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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第二期【恋人編】第五章 「帰還」

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第二話 「阿燐の舞」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

「じゃあ、ボクそろそろ出番だから行くね」


阿燐ありんは立ち上がり、ぐっと背伸びをした。


「えっ!? 行っちゃうの!?」


流星は慌てて顔を上げる。


「出番って?」


「この後、龍の神子を見立てた舞が奉納されるんだけど」


阿燐はにこりと笑った。


「今年はボクが出ようかなって思って」


龍の神子を見立てた舞。

つまり――。


「阿燐、本人じゃん!!」


思わず叫びそうになる。


「あの舞台に出るの!?」


「出るよ?」


阿燐は不思議そうに首を傾げた。


「阿燐……舞えるの!?」


「できるよ?」


当然だと言わんばかりの返事だった。

可愛いだけじゃなく舞までできるのか。

しかも、こんな厳かな式典の舞台で。


(阿燐ってすごいなぁ……)

流星が感心していると、阿燐はふいに抱きついてきた。


「流星」


「ん?」


「ボクの舞、見ててくれる?」


少しだけ甘えるような声だった。


「うん」


流星は優しく抱きしめ返す。


「ちゃんと見てるからね」


阿燐は満足そうに笑った。


「約束だよ!」


そして杖を振る。星の煌めきが舞い上がり――。

阿燐の姿は、そのまま消えた。



――ドォォォン。

銅鑼の音が響く。


舞台へ、一人の子供が現れた。

小さな龍の被りものを身にまとっている。

顔は見えない。それでもわかった。


――阿燐だ。


編鐘の演奏が始まる。

今までの厳かな音色とは違う。

軽やかで、跳ねるような音だった。

その音に合わせて、阿燐が小さく跳ねる。

まるで雨上がりの水たまりではしゃぐ子供のように。


阿燐が跳ねるたび、被りものから伸びる

龍の身体も楽しそうに揺れた。

その姿は、遊び回る龍の子そのものだった。


(な……)


流星は固まる。


(なんて可愛いんだ……!!!)


可愛すぎる!

全身から可愛いが溢れている。


流星は櫓の中で一人身悶えた。

なんなんだ、この愛おしさは。

阿燐は舞台に並べられた工芸品の周りを、

くるくると駆け回る。


「これって……」


流星はぽつりと呟いた。


「阿燐のお役目を表してるのかな」


工芸品へ龍の神の魂を与え、龍霊雨器を生み出す。

以前見た光景と重なる。

阿燐は楽しそうに跳ね回りながら舞い続けた。


やがて。


舞台の奥から、大きな龍が現れる。

何人もの舞師が操る巨大な龍だった。

龍の子は、その傍へそっと歩み寄る。


まるで甘えるように。寄り添うように。


流星は思わず呟いた。


「阿燐……お父さんに会いたいんだろうな」


天星。龍の神。

阿燐がずっと会いたがっている存在。


「天星様……」


流星は小さく目を伏せた。


「今、起きてくれたら良かったのに」


頭の中で会話はできる。

でも、それも長くは続かない。

さっきのように天星が目覚めたのは、

魂を宿したあの日以来だった。


(天星様……)


(好きな時に起きられないのかな)


(なんでなんだろう……今度聞いてみよう)


そんなことを考えているうちに、演舞は静かに幕を閉じた。


阿燐の舞は――

最初から最後まで、とびきり可愛かった。



演舞が終わると、再び祝詞が捧げられた。

厳かな声が広場に響く。


「はぁ……」


流星は小さく息を吐いた。

櫓の扉は相変わらず閉ざされたままだ。

結局、何のためにここへ閉じ込められたのかもわからない。


「曜は……どこかにいるのかな」


ぽつりと呟く。その時だった。


ふいに周囲が静まり返る。

ざわめきも。衣擦れの音も。

何もかもが消えた。


流星は顔を上げる。

そこには、今まで感じたことのないほど

神聖な空気が満ちていた。


まるで世界そのものが息を潜めているようだった。


――カァン。


礼楽の鐘の音が響く。

澄み切った音色が空へ昇っていく。


次の瞬間。


流星は目の前の光景に息を呑んだ。


皇族たちが。

この国で最も高貴な者たちが。

櫓へ向かって膝をついた。

敬意と畏怖を込めて……一斉に、跪く。


誰一人として顔を上げない。

その姿はまるで――。

神へ祈りを捧げる信徒のようだった。


「……っ」


流星の胸が大きく震えた。

彼らが跪いているのは、自分ではない。


この櫓の中にいる、龍の神へ。

この国を守り続けてきた偉大な存在へ。


けれど。その龍の神は――。

今、自分の中にいる。


流星は無意識に胸元を押さえた。

畏怖にも似た感情が、胸の奥から込み上げてくる。

まるで、この場にいてはいけないような。

そんな感覚だった。

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。


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