
「私のせいで、随分と寂しい思いをさせてしまった。
だから……跡を継がせることが、償いになるのではないかと」
「……お孫さんは、何て言ってるんですか?」
「……ここ数年、会っていない。
話す機会もなくてな。まだ、伝えてはいない」
「えっ!?
それって……お孫さんの知らないところで、将来が決まっちゃうってことですよね?」
「まあ……そういうことになる」
「うーん……」
星鈴は少し考えてから、口を開いた。
「私だったら、自分で決めたいです。
もし、お孫さんに他になりたいものとか、やりたいことがあったら……可哀想だし」
「ふむ……他に、か。
あの子に、あるのだろうか」
「おじいちゃんの事情はわからないですけど……
一度、会ってみたらどうですか?
ちゃんと話してみたら、お孫さんも嬉しいと思います」
「……しかしな。私から接触すると、問題があってね」
「どうして?」
「おじいちゃんが、孫に会いたくて会うのに、なんで問題があるんですか?」
星鈴の率直な言葉に、老人の瞳が揺れた。
「美味しいお菓子と、美味しいお茶を用意して、
『久しぶり』って言えばいいじゃないですか」
風が吹き、池の水面が静かに揺れる。
老人は視線を水面から星鈴へと戻した。
「……星鈴、ありがとう。
私も、随分と臆病になっていたのかもしれんな」
そう言った老人の表情は、どこかすっきりしていた。
「次に会えた時は……声をかけてみるか」
「今日の話は、私と星鈴だけの秘密だ。
誰にも話してはいけない。いいかな?」
「はい。わかりました」
二人は小さく声を潜め、こっそりと笑い合った。
*
星鈴が立ち去った後、
景昌はしばらく、その場に佇んでいた。
やがて、何かを考え込むように、庭園をゆっくりと歩き出す。
「陛下」
屋敷の主、曹子文が静かに声をかけた。
「子文。すまなかったな。
屋敷を貸してくれて、感謝している」
「いえ。……いかがでしたか?」
「うむ」
景昌は足を止め、星鈴の姿が消えた方角へと視線を向けた。
脳裏に浮かぶのは、
あの娘の左薬指に輝いていた、金の指輪。
そして、腰から下げられていた桃木の佩。
「双燕守環……双蝶巡縁佩」
低く呟く。
「随分と……気に入っているようだな……」
「さて……どうしたものか」
景昌は小さく息を吐いた。
「……あの娘を、引き離すべきか……」
風が庭を渡り、木々の葉を揺らす。
その言葉が、誰に向けられたものなのか――
子文は、あえて問わなかった。
※作者より
お読みいただき、ありがとうございました。
龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。
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