表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『龍霊雨器 ― 脅迫から始まる両片想いの後宮事件録 ―』 〜女装して後宮に潜入したら、正体を見抜いた俺様文官(次期皇帝候補)に囲われました〜  作者: 麻倉ロゼ
第二期【恋人編】第四章 「玄曜の過去と、本当の天命」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/113

第四話 「人の国へ」

ご覧いただきありがとうございます。


本作は

「中華風後宮ファンタジー」

「年上攻め×主人公受け」

を詰め込んだBL作品です。


シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。

どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。

 よく晴れた秋晴れの日。澄み渡る青空の下。

爽やかな風が吹き抜ける草原を、一頭の馬が

駆け抜けていた。


「ぎょええぇぇぇーっ!!」


馬の身体が上下するたびに、流星の悲鳴も跳ね上がる。


今朝、玄曜から「鷹狩りに行く」と突然告げられ、

気がついたら馬に乗せられていた。

人生初の乗馬。当然ながら余裕などない。

 

「落ちるー!!」周りに流星の叫び声が響き渡る。


「落ちない」

背後から玄曜がぶっきらぼうに言った。

流星の後ろには玄曜が乗っている。

手綱を握りながら、流星の身体もしっかり支えていた。


「もうすぐ着く」

そう言うなり、さらに速度を上げる。


「ぎょええぇぇぇーっ!!」

流星は目をぎゅっと閉じ、玄曜へしがみついた。

馬は草原を駆け抜け、小高い丘へ辿り着いた。


「着いたぞ」


流星が恐る恐る目を開くと――。


「ふわぁ……!」

思わず声が漏れた。


眼下には川と草原。どこまでも続く大地。

風が吹くたび、草原は波のように揺れ、

陽光を受けて輝いている。


「すごい……!」


流星は目を輝かせた。


「こんな場所、初めて来た!」


街の外へ出たことはある。

けれど歩いて行ける範囲だけだ。


「外って……こんなに広いんだ」


その呟きに、玄曜は小さく笑った。


馬は丘をゆっくり進む。

風が流星の髪を揺らした。


「気持ちいい〜!」


「そうだな」


穏やかな日差し。

背中越しに伝わる玄曜の体温。

人生でまさか。彼氏の馬に乗せてもらって

乗馬する日が来るなんて……。


最初は怖かったけれど。

今はもう、非日常のデートイベントに感動していた。


やがて玄曜は丘で一番大きな木の下へ馬を止めた。


「鷹狩りって、こんな場所でやるの?」


「そうだ」


玄曜は頷く。


「星はやったことないのか?」


「あるわけないだろ。偉い人達の遊びだぞ」

流星は即答した。

庶民は見たことすらない。


「でも鳥は?鷹狩りってオオタカとかハヤブサとか使うんだろ?」


「連れてきている」

玄曜はそう言うと、荷物の中から一本の巻物を取り出した。


紐を解き、ゆっくり広げる。

そこに描かれていたのは――

一本の木に留まる、美しい海東青かいとうせい(シロハヤブサ)だった。


海東青鶻図かいとうせいこつず――蒼牙そうが


玄曜が名前を呼んだ、次の瞬間。

絵の中の海東青かいとうせい(シロハヤブサ)が翼を広げた。

白銀の羽が舞う。絵から抜け出した海東青は

大空へ飛び立ち、大きく旋回した。


そして。

そのまま玄曜の右腕へ舞い降り、翼を畳み、

堂々と留まった。


「こいつは絵画の龍霊雨器りゅうれいうきで――」


説明を続けようとして、玄曜は言葉を止めた。

流星が口を開けて固まっていたからだ。


「どうした?」


流星は何も答えない。両手で顔を覆うと、

そのままゆっくりしゃがみ込んだ。


「オレの!!」


「彼氏が!!!」


「凄いよぉぉぉぉぉーーーっ!!!」


流星の絶叫が草原中へ響き渡る。


こんな。腕に立派な海東青シロハヤブサを乗せて。

草原の丘に立って。

風に髪をなびかせて。

完全に物語の主人公じゃないか。


皇子様みたい〜〜!!

いや、実際、皇子様なんだけど!!


「ムリ〜〜〜っ!!」


流星は全身を震わせながらうずくまった。


玄曜は眉をひそめる。


「腹でも痛いのか?」


「チガイマス」

流星は即答した。


アンタに悶えてるんだよ。

格好いいのも、いい加減にしてくれ。



 丘の麓に広がる草原。風に揺れる草むらから、

一匹の動物が飛び出した。


「蒼牙」


玄曜が静かに命じる。

次の瞬間――


蒼牙は白い矢のように空を裂いた。

風を切る音すら置き去りにする速度。

大きく旋回すると、一気に急降下し、

鋭い鉤爪が獲物を捉えた。


「す、すごっ……!」


流星は思わず声を上げる。


「こんなに一瞬で!?」


蒼牙は悠々と戻ってきた。

その足には、大きな野兎が掴まれている。


「うわー! 野兎!」


流星の目が輝いた。


「ご馳走だ!」


「食べたことあるのか?」


「父さんが知り合いからもらって、何回か食べたことある!」


流星は嬉しそうに答える。


「煮込みにすると美味しいんだよ」


「そうか」


蒼牙は再び大空へ舞い上がった。

しばらく自由に空を飛び回り――

やがて巻物へ降り立つ。

白銀の身体は絵の中へ溶け込むように消えていった。


「曜はよく来るの?」


「蒼牙を連れて、たまにな」


「そうなんだ!」


玄曜は巻物をしまう。

そして流星へ視線を向けた。


――着いてこい。


言葉の代わりの合図だった。

流星は後を追う。

丘を越え、反対側へ回る。


そして。


「――え?」


思わず足を止めた。

丘の向こうに広がっていたのは――


壮大な都だった。


「あれって……」


流星は目を見開く。


「オレ達が住んでる都!?」


「そうだ」


「すっ……すげー!!」


思わず叫ぶ。こんなふうに都全体を

見渡したことなど、一度もなかった。

どこまでも続く城壁。

整然と並ぶ街並み。

陽光を受けて輝く無数の屋根。


人と物資が絶え間なく行き交う都は、

生き物のように活気に満ちていた。

それだけで、この国の豊かさが伝わってくる。


そして。


都を抱くように、一筋の大河が流れていた。

雄大な流れは緩やかにうねりながら、

大地を貫いている。


その姿はまるで――


「龍みたいだ!」


流星の声が弾んだ。


玄曜は小さく笑う。


「そうだな」


風が吹いた。草原が波のように揺れる。

二人はしばらく並んだまま、眼下に広がる

景色を眺めていた。


「星」


玄曜が静かに口を開いた。


「何?」


「オレの本当の天命を話しておく」


流星は目を瞬いた。


「本当の……天命?」


――天命。

龍の神によって定められた理。


「曜の天命って……皇帝になることじゃないの?」


「皇帝になるのは、あくまで手段だ」


玄曜は眼下に広がる都へ視線を向けた。


「――この国は龍の神の加護と、龍霊雨器によって

守られている。それは知っているな」


「うん」


流星は夢の中で聞いた天星の言葉を思い出した。


「だが――」


玄曜は静かに続ける。


「実際にこの国を支えているのは、

たった一つの龍霊雨器だ」


「たった一つ……?」


流星は思わず聞き返した。


「それって……もしかして天星様が言ってた、

一番最初の龍霊雨器?」


「そうだ」


玄曜は頷く。


「何千年もの間、その龍霊雨器は国を守り続けてきた」


「災害からも」


「外敵からも」


「ありとあらゆる脅威から、この国を守ってきた」


風が草原を渡る。


「だが今から五十年ほど前――」


「お祖父様が即位したばかりの頃だ」


玄曜の声音が少しだけ低くなった。


「皇位継承争いによる内乱で、その龍霊雨器は

破壊寸前まで追い込まれた」


「えっ!?」


流星は思わず声を上げた。


「どうして!?国を守ってくれているんだろ!?」


玄曜は静かに流星を見る。


「存在しない方が都合のいい人間もいる」


その言葉に流星は息を呑んだ。


「元々、その龍霊雨器は数百年前から限界に近かった」


「長くは持たない……。 いずれ崩壊する」


流星は恐る恐る尋ねる。


「……崩壊したら?」


玄曜は迷わなかった。


「国ごと巻き込む」


流星は言葉を失う。

冗談ではない。

玄曜は本気で言っている。


しばらく沈黙が続く。


やがて玄曜が静かに口を開いた。


「オレは生まれた時に、龍霊雨器に宿る魂を

消し去る力を与えられた」


天青色の瞳が揺らぐ。


「オレの天命は、その最初の龍霊雨器の魂を消し去ること」


「そして、ただの工芸品へ戻すことだ」


流星は息を呑む。


玄曜は続けた。


「加護を失った龍の国を」


「人間の力だけで立つ国へ変える」


「その礎となる最初の皇帝となる」


風が吹き抜けた。


「それが――オレに与えられた天命だ」


玄曜はまっすぐ流星を見つめた。


「だからオレは皇帝になる。

この龍の国を、人の国にするために」


草原が揺れる。

遠くには都が広がっている。


しばらくして、玄曜が静かに尋ねた。


「お前はどうする?」


「オレ?」


「……今ならまだ逃げられるぞ」


静かな声だった。

流星は少しだけ目を丸くした。


そして。


「逃げないよ」

迷うことなく答えた。


「逃げるわけないだろ」


流星は一歩前へ出た。

玄曜の隣へ、当たり前のように並ぶ。


「曜の隣にいるって決めたんだから」


風が二人の髪を揺らした。

玄曜は目を閉じる。

そしてゆっくりと開いた。


「――そうか」


天青色の瞳が光を宿す。


「わかった」


その瞳に映るのは。


広大な都でも。


天命でも。


未来でもない。


ただ一人。


流星だけだった。

※作者より


お読みいただき、ありがとうございました。

龍霊雨器と流星、そして玄曜の物語は、まだ続きます。


龍霊雨器は【火・木・土 20時半頃】更新です。

続きを読みたいと思っていただけましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。


もし物語を楽しんでいただけましたら、評価で応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ