第2-40節 みんなで監督さんを胴上げしよう!
8月2日、土曜日、薄い雲を通して太陽の光が優しく届く、午前10時。
鯛双が昨年予算要求した少年国際 Aマッチが、予定どおり深井小学校グランドで開催された。
大会の主催者は教育委員会だけれど、実質的には役場のサッカー部が、その運営を担った。
試合の参加チームは、地元の深井フリューゲル、追浜アスール、久里浜ブラックシップス、そして、米軍基地内の小学校、サリバンズ・スクールからシャークスが来てくれた。
4チームがそれぞれ、グランドの4隅にシートを敷いて陣地を作っている。
南西側の陣地、シャークスのヘッドコーチは貴子ちゃんのかつての盟友イーサンだ。
各チームに対戦時刻を確認して回っているときに、彼を見つけた貴子ちゃん。
「イーサン!」
保護者と子供たちの前で、思いきり抱きつく。
本当に、恋多き娘だ。
「来てくれて、ありがとう!
今日は、6年前の対戦相手、チャパリトも来てくれているのよ?」
「本当かい?
よーし、今日は追浜アスールに負けないぞ!」
拳を握るイーサン。
「今日の第1試合の主審は、あたしなの」
「久里浜ブラックシップスとの試合だね?
よし。ぼくらも頑張るよ。
コイントスは、ぼくがあげた1ドルコインでやるのかい?」
ガッツポーズの貴子ちゃん。
「もちろんよ!
あの1ドルコインは、あたしの宝物。勲章なの。
黒くならないように、シルバークロスでくるんで仕舞ってるのよ?」
イーサンがくれた1ドル銀貨は「アメリカン・シルバー・イーグル」の愛称を持つ銀貨で、コインの表には、自由の女神リバティの歩く姿がレリーフされている。
「よし、うちが表を取るぞ!」
「いい試合にしましょう!」
左手で握手しながらうなずく2人。
試合は、4チーム総当たりのリーグ戦。
勝ち数が同じなら得失点差で勝者を決めることにしたので、どのチームも攻撃的になり、試合が面白い。
取られても取り返せばいいから、プレーが積極的になった。
午後3時半。
グランドに残った白線を、サッカー部の先輩たちが大きなグランドブラシで消している。
「もう、木登りはやめたのかい?」
監督さんが、貴子ちゃんに聞いた。
笑いながら手を振る。
「そんなこと、ありません!
このあいだも、登っちゃいましたし」
ぺろっと舌が出た。
「そうか、、、。
でも、貴子ちゃんの後は、誰も登らなくなったよ」
監督さんが、少し寂しそうに言った。
6年分、白髪が少し増えてる。
「また、負けちゃいましたね?」
貴子ちゃんの声に、笑ってこっくりする監督。
大会の結果は、優勝が追浜アスールで、深井フリューゲルは最下位。
チーム内に言葉の壁もあった。
にわか作りの混成チームで練習不足だから、パスもつながりにくかった。
元々のメンバーだけなら、もう少し勝てたかもしれない。
「みんな、集まれー!」
監督さんが、子供たちと保護者、シスターを前に話し始めると、チャパリトが同時通訳をした。
グランドの北東の陣地に集まった子供のうち顔を上げているのは教会の子だけで、キャプテン以下多くの子は下を向いてグランドの土をいじっている。
「試合は、残念な結果でした。
ボールがうまく繋がらない、思い通りにプレー出来なかった。
上手い子だけ出てたら勝てたとか、そう思った人もいるだろう。
でも、1番大切なことは、上手い下手じゃない。
1人ひとりが、自分の役割を精一杯果たそうとすることなんだ。
だって、それなら、誰でもできるよね?」
ゆっくり頭を上下する教会の子供たち。
監督さんが、1度空を見上げた。
「みんなに聞くけど、ジグソーパズル、やったことある?」
保護者も含めて全員がこっくりすると、笑顔になる監督さん。
チャパリトが話すスペイン語に惹かれて、追浜アスールの子供たちが近寄ってくる。
監督さんが続けた。
「ぼくもあります。
昔、うちの娘にせがまれて、仕方なくやったんだけど、やっていて途中でびっくりしたんだ。
ジグソーパズルって、1つひとつのピースが、みんな形が違うんだよね?」
ポカーンと口を開けている子供たち。
「どんなにピースの数が多いパズルでも、同じ形のものはひとつもない。
みんなバラバラ。
でも」
ここで、監督さんが話のスピードを緩めた。
「必ず、1つひとつのピースのハマる場所が、あるんだよね?」
真顔になって監督さんを見つめる一同。
他の2チームの選手も寄ってくる。
「ここにいるみんなも、同じなんです。
1人ひとり、顔も違うし身長も違う。
走る速さも違うし、出来ることが違う。
得意なことも苦手なことも、みんなバラバラ。
でも、必ず」
監督さんが、1人ひとりを指差した。
「必ず、君たち1人ひとりがハマれる場所、活躍できる場所が、この世界のどこかにあるんだよ。
必ずある。
ぼくは、それを信じてる。
だから、何があっても諦めないで、自分のできることをやり続けてほしいんだ。
わかるかな?」
フリューゲルの背番号10が、立ち上がってうなずいた。
「監督さん、よくわかった!
よーし、みんなで監督さんを胴上げしよう!」
笑いながら両手を突きだして腰を引く監督さんを子供たちが取り囲み、体を持ち上げ始めた。
大人たちが外側から手を貸すと、監督さんの体が2度、3度と宙に舞った。




