第2-07節 伝説のイブさんですね!
「万汰さんは、議会のニューホープで、国際派なんだ」
誇らしげに言う歩夢と、左頬を手のひらで冷やしながら2階へと中階段を下りる貴子ちゃん。
時計回りに廊下を歩くと、教育委員会の次に未来政策課がある。
自治研究所と書かれたプレートの置かれたカウンターの前で、歩夢が言った。
「ここで会わせておきたい人がいるんだ」
自席の机に突いた左腕の上に顎を載せ、右手の親指の上でボールペンをくるくる回転させている女性に声をかけた。
「イブさん!」
振り返ると、貴子ちゃんが飛び上がった。
「ああ、今朝の!」
「掃除のおばさん」と言いそうになり、言葉を飲み込む。
「まあ、元気のいい子ね?」
笑顔で寄ってくるイブ。
歩夢が紹介した。
「この人は、役場で蝶々の次に有名な人で、イブさんて言うんだ」
のけぞる貴子ちゃん。
「あなたが、伝説のイブさんだったんですね?
町の広報誌でイブさんの記事、読みました。
今朝のことは、申し訳ありませんでした!」
笑い出すイブ。
「伝説のイブは、初めてだなぁ、、、。
でも、いいや」
イブは、昨年町役場に採用されると税務町民課窓口係に配属されたけれど、町の合併問題を機に自治研究所勤務を併任させられていて、この4月からは来庁者の多い月金の2日だけ窓口係で働き、火水木の3日間を研究所で過ごすことになっていた。
歩夢が紹介する。
「こう見えても、経営学博士。
どんな難問でも解決できるから、『解決イブ』って呼ばれてる」
イブが右手の人差し指を振りながら訂正する。
「ハクシ、が正しい読み方ね?
『こう見えても』は、ヨ・ケ・イ!」
笑い出す2人。
「北条さんね、ぼくたちは去年採用の同期なんだ。
年の差があるけど、何でも言い合える同期会の仲間さ」
うなずく貴子ちゃん。
「同期会か、、、。いいなぁ。
あたしも同期会、作ろうかな?」
「ぜひぜひ!」
両手を前に広げるイブ。
「北条さん、て言うのね?」
背筋を伸ばす貴子ちゃん。
「本名はタカコなんですけど、親しい人はキコちゃんって呼んでくれます」
「貴子ちゃんね?
初めまして。
あなたを見てると、なんか、古い役場にブレイクスルーなイノベーションの風が吹きそうな気がするわ。
ご活躍を、期待してますね!」
貴子ちゃんが胸を張る。
「伝説のイブさんから言われると、もう感動です!
頑張ります!」
左手でガッツポーズ。
「今度、一緒に大漁亭に行きましょう。
美味しいシラス丼が食べれるのよ。それと、アカザエビも」
首を左に曲げる貴子ちゃん。
「アカザエビ?」
歩夢が両手を前に伸ばして説明する。
「相模湾の深いところで捕れるエビで、いつも捕れるとは限らないし、捕れても量が少ないんだ。
見ればわかるけど、両腕をずうーっと長く伸ばしたエビ」
「また、デジャブーかしら?」
笑い出す2人と、きょとんとする貴子ちゃん。(つづく)




