第2-34節 あの野郎、よくも騙したな!
6月30日の月曜日、万汰は、県議会出張の用務を終えた後、同じ横浜市中区日本大通にあるとされる『ビューティフル・スタッフ』の所在地を訪ねた。
栄衛からもらったメモを頼りに探すと、会社は、とあるオートロック・マンションの最上階10階、ペントハウスにあることがわかった。
玄関に入って、来客用受付システムの盤面に室番号を打ち込む。
ピロロローン。
2、3度ボタンを押しても、画面に応答がない。
玄関ホール内に設置された集合ポストを確認すると、『ビューティフル・スタッフ』と大きく書かれた社名シールの下に、男の筆跡で小さく「美しい日本の会」と書かれている。
ポストの口から郵便物が溢れていて、飛び出した数枚の封筒の宛先が「美しい日本の職場を守る会」や「美しい日本の文化を守る会」になっているのが見えた。
しかも、どの封筒も宛先の住所欄が千代田区千代田一丁目1番地と書かれていて、郵便局で転送処理をしたことがわかるように担当職員の印が押してある。
万汰が、スマホでそれら1枚1枚の写真を撮った。
帰り際に、玄関脇の守衛室で居眠りをしていた高齢の守衛さんに質問すると、守衛室の窓から顔を出し、にっこり笑って言った。
「ああ、『美しい日本を豊かにする会』とかは、みんな県会議員のMさんが役員になっておられる会で、とても活躍されております。
Mさんが言われるように、まずは日本人ファースト。当たり前ですよね?
Mさん方は、わしら庶民の生活を第1に考えてくれていられます。ありがたいことです」
そう言って、小さく頭を下げた。
「その一方で、どうしても日本で働きたいという日本愛の強い真面目な外国人の方の受け入れ窓口にもなっておられるし、仕事がなくなって生活に困っている外国人の方がいれば、仕事を斡旋して助けてらっしゃる。
5年間、日本でまっとうに働いた後は、皆、Mさんに感謝しながら帰国していくんですよね。
大したもんです。
わたしも、陰ながら応援してるんですよ」
笑顔でそう言うと、煙草のヤニで汚れた黄色い前歯を見せた。
大きくうなずいた万汰が、丁寧に頭を下げる。
「これで、よくわかりました。
心からお礼申し上げます」
笑顔で見送る老守衛を後にすると、ビルの外で栄衛に電話した。
「あー、おれ。
どうかした?」
背筋を伸ばす万汰。
「先輩、わかりましたよ。
全部、県会のMの仕業です」
「えー、ウソだろう?
信じられん!」
栄衛は、1月の市長選挙に際して、原の対立候補の牛目誠を勝たせるために、県会のMに選挙参謀を依頼した経緯がある。
その実力が半端ないものであることは、よく知っていた。
続ける万汰。
「ビューティフル・スタッフが入っているビルの守衛さんが、全部知ってた。
表看板は日本人ファースト、外国人排斥。
街宣車は、そっちの関係です。
だけど、その一方、裏では外国人を受け入れるエージェントをしている。
5年間働かせると、必ず帰国させる。
その理由は、5年分の所得税と住民税の還付金、国民健康保険の医療費の自己負担した7割分の返還療養費、合計1人あたり百数十万円、それを彼らが帰国した後にネコババするためですよ。
その5年間の約束が嫌で帰らない人がオーバーステイになると、その人を人身売買組織のビューティフル・スタッフに売りとばしているんだ。
漁協のイザベラさんのような若い女性は、そこから海外のAV制作会社に売られているんですよ」
「えー!」
しばらく電話の向こうを沈黙が支配した。
「おれは、知らなかった。
Mが、そんな奴だったなんて、、、」
確かに、表の顔しか知らなければ、日本人青年の低所得や非婚に心を痛める県民の支持を得られるだろう。
万汰が慰める。
「牛目さんも、きっと知らなかったでしょう。
知っていたら、あんな奴の応援を受け入れるはずがない」
「おれも、そうだ!
あの野郎、よくも騙したな!」
信頼していただけに、裏切られたときの反発は巨大だ。
「栄衛さん、皆、騙されてたんですよ。
でも、これで、すべてがわかった。
あとは、戦うだけです。
しかも、これは、勝てる戦いですよ!」
万汰の声が明るい。
「こんちくしょー!
Mの奴に吠え面をかかせてやる!」
受話器から栄衛の鼻息が聞こえる。
「このことは、役場のプロジェクトチームにもシェアしますよ。
先輩、未来塾で、作戦を練りましょう。
お礼参りです。
牛目会長にも、応援をお願いしましょう」
「よーし。わかった。
Mに、リベンジの3倍返しだ!」
電話の両方でガッツポーズをした。




