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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第二期【恋人編】第四章 「玄曜の過去と、本当の天命」

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第七話 「奉納の儀」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

すうーーーーっ。

流星は朝から何度目かの虎福ちゃん吸引をしていた。


ここは皇族宮。

楽師達の控えの間だ。


周囲には同じく出番を待つ楽師や宮女達がいる。

誰もが緊張した面持ちで、部屋の中は静まり返っていた。


「……」


流星はそっと息を吐く。

今日は楽師用の式典衣を身につけていた。

昨日とはまるで違う姿。

流星は静かに覚悟を決めていた。


もしかしたら――


玄曜と共にいる自分も、反皇帝派に狙われるかもしれない。

守ってくれる玄曜はいない。

慎言さんもいない。

自分の身は、自分で守らなければならない。


……今のところは大丈夫。

このまま出番まで待てばいい。


“ご主人! 大丈夫ですっ!”


“何かあったら虎福も戦います!”


虎福ちゃんが胸を張る。


「ありがとう、虎福ちゃん」


流星は思わず笑った。

張り詰めていた気持ちが少しだけ軽くなる。

虎福ちゃんをぎゅっと抱きしめた。


左手薬指の双燕守環そうえんしゅかんが小さく輝く。

腰に下げた双蝶巡縁佩そうちょうじゅんえんはいも静かに揺れた。


大丈夫。自分は一人じゃない。

玄曜が何をするつもりなのかはわからない。

儀式が始まった後、何が起こるのかもわからない。


――それでも。


絶対に。


玄曜は来る。

必ず来てくれる。


だから。


オレはオレに出来ることをする。

流星は虎福ちゃんを袖へ戻した。

そして深く息を吸う。


大丈夫。

無事に儀式を終わらせる。


そして――

玄曜と一緒に離れへ帰る。

温かいご飯を食べる。


そのためにも。


絶対に負けない。

流星は静かに顔を上げた。



控えの間の扉が開いた。

楽師達は一斉に立ち上がる。

龍の神へ静かに祈りを捧げると、長い廊下の

先にある演奏台へ向かって歩き出した。


流星もそれに続く。


あたりには厳かで神秘的な空気が流れていた。

誰一人として私語を交わさない。


足音だけが静かに響く。

やがて視界が開けた。


「――わあ……」


思わず声が漏れる。目の前に現れたのは、

真四角の巨大な白い舞台だった。

磨き上げられた白石の中央には、金と宝玉で 描かれた龍の文様。

四隅には紅色の巨大な太鼓櫓が据えられている。


神聖さと威厳を兼ね備えた空間だった。

舞台を囲むように、煌びやかな式典衣を

まとった皇族達が並んでいる。


そして最上段――。

皇帝・景昌けいしょう


その傍らには、

神裁承認玉璽しんさいしょうにんぎょくじ――天印。

天理執命皇剣てんりしつめいこうけん――執命。


龍の国に存在する龍霊雨器達の頂点。

二柱が静かに座していた。


(おじいちゃん……)


(天印、執命……)


見知った顔に、流星はほんの少しだけ安堵する。


その時だった。


――ザワリ。


胸の奥が不意に熱を帯びた。

まるで火種を落とされたように。


「……何?」


流星は思わず胸元を押さえる。

鼓動が早い。流星はゆっくり振り返った。

そこには巨大な櫓が佇んでいた。


金と瑠璃で彩られた、堂々たる櫓。

奉納の儀のために設えられた特別なものだろう。


「なんだろう……この不思議な感じ……」


流星は息を吐き、そっと前へ向き直った。

その先には、皇族達が静かに座している。


(おじいちゃん以外の皇族って、初めて見たな……)


礼楽の後ろへ半歩隠れるようにしながら、

流星は周囲を見渡した。

儀式前だから空気が重いのはわかる。


けれど――。何かがおかしい。


皇族達の纏う空気が、真っ二つに分かれているように感じた。


“うっ……うぅ……!”


頭の中へ、聞き慣れた泣き声が響く。


礼楽れいがく


流星は小声で呼びかけ、そっと編鐘へ触れた。


“星鈴さん〜〜!”


“良かった来てくれてぇ……!”


“昨日から不安で不安で……!”


本番の舞台では流石に大泣きしないらしい。

だが、礼楽は今にも泣きそうな声で震えていた。


「大丈夫。一緒にいるよ」


流星が優しく撫でる。


“うぅぅ……父上ぇ……”


礼楽は少しだけ落ち着いたようだった。


そして小さな声で囁く。


“今年は特にピリピリしてるんです……”


「ピリピリ?」


“龍と麒麟きりんが……”


「龍と麒麟?」


流星は改めて皇族達へ目を向けた。

よく見ると、衣の刺繍や装飾が違う。


龍の紋を身につける者と、麒麟の紋を身につける者。


「もしかして……」


流星は小さく呟く。


「龍が現皇帝派で、麒麟が反皇帝派……?」


“そうです”


礼楽が答えた。


“元々は同じ皇族だったんですけど……”


“数百年前から対立していて……”


“五十年前の内乱で決定的に分断しました”


「そうだったんだ……」


五十年前。

玄曜から聞いた話を思い出す。

皇位継承争いによる内乱。

破壊寸前まで追い込まれた最初の龍霊雨器。


ただ仲が悪いだけじゃない。

もっと根深い何かがある。

そんな気がした。


「星鈴様」


不意に背後から声がした。

振り向くと、式典衣を纏った宮女が立っていた。


見覚えのない顔だった。


「玄曜様がお待ちです」


「玄曜様が?」


流星は目を瞬く。


「こちらへ」


宮女は静かに促した。


(あれ……?)


玄曜なら自分で迎えに来そうなものなのに。

儀式直前だから忙しいのだろうか。


「お急ぎください」


宮女の声には、どこか焦りが混じっていた。


“星鈴さん!”


礼楽が慌てたように呼ぶ。


“私の演奏、見守っていてくださいね!”


“あとで必ず撫でてくださいね!?”


思わず流星は笑った。


「うん。礼楽も頑張って」


“はいっ!”


流星は宮女の後を追った。


廊下を渡る。階段を下りる。

薄暗い地下通路を進み、階段をのぼる――。


やがて宮女が立ち止まった。


「こちらでございます」


「――え?」


そこは、先ほど舞台から見えた、金と瑠璃で

彩られた巨大な櫓だった。

中に入ると、薄暗く、人の気配もない。


「ここって……」


その瞬間。


ドォォォォン――。


銅鑼の音が轟いた。


あたりが一瞬で静まり返る。


「え……?」


流星が振り返ると、櫓の重厚な扉が、

ゆっくりと閉じていった。


「待っ……!」


胸の奥を冷たいものが駆け抜けた。

何かがおかしい。嫌な予感がする。


ドォォォォン――。


二度目の銅鑼が鳴る。


その音は、まるで運命を告げる鐘のようだった。


――奉納の儀が始まった。

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。


もし物語を楽しんでいただけましたら、評価で応援いただけると励みになります。

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