表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱サモナー、部下ゼロの亡国騎士団長を従え、倒した敵を仲間にして最強軍勢を作る  作者: sixi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/20

第十七話 旗を壊さない選択

 黒い鎖に吊り上げられたガイアスの身体が、地下牢獄の中央で大きく脈動した。


 赤く染まった旗印から、黒紫の魔力が流れ込んでいる。


 鎖はガイアスの腕や脚だけでなく、首元にまで食い込んでいた。彼が自分の意志で操っているように見えた鎖は、実際には旗印と地下牢獄の呪いに動かされている。


《冥鎧騎士ガイアス》

 Lv.38

 HP:18,000/18,000

 危険度:測定不能

 状態:呪旗侵食


《ユウ》

 Lv.3 職業:サモナー

 HP:153/153

 筋力:10

 敏捷:12

 知力:20

 所持スキル:魔力感知Ⅰ、契約者支援Ⅰ、魔力糸Ⅰ、指揮補助Ⅰ

 契約枠:1/5(第二~第五枠:封印中)

 契約者:リゼット・アークレイン(第一枠)


《リゼット・アークレイン》

 Lv.25

 HP:478/1,860

 状態:重傷、疲労、出血・大


 旗を壊せば、ガイアスを縛る呪いは止まるかもしれない。


 だが、旗印は予備炉を起動するための鍵でもある。


 ここで壊せば、城を守る手段まで失う。


「ユウ!」


 リゼットの声と同時に、黒鎖が床を割った。


 槍のように尖った先端が、ユウの胸へ迫る。


 ユウは横へ飛ぶ。


 鎖は石壁を穿ち、砕けた破片が背中へ降り注いだ。


「旗を壊したら、予備炉は?」


「完全起動はできなくなる!」


「じゃあ壊さない!」


「だが、放置すればガイアスが呪いに呑まれる!」


 鎖が二本、三本と追ってくる。


 ユウは走りながら《魔力感知》を使った。


 旗印から鎖へ。


 鎖からガイアスへ。


 ガイアスから、牢獄の床に刻まれた術式へ。


 黒紫の魔力は地下牢獄全体に広がっているが、そのさらに下には別の流れがあった。


 青い光。


 この牢獄に元から備わっていた封印術式だ。


 呪いを閉じ込めるための術式が、旗印に流れ込んだ魔力によって押し潰されている。


「壊さなくても、呪いだけを牢獄に戻せる」


「できる保証はあるのか?」


「ない」


 ユウは即答した。


「でも、旗もガイアスも捨てるよりはいい」


 ユウは旗印へ魔力糸を伸ばした。


 触れた瞬間、頭の中へ映像が流れ込む。


 燃える城門。


 崩れる西塔。


 血に濡れた騎士たち。


 旗を掲げる若いリゼット。


 そして、彼女の前で叫ぶガイアス。


『退け、リゼット! このままでは全員が死ぬ!』


『退けない! ここを抜かれれば、王都の民が巻き込まれる!』


『だからといって、こいつらを死なせるのか!』


『騎士団が退けば、誰が民を守る!』


 映像が乱れる。


 次に見えたのは、倒れた騎士を抱き起こすガイアスだった。


 腕の中にいる騎士は、もう動かない。


 炎の向こうで、リゼットは旗を掲げたまま城門へ向かっていた。


 ガイアスの怒りと絶望が、濁流のようにユウの中へ流れ込んでくる。


 ユウは歯を食いしばり、魔力糸を切らなかった。


 ガイアスは部下を守りたかった。


 リゼットは城と民を守ろうとした。


 守りたかったものが違った。


 そのすれ違いが、騎士団を壊した。


「ガイアス!」


 ユウは叫ぶ。


 黒鎖の動きが、一瞬だけ止まった。


「お前が守りたかった騎士団を、今度はお前自身が壊そうとしてる!」


『黙れ』


「リゼットは間違えた! でも、お前も旗を奪って地下に逃げた!」


『黙れ!』


 ガイアスが黒剣を振り上げる。


 それに合わせ、鎖の束がユウへ殺到した。


「右へ二歩!」


 ユウが叫ぶ。


 リゼットが即座に動いた。


 《指揮補助》によって繋がった感覚が、以前よりも鮮明だった。ユウが見た鎖の軌道を、リゼットもほぼ同時に理解している。


 彼女は右へ踏み込み、襲いかかる鎖を二本避ける。


 三本目へ剣を振り下ろした。


 鎖が切れる。


「一本!」


 ユウは床に手をつく。


 青い封印術式へ魔力糸を繋ぐ。


 次に、旗印を支える太い鎖へ繋ぐ。


 呪いを直接引き剥がすのではない。


 呪いが流れる先を変える。


「リゼット! 旗に繋がってる太い鎖を切って! 三本ある!」


「承知!」


 リゼットはガイアスへ向かう。


 黒剣が振り下ろされる。


 彼女は受け流し、鎧の横をすり抜け、旗印へ繋がる鎖を二本目から斬りつけた。


 火花が散る。


 鎖は切れない。


 ガイアスが反撃する。


 黒剣がリゼットの肩を裂き、鮮血が飛んだ。


《リゼット・アークレイン》

 HP:478 → 315/1,860

 状態:重傷、疲労、出血・大


「リゼット!」


「まだ動ける!」


 彼女は傷を押さえず、そのまま黒剣の懐へ入る。


 ガイアスの腕を剣で受け、身体を回しながら鎖を斬る。


 二本目が切れた。


 旗印が大きく傾く。


 黒紫の魔力が乱れ、鎖の動きが鈍った。


 ユウは青い封印術式へ、さらに魔力糸を繋いだ。


 一本。


 二本。


 三本。


 頭の奥が焼けるように痛む。


 手の指先が震える。


 それでも、糸を離さない。


「あと一本!」


 リゼットが最後の鎖へ駆ける。


 ガイアスが彼女の前へ立ち塞がった。


 黒剣が振り上がる。


 今度は避けられない。


 ユウは《契約者支援》を使った。


 銀の魔力がリゼットへ流れ込む。


 疲れていた彼女の踏み込みが、一瞬だけ鋭くなる。


 黒剣を紙一重で避け、リゼットは旗印の根元へ滑り込んだ。


「ガイアス!」


 彼女が叫ぶ。


「お前は私を許さなくていい! だが、あの夜に死んだ者たちまで、お前の憎しみで縛るな!」


 リゼットの剣が、最後の鎖を断ち切った。


 旗印が宙に浮く。


 支えを失った黒紫の魔力が、行き場をなくして暴れ始めた。


 牢獄の壁を叩き、床を砕き、ガイアスの身体へ戻ろうとする。


「今だ!」


 ユウは魔力糸を一気に引いた。


 旗印から溢れた呪いが、青い封印術式へ流れ込む。


 紫の霧が、深い穴の底へ吸い込まれていく。


《地下牢獄・封印術式が再起動しました》


 しかし、呪いは抵抗した。


 黒い鎖がガイアスの首へ巻きつき、彼を深い穴へ引きずり込もうとする。


 ガイアスの兜が割れた。


 黒い金属片が砕け、床へ落ちる。


 露わになった顔は、青白く痩せていた。頬には黒い亀裂が走り、片目は赤く濁っている。


 それでも、もう片方の瞳は青かった。


「……旗手」


 声は、確かにガイアス本人のものだった。


「ガイアス!」


「俺を……戻すな」


「戻す」


 ユウは即答した。


「お前を呪いの中に置いていく気はない」


「違う……俺は、もう……」


 黒鎖がさらに強く締まる。


 ガイアスは苦痛に顔を歪めた。


「俺は、あの夜に……部下を置いて逃げた」


「だから、今度は逃げるな」


 ユウは魔力糸を握り直す。


「自分で鎖を掴め。呪いに引っ張られるんじゃない。自分の意志で、呪いを戻せ!」


 ガイアスがユウを見る。


 短い沈黙。


 それから、彼は自分の首に絡んだ鎖を両手で掴んだ。


 手のひらから黒い血が流れる。


 鎖は彼の腕を裂き、骨を軋ませる。


 それでも、ガイアスは離さない。


「俺は……もう、旗にも……呪いにも従わない!」


 ガイアスが鎖を引いた。


 ユウが魔力糸を引く。


 リゼットが宙に浮いた旗印を両手で掴む。


 三人の力が、黒紫の呪いを深い穴へ押し込んでいく。


 最後に、牢獄全体を震わせる絶叫が響いた。


 紫の霧が消える。


 黒鎖が砕ける。


 赤く染まっていた旗印は、朝焼けのような淡い青銀へ戻っていった。


《失われた旗印の汚染が浄化されました》


《冥鎧騎士ガイアスを撃破しました》


《ユニークボス撃破経験値を獲得しました》


 強い光が、ユウとリゼットを包んだ。


《ユウ》

 Lv.3 → Lv.9

 HP:153/153 → 247/247

 筋力:10 → 16

 敏捷:12 → 19

 知力:20 → 34


《リゼット・アークレイン》

 Lv.25 → Lv.27

 HP:315/1,860 → 315/2,030

 状態:重傷、疲労、出血・大


《スキルを獲得しました》

《戦術指揮Ⅰ》

 盟約者への戦術的な指示により、連携を補助する。


 黒い鎧を失ったガイアスが、深い穴の縁へ倒れ込む。


 その手には、古びた鍵が握られていた。


 予備炉の鍵。


 そして、浄化された旗印が彼のすぐそばへ落ちる。


 リゼットが近づく。


 ガイアスは彼女を見上げた。


「俺は……まだ、お前を許せない」


「分かっている」


「だが、あの夜のために……残った騎士団まで縛るのは、もうやめる」


 ガイアスは鍵をユウへ投げた。


 ユウは受け取る。


「旗手」


「何?」


「お前が言ったことを証明しろ」


 ガイアスの青い瞳が、ユウを真っ直ぐに見た。


「旗の下で、誰も切り捨てない軍勢を作れ。できたなら……そのとき、もう一度俺の前に来い」


《予備炉の鍵を獲得しました》

《失われた旗印を獲得しました》


《第七騎士団旗・再建度上昇》

 再建度:12% → 20%


《第二契約枠が解放されました》


《ユニーククエスト:部下ゼロの騎士団長》

 目標更新:予備炉を起動せよ


 ユウは新しく解放された第二枠の表示を見る。


 だが、今ここで仲間を増やす余裕はない。


 リゼットの傷は深い。


 主炉も待ってはくれない。


 まずは予備炉を起動し、夜明けまで城を守る。


 それから街へ戻る。


 ユウは鍵と旗印を握り、リゼットを見る。


「戻ろう」


 リゼットは、倒れたガイアスへ一度だけ視線を向けた。


 それから静かに頷く。


「ああ。第七騎士団を、生かすためにな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ