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『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第二期【恋人編】第四章 「玄曜の過去と、本当の天命」

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第五話 「皇族の領域」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

 紅色の鮮やかな大門が、ゆっくりと開いていく。

今まで訪れたどの場所とも違う空気が、一気に

星鈴を包み込んだ。


内廷――皇族宮へと続く長い廊下。

その先へ誘うように、まっすぐに静かに伸びている。


「ここから先が……」


皇族達が暮らす場所。

つまり――玄曜が七歳まで過ごしていた場所だ。


「行くぞ」


玄曜は何事もないように歩き出した。

廊下の両側には内廷専属の武官達が並んでいる。

微動だにせず、まるで石像のようだ。

玄曜とも星鈴とも目を合わせようとしない。


「慎言さんも来てくれれば良かったのに……」


思わず呟いてしまう。


この重苦しい空気。

安心枠の慎言がいないのは、正直かなり心細い。


「慎言はここには入れない」


「え?」


星鈴は目を瞬いた。


「じゃあ、私は?」


「オレとお前は龍霊雨器直々の指名だ」

玄曜は淡々と答える。


「特別に許可されただけだ。普段は入ることはできない」


――許可されただけ。

その言葉に胸が痛んだ。


皇族を放棄した外れ者。

皇族の中では存在しない者。

以前、玄曜がそう言っていたことを思い出す。


……嫌だな。


そういえば、おじいちゃんの所へ行く時も、

いつも倉庫の地下から承天殿へ向かっていた。


どうしてだろうと思っていた。

――本当は。

玄曜は自由に入れないのだ。

家族に会うことさえ、隠れるようにしなければならない。


今日は龍霊雨器の対応という名目があるから許されているだけ。


星鈴は小さく息を吐いた。


「こちらでございます」


案内役の武官が、大きな扉の前で足を止めた。

龍の装飾が施された重厚な扉がゆっくりと開く。

中は広い広間になっていた。

その奥から、神聖な空気が流れ込んでくる。


――この感じ。龍霊雨器だ。


星鈴が気配の方へ目を向けた、その瞬間。


“うわああああああーーん!!!”


広間中に泣き声が響き渡った。


“絶対無理ですってーーー!!!”


「礼楽様!しっかりしてください!」


「できます!できますよ!」


暗闇の向こうから、宮女達の励ます声が飛ぶ。


“そんなこと言ってもぉーー!!”


“できないよぉぉぉーーー!!”


再び盛大な泣き声。


「な、何!?」


星鈴は目をぱちぱちさせた。


「一体何が起きてるの!?」


玄曜は隣で腕を組み、盛大にため息をついている。


その時。こちらに気づいた宮女達が一斉に

駆け寄ってきた。


「ああっ!いらっしゃいました!」


「玄曜様!星鈴様!」


「どうかよろしくお願いいたします!」


勢いよく手を引かれ、暗闇のすぐ近くまで連れて行かれる。

宮女達が窓を開き、陽光が一気に差し込む。


その先に現れたのは――巨大な編鐘だった。


広間いっぱいに並ぶ青銅の鐘。

大小様々な鐘が連なり、その姿は圧巻だった。

纏う空気からも、悠久の時を生きてきた

神秘的な力強さが伝わってくる。


――が。


“緊張するよぉぉぉーーー!!!”


編鐘は全身をぶるぶる震わせていた。


「どっ、どうしたの!?」


星鈴は思わず駆け寄る。


こんなにも堂々とした姿なのに。

しくしくと泣き続けている。


「礼楽様!ほら!」


宮女が声を上げた。


「玄曜様と星鈴様が来てくださいましたよ!」


礼楽はぴたりと泣き止まる。


そして。


“うわあああああーーーん!!!”


今までで一番大きな声で泣いた。


広間全体が揺れる。

星鈴は思わず耳を塞いだ。

玄曜は周囲に聞こえないよう小さく舌打ちする。


「皆さん」


玄曜は爽やかな笑顔を浮かべた。


「礼楽様を落ち着かせますので、

席を外していただけませんか?」


宮女達は一斉に頬を染め、玄曜をちらちら

見ながら広間を後にした。


扉が閉まった瞬間。


「さっさと泣きやめ。この根性なしが」

玄曜の、ぶっきらぼうな声が響いた。


おーい!さっきまでの爽やか文官はどこにいったんだ。


“ううぅ……玄曜様ぁ……”

礼楽はぐすぐすと鼻を鳴らす。

堂々とした見た目なのに、中身は完全に

泣き虫の子供だ。


「こいつは龍天礼楽鐘りゅうてんれいがくしょう礼楽れいがく


玄曜が説明する。


「龍雨祭の奉納の儀でのみ演奏する龍霊雨器だ」


「毎年こうだが、今年は特に酷いな」


“だって落ち着かないんですぅぅぅ!!”


礼楽は大きく鐘を震わせた。


“本番は明日なのにぃぃ!!”


“玄曜様なら何とかしてくれると思ってぇぇ!!”


なるほど。

それでわざわざ呼ばれたのか。

星鈴は思わず笑った。


礼楽にそっと触れる。


「大丈夫だよ」


優しく撫でながら言うと、礼楽がぴたりと動きを止めた。


“え?”


“嘘……まさか……”


礼楽の声が震える。


“父上?”


星鈴はにこりと笑った。


“うわあああああーーー!!!

父上ぇぇぇぇーーー!!!”


礼楽は今度は歓喜で絶叫した。


“すごいすごいすごい!!!”


“他の龍霊雨器達から聞いてたんです!!”


“父上が目覚めてるって!!

器に触れてもらえるってぇぇーー!!!”


とんでもない早口で喋り始める。


“じゃあ今年は父上も奉納の儀に

参加されるんですか!?”


「奉納の儀?」

流星は玄曜を見た。


「龍雨祭を締めくくる儀式だ」

玄曜が答える。


「皇族と、その親族のみが参加する」


「そうなんだ。でも呼ばれてないから――」


“やだぁぁぁーーー!!!”


礼楽が遮った。


“父上そばにいてぇぇぇーーー!!!”


“儀式の間ずっといてぇぇぇーーー!!!”


“頑張ったねって褒めてぇぇぇーーー!!!”


“抱きしめてぇぇぇーーー!!!”


完全に駄々をこねる子供だった。


“お願いぃぃぃーーー!!!”


星鈴は玄曜と顔を見合わせる。


オレは、思わず苦笑した。

楽器なだけに、賑やかな龍霊雨器だ。



その後――


“父上ー!!帰らないでーー!!!”


“明日も絶対来てぇぇぇーー!!!”


“ずっとそばにいてぇぇぇーーー!!!”


礼楽に盛大に泣きつかれた。


騒ぎを聞きつけた奉納の儀、楽師の責任者まで

慌てて駆けつけた。


「どうか、お願いいたします!」


白髪混じりの高官は深々と頭を下げた。


「演者補佐という形で構いません。

なにとぞご参加を……!」


そこまで頭を下げられては断れない。


結局――


星鈴だけ、明日の奉納の儀へこっそり

参加することになってしまった。


“もう帰られるのですか……?”


礼楽は未だにしょんぼりしている。


“父上……明日来てくださいね……”


「大丈夫。明日来るから」


星鈴が優しく鐘を撫でる。


“本当ですか……?”


「本当」


“絶対ですよ……?”


「絶対」


ようやく礼楽は少しだけ落ち着いた。


それでも最後まで名残惜しそうに鐘を揺らしていた。



「なんか……大変なことになっちゃったな」


皇族だけが参加する儀式。

そんな場所に自分が入るなんて。

今さらになって緊張してきた。


星鈴は小さく息を吐く。

玄曜は何も言わず、隣を歩いていた。


皇族宮の出口へ続く長い廊下。

静かな足音だけが響く。


その時だった。


「玄曜殿」


低い声が響いた。


星鈴が顔を上げる。

廊下の先に、一人の老人が立っていた。

身なりからして高位の人物だとわかる。

玄曜は老人の姿を見た瞬間、わずかに目を細めた。


そして、ゆっくり星鈴へ視線を向ける。


「星鈴さん」


静かな声だった。


「外に迎えが来ています。先に戻っていてください」


「え……?」


星鈴は思わず玄曜を見る。


「玄曜様は?」


「少し残ります」


それだけだった。


けれど――

胸の奥がざわつく。

言葉にできない不安が込み上げてきた。


(曜……)


星鈴はそっと視線で訴える。


玄曜は小さく微笑んだ。


「大丈夫です」


そして優しく続ける。


「必ず、戻ります」


その言葉に、星鈴はゆっくり頷いた。


「……うん」


玄曜から目を離し、一人歩き出す。

背中越しに視線を感じた。


振り返りたい。

何を話すのか聞きたい。


でも――


玄曜が大丈夫だと言ったのだ。

星鈴は小さく拳を握り、そのまま皇族宮を後にした。


門を出た途端、背後で重たい門がゆっくりと

閉じていった。

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。


もし物語を楽しんでいただけましたら、評価で応援いただけると励みになります。

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