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最弱サモナー、部下ゼロの亡国騎士団長を従え、倒した敵を仲間にして最強軍勢を作る  作者: sixi


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10/20

第十話 第一の盟約

 《第七騎士団旗を返還する》

 《第七騎士団旗と盟約を結ぶ》


 視界に浮かんだ二つの選択肢を見て、俺は息を止めた。


 旗を返還する。


 それなら、ここまでと何も変わらない。リゼットは亡国の騎士団長として旗を持ち、俺はユニーククエストを見つけたプレイヤーとして、この城を去る。


 もう一つは、盟約を結ぶ。


 説明を開くと、短い文章が表示された。


 《盟約》

 《旗の継承者は、旗の下に残る者と契約を結ぶことができる》

 《契約者は召喚可能な仲間となり、継承者と共に戦う》

 《現在の契約枠:1》

 《未契約》


 俺は、表示を見つめたまま動けなかった。


 最初の契約枠。


 サモナーとして選んだ、たった一つの枠だ。


 本来なら、召喚士協会で牙狼や精霊や妖精を選び、最初の召喚獣を契約するはずだった。普通のサモナーは、最初の一体を育て、進化させ、状況に応じて別の一体と契約を切り替えながら戦う。


 けれど俺は、その前にこの城へ来た。


 そして今、その一枠へ登録できる名前が表示されている。


 《契約対象:リゼット・アークレイン》

 《亡国の騎士団長》


「……リゼットさん」


 俺が呼ぶと、旗を見ていた彼女が顔を上げた。


 どうやら、同じ表示が見えているらしい。


 彼女の視線が、俺の前に浮かぶ《盟約》の文字へ向く。地下水路の外では、黒牙狼たちが鉄格子を引っ掻く音が続いている。遠くでは黒牙王ヴァルグの唸り声も聞こえた。


 夜明けまで城を維持しなければならない。


 考えている時間はない。


 それでも、俺はすぐに選べなかった。


 契約する。


 ゲームの中では、当たり前の言葉だ。


 だが、リゼットは牙狼でも、土の精霊でもない。部下を失っても城を守り続けていた騎士団長だ。俺が選べば、彼女は俺の最初の契約者になる。必要なときに召喚でき、共に戦う仲間になる。


 そんなことを、一方的に決めていいわけがない。


「これは……何だ」


 リゼットが、旗を見ながら言った。


「サモナーの契約に近いものです。俺が盟約を結べば、リゼットさんを仲間として召喚できるようになるって」


「私を、召喚する?」


「はい」


「私は魔物ではない」


「分かってます」


「ならば、なぜそんなものが表示される」


「多分、この旗の力です」


 俺にも分からない。


 ただ、旗が俺を継承者として認め、リゼットを契約対象として表示している。それだけは間違いなかった。


 リゼットは少しだけ目を伏せた。


「旗を返せば、私はこの城に残る」


「そうですね」


「盟約を結べば、私はお前と共に城を出るのか」


「多分」


「この城はどうなる」


 すぐには答えられなかった。


 城は壊れかけている。外には黒牙王がいる。第七騎士団の部下は誰も残っていない。ここに残ったとしても、リゼット一人で守り続けられるとは思えない。


 でも、それを俺が言えば、ただ彼女から城を奪うように聞こえる。


「俺は、この城を捨てろとは言いません」


 リゼットがこちらを見る。


「でも、一人で守り続けるのは違うと思います。今まで守ってきたものを大事にするのと、ここで一人で終わるのは、同じじゃない」


「お前に何が分かる」


 低い声だった。


 怒鳴られたわけではない。


 けれど、俺は言葉を失った。


 分かるはずがない。


 俺は今日、このゲームを始めたばかりだ。リゼットが何を見て、誰を失い、どれだけここで戦ってきたのか、何一つ知らない。


「分かりません」


 正直に言った。


「分からないです。でも、リゼットさんが一人で黒牙王の前に立つのを見て、旗を捨てられなかったのを見て……俺は、そのまま終わってほしくないと思った」


 水路の中で、旗の青い光が揺れる。


「俺はまだ弱いです。サモナーなのに契約者もいないし、黒牙狼一頭を止めるだけで精一杯です。でも、もし盟約を結べるなら、リゼットさんを一人にしないために使いたい」


 それは、立派な理由ではないかもしれない。


 最強の軍勢を作るためでもない。


 レアスキルを手に入れるためでもない。


 ただ、ここで出会った騎士団長が、一人で終わるのが嫌だった。


「俺と盟約を結んでください」


 リゼットは黙っていた。


 鉄格子の向こうで、黒牙狼が吠える。


 その声を聞きながら、彼女は折れた旗竿へ視線を落とした。


「盟約を結べば、私はお前の命令に従うのか」


「俺は、リゼットさんを道具みたいに扱うつもりはないです」


「質問への答えになっていない」


「……戦うときは、俺が指示を出すこともあると思います。でも、リゼットさんが嫌だと思うことを無理にやらせたいわけじゃない」


「甘いな」


「そうかもしれません」


「戦場で迷えば、死ぬ」


「だから、リゼットさんに教えてもらいます」


 彼女の目が、少しだけ見開かれる。


「俺は軍勢の作り方も、城の守り方も知りません。だからリゼットさんの力が必要です。でも、俺が決めるべきことは俺が決めます。誰と盟約を結ぶか。何を守るか。どこへ向かうか」


 言いながら、自分でも不思議だった。


 数時間前まで、俺は最初の召喚獣を何にするか迷っていた。


 今は、亡国の騎士団長へ仲間になってほしいと頼んでいる。


 無茶だと思う。


 でも、ここで引き返したら、何のためにこの旗を取りに行ったのか分からない。


「リゼットさんは騎士団長のままでいてください」


 俺は続けた。


「俺の部下になる必要はない。でも、俺の最初の仲間になってほしい」


 長い沈黙が落ちた。


 やがて、リゼットは旗を抱えたまま立ち上がった。


 鎧は傷だらけだ。HPも十分には戻っていない。けれど、最初に中庭で見たときより、彼女の立ち姿はまっすぐだった。


「ユウ」


 初めて、彼女が俺の名前を呼んだ。


「私は、第七騎士団長リゼット・アークレインだ」


「はい」


「部下を失った。国を失った。守るべき城も、今は崩れかけている」


 リゼットは、旗の獅子の紋章へ指を触れた。


「だが、旗を捨てるつもりはない」


「俺も、捨ててほしくないです」


「ならば、盟約を受ける」


 旗の光が強くなる。


 青い光が水路の壁を照らし、足元の水面に揺れた。


「お前が旗の継承者として進むなら、私は騎士団長としてその道を守る。お前が誤ったときは止める。戦うべきでない戦いなら、剣を抜かせない」


「それでいいです」


「そして、お前が逃げるなら引きずってでも連れ戻す」


「それはちょっと怖いです」


「盟約だ。覚悟しろ」


 リゼットが旗を掲げた。


 俺の目の前に、最後の確認が表示される。


 《盟約を締結しますか?》

 《対象:リゼット・アークレイン》

 《契約枠を1使用します》

 《この契約は、対象者の同意により成立します》


 はい。

 いいえ。


 俺は迷わず、はいを選んだ。


 光が弾けた。


 青い旗の紋章から伸びた光が、俺とリゼットの間を結ぶ。光は細い鎖のように見えたが、締めつけるものではなかった。手を伸ばせば届く距離を、確かめるように繋ぐ光だった。


 《盟約が成立しました》

 《最初の契約者を獲得しました》


 続けて、視界に二つのステータスウィンドウが開く。


 【盟約主】

 名前:ユウ

 レベル:1

 職業:サモナー

 HP:100/100

 MP:80/80

 筋力:5

 防御:4

 魔力:8

 敏捷:6

 契約枠:1/1

 契約者:リゼット・アークレイン


 【契約者】

 名前:リゼット・アークレイン

 レベル:25

 種族:人間

 役職:亡国の騎士団長

 HP:184/620

 MP:96/210

 筋力:42

 防御:35

 魔力:16

 敏捷:30

 契約状態:盟約済み


 《契約称号:部下ゼロの騎士団長》

 《固有スキル《征服の盟約》を獲得しました》


 さらに、スキルの詳細が開く。


 《征服の盟約》

 《戦いを経て、互いの力と意志を認め合った者と、盟約を結ぶことができる》

 《盟約には契約枠が必要です》

 《契約者は意思を持つ仲間として扱われます》

 《現在の契約枠:1/1》


「レベル二十五……」


 思わず、リゼットのステータスを見直す。


 俺はレベル一。


 リゼットは二十五。


 数値だけでも大きな差がある。筋力も防御も敏捷も、俺とは比べものにならない。黒牙王へ何度も立ち向かえた理由が、ようやく分かった。


 その一方で、HPは半分以下。MPもかなり減っている。


「どうかしましたか」


 俺が聞くと、リゼットは自分のステータス表示を見た。


「……お前には、ここまで見えるのか」


「見えます。リゼットさんにも、俺のが見えてますよね」


「レベル一のサモナーが、なぜこの城まで来たのかという疑問は残るが」


「それは本当に偶然です」


「偶然でレイドボスの縄張りへ入るな」


「すみません」


 リゼットは剣を握り直した。


 彼女の身体を包んでいた光が消える。HPが全快したわけではない。鎧の傷も消えない。けれど、さっきまでより呼吸は落ち着いていた。


「大丈夫ですか」


「問題ない」


「今度は本当に?」


「契約者の状態は、盟約主にも見えるのだろう」


「見えます」


「ならば、嘘はつけないな」


 リゼットは、少しだけ口元を緩めた。


 その瞬間、地下水路の鉄格子が大きく歪んだ。


 黒牙狼たちが、外から一斉にぶつかっている。


 さらに奥から、黒牙王ヴァルグの咆哮が響いた。


 リゼットは俺を見る。


「盟約主」


「その呼び方は、まだ慣れませんね」


「では、ユウ。次はどうする」


 俺は短杖を握り、鉄格子の向こうにある暗闇を見た。


 初めての契約者。


 最初の仲間。


 そして、まだ一体も倒せていないレイドボス。


「城を守ります。夜明けまで」


 リゼットは頷いた。


「了解した。騎士団長として、全力で戦おう」


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