第2-37節 2度と来るな~! バカヤロー!
「あれっ、何か聞こえない?」
貴子ちゃんがつぶやいた。
一同が耳をすますと、どこからともなく、コンバットマーチの吹奏が聞こえてくる。
小学校の先に目を向けると、牛目の白いBMW・Z4を先頭に、続いて栄衛の青いスズキジムニー・シエラ。
さらにその後ろには、未来塾メンバーの4トントラックや農耕用トラクターの車列が続く。
最後は消防団の真っ赤な水槽付放水ポンプ車だ。
毎分2,000リットルの放水が可能で、これで放水されたら誰も立ったままでいられない。
Z4の助手席には新宿の慎司さんが乗っていて、開け放った窓から外に向かってアルトサックスを吹いている。
近づいてくるコンバットマーチに、町長室の中がざわついた。
しばらくすると、役場庁舎を包囲している街宣車軍団を、トラクターや放水ポンプ車の一団がさらに外から包囲した。
軍団ロボットの首がぐるっと回り、住民に向けていた銃口を騎兵隊の車列に向ける。
先頭車の運転席から牛目が降りると、2階の窓に向かって叫んだ。
「ジュリエット・イブさん、来たぞ!」
言われたイブが窓から顔を出して応じる。
「待ってたわ、ロミオ!」
「騎兵隊が来た! 本当に来た!」
貴子ちゃんが、そう叫びながらその場で何度も飛び上がる。
イブが再びハンドスピーカーを握ると、アドトラックに向かってアジった。
「あなたたちが誰の命令で、何のためにここに来たのか、わたしたちは知ってるのよ!」
隣りの万汰がハンドスピーカーを受け取ると、落ち着いた声で話し始めた。
「美しい日本を豊かにする会も、美しい日本の職場を守る会も、美しい日本の文化を守る会も、それに、人身売買組織のビューティフル・スタッフも、全部、Mのダミー組織であることは、ネタが割れている。
外国人労働者を日本に呼び込んで搾取し、5年間働かせた後で税金の還付金を横取りしていることも、バレてるぞ。
5年で帰国することを拒んだ人を無理矢理不法滞在者にして、人身売買組織に引き渡している。
とんでもない奴だ。
お前達がやってきたことも、今、何故ここに来ているのかも、全てわかっている」
アドトラックの画面の永の口が、ぱかっと開く。
「お前達が帰らないなら、今ここで、ぼくたちが知った事実を、全部スピーカーから流してもいい。
隣りにいるのは、県警の警部補だ。
そうすれば、Mの両手が後ろに回ることになる。
お前達もこのままここにいると、Mと一緒にお縄になるぞ!
軽犯罪法違反どころの話じゃない!」
ハンドスピーカーを万汰から受け取った熊本警部補が、大声で補足した。
「さきほど県警の機動隊を要請しました。
間もなく到着するでしょう!」
神奈川県警の第1機動隊は横浜市金沢区富岡東にあり、要請から到着まで1時間はかからない。
万汰が続けた。
「県議会で県警を所管する防災警察常任委員会の委員をしているMが県警にお縄になるなんて、笑っても笑いきれない話だぞ!」
ヒューン、、、。
街宣車のBGMのボリュームが急に下がる。
5秒の沈黙。
「だから言ったじゃないですか、、、」
「バカ、お前、インカムのスイッチ切ってねぇじゃねぇか!」
内輪モメの会話が、スピーカーを通してダダ漏れした。
再び5秒の沈黙。
「よし。
お前達が、そんなに帰ってくれと、泣いて頼むなら、仕方がない。
今回は帰ってやろう。
しかし、もし、また同じことが起きたら、今度は倍の街宣車で来るからな!
よく覚えておけ!」
万汰が反論。
「おうとも!
忘れないように、このやり取りは、全て録画録音してある。
裁判になれば、証拠として提出するからな。
そっちこそ、よく覚えておけ!」
液晶パネルの永が、口に咥えたホイッスルを鳴らした。
プ~~~!
その音を合図に、展開していたRロボット軍団が、両手を腰の脇で握ったかけっこのポーズで永のアドトラックの後ろに集まると、外に一礼したあと、開いた荷室のドアの中に整然と乗り込んで行く。
大型液晶画面の永がボヤいた。
「糞でもくらえ!」
そう言って一斉にクラクションを鳴らしながら、各車ともバックで門前から身を引いた。
彼らが帰れるように道を空ける群衆と騎兵隊の車列。
「2度と来るな~! バカヤロー!」
近所の子供たちが畑の土で作った泥団子を投げると、もともと黒い車体がもっと黒く汚れた。
BGMも鳴らさずにスゴスゴと帰って行く街宣車のお尻に向けて、慎司がショパンの葬送行進曲を盛大に吹きまくった。




