第2-32節 動揺する課長会
翌6月10日、火曜日、朝9時。
議会での混乱を受けて、町としての基本方針を再確認するため、町長と副町長が同席した緊急課長会が開かれたけれど、課長会も1枚岩ではなかった。
役場の中にも、日本人ファーストの外国人排斥論者がいるし、未来塾を快く思わない者もいる。
会議の冒頭、建築設備課長の原建が発言した。
「事ここに至っては、彼には辞めてもらいましょう。仕方がない」
目をつぶり腕を組んだままの蝶々。
建築設備課は、業務上どうしても国や県と相談せざるをえないことがあり、県議会の意向や判断を忖度しながら仕事をする場面がある。
町の団体自治の権限が小さく自己決定権が弱いことからくる、法的な制約部分だ。
建課長は、公私両方の場面で県会議員に会うことが少なくなかった。
県会議員に町の施策支援を依頼することがあるし、逆に議員から応援を求められることもある。
職員人事を担当する総務管理課長がつぶやいた。
「彼も地方公務員法でその身分が保障されている地方公務員である以上、辞めさせる法的根拠がありません」
建課長が口角から泡を吹く。
「まだ試用期間だと言えば、いいじゃないか。
4月から、まだ半年も経っていない」
ボールペンを握り直す総務管理課長。
「会計年度任用職員は最初から任期1年で雇用してますから、試用期間はありません。
たとえ仮に試用期間内だとしても、相当の理由がなければ解雇できないというのが判例です。
公務員としての信用失墜行為とか、違法行為とか、具体的な事実がないと、、、。
彼が、いったい何をしたというのでしょう?」
建課長が反論した。
「だから、こうやって、問題、混乱を町に引き起こしているじゃないか!
県の部局も議会も、町の対応に問題を感じている。
それで十分だろう」
観光産業課長が手を挙げた。
「先日問題を引き起こしたのは、チャパリトくんではなく、相手側の街宣車です。
チャパリトくんは、蝶々から辞令を受けたプロジェクトチームのメンバーとして、町を代表して、不幸にして不法滞在になってしまった難民の方々に対して、緊急的、人道的な対応をした、そういうことです。
全ては、業務上のことです」
自治研究所所長を兼ねる未来政策課長が応援する。
「ここでチャパリトくんを守らないと、町の自治権が問われます。
わたしたち町は、基礎的自治体として、住民の命を守り暮らしを向上させる責務があります。
国や県とは違う、住民に対する直接的、具体的な役割が課せられている。
たとえ、望まないまま国や県と争うことになったとしても、守るべきものを守る決意が必要です。
それが、2000年に施行された地方分権一括法のプラスの側面だと、わたしは理解してますし、ここを守らなければ、前世紀のように、町が国と県の奴隷に戻るだけです。
自分たちの未来を自分たちで作れなくなる」
ここで、腕組みしていた蝶々の両目が開いた。
「ありがとう。みなさんの言い分はわかった。
ことはチャパリトくんひとりの問題ではない。町の存在意義が問われている。
チャパリトくんを守るという言い方ではなくて、困っている、行き場のない子供たちや住民の方々を守る、その1点で、われわれは団結しないか?」
自席で下を向く建課長。
「たとえ不法滞在者だとしても、今日食べるものに困り、町に助けを求めている、現に深井に住んでいる住民だ。
彼らを守る最後の砦が、この町役場じゃないか。
町として、人道的な立場から、子供たちとその保護者の命を守ろう。
国や県とケンカしたくはないが、避けられないなら仕方がない。
わしの首なんか、どうなったっていい。
クビになったって、わしは生きていけるからの?
元の、番場の、ただの電気屋のオヤジに戻るだけの話だ。
わしの墓は、ここにある。どうせ倒れるなら、ここで倒れるさ」
そう言ってカラカラと笑った。




