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第2-05節 困ったことは一度もないんです

 深井町役場では、2025年度は正規職員が6人定年退職で欠員になったところ、正規職員の採用は見合わせ、代りに非正規の会計年度任用職員を11人、同じ人件費の枠内で採用することにしたのだった。

 採用された11人の配属先は次のとおり。

 未来政策課:まちづくり係。

 税務町民課:課税係、徴収係、窓口係。

 健康福祉課:福祉係、介護係。

 観光産業課:観光係、環境係。

 建築整備課:計画係。

 教育委員会教育総務課:学校係、社会係。

 隣室の2の1会議室での辞令書交付式の最後に、11人の配属先の係長が新採を迎えにやって来た。

 会議室の中で、ホームステイ先の家族と対面するときと同じように、お互いが向き合って頭を下げる。

 貴子ちゃんは福祉係に、チャパリトは観光係に配属になった。

 福祉係の貴子ちゃんは1階に、チャパリトは2階にと、離ればなれになるので、別れ際に2人が手を振り合った。

「彼と知り合いなの?」

 中階段を降りながら、福祉係長の飯島ユリエが聞く。

「はい。

 子供の頃、サッカーの試合で戦ったことがあるんです。

 懐かしかった!」

 両目に星が飛んでいる。

「そう。

 あの人は、町役場で採用された初めての外国人なのよ。

 蝶々(ちょうちょ)の英断ね」

 ユリエが感心したように言うと首を左に曲げる貴子ちゃん。

「蝶々って、誰ですか?」

「あ、ごめん。

 蝶々はね、町長のことなの。

 すぐ、慣れるわ」

 そう言って笑った。

 福祉係は、中階段を降りて左手、正面玄関から入ると右側にある。

 職場に到着すると課長に着任の挨拶をした。

 続けて課長から、介護係に配属された人と一緒に課員へ紹介される。

「本日福祉係に配属された会計年度さんの、北条貴子さんです」

 そう言って右手で自己紹介を促す。

 1歩前に出て頭を下げる貴子ちゃん。

「北条貴子と申します。

 右腕は、生まれたときからありません。

 でも、それで困ったことは一度もないんです。

 お父さんが、何でもできるように育ててくれました。

 料理も得意ですし、家の中のことは全部自分でしています。

 パソコンは平仮名入力で、Alt+Ctrl+Deleteキーも片手で押えられます。

 高校を卒業したばかりで知らないことが多いですが、一生懸命働きますので、どうかいろいろと教えてください。

 よろしくお願いします!」

 腰を90度に曲げてお辞儀をした。(つづく)

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