第2-28節 教会の子がフリューゲル入部!
「監督さん、こんにちは~!」
翌5月31日、土曜日の10時。快晴。
深井小学校のグランドから見える富士山の頂上には、まだ白い雪が残っている。
「おー、鯛双くんか!」
グランドの北東側、文房具店兼駄菓子屋さんの「カメモト」を背にした通用口から入り、練習中の深井フリューゲルの前に現れたのは、OBの鯛双コーチに、チャパリトとイブ。
それに、年齢も性別も違うグァテマラの小学生、男子が4人で女子が2人。
「みんな、集まれ~!」
監督さんが叫ぶと、グランドに散っていた子供たち30人とお父さんコーチ、役員のお母さんたちがぞろぞろと通用口に集まってきた。
「鯛双コーチから、お話しがあります」
子供らを前にして、その後ろに保護者たち。
全員の視線が集まる。
「この子たちは、地球の反対側にある、グァテマラ、という国からやって来て、今は、井出之上大将のお家があった所のそばの教会に住んでいます」
チャパリトに目を向けると、小さな声で6人の子に通訳した。
「月曜日から学校に入るので、みんなの中にも同じクラスになる人がいるでしょう。
仲良くできるかな〜?」
鯛双の説明にうなずく子供たち。
「それで、学校の勉強が始まる前なんだけど、先にフリューゲルに入って、一緒にサッカーをすることになりました。
大きな拍手!」
フリューゲルの一同から割れんばかりの拍手。
「助かったー。
これで、低学年で1チーム作れる!」
11人に足りない1、2年生担当のお父さんコーチが叫んだ。
監督さんが追加説明。
「こちらのチャパリトさんが、通訳を兼ねて、コーチもしてくれます。
天性のドリブラー、ですよ?」
全員の目がチャパリトに集中。
両手を前に出してイヤイヤをする彼。
「じゃあ、チーム毎に分かれて、一緒に練習しよう!」
監督さんが締めると、各学年のコーチに誘導されて、それぞれの練習場所に移動する。
白い発泡スチロールの箱を抱えたイブが、役員のお母さんたちに言った。
「これ、『カメモト』で買ったアイスクリームで、鯛双コーチからの差し入れです。
休憩時間に、子供たちにあげてください」
「まあ、喜ぶわ! ありがとう!」
「数が多くて、みんなバラバラですけど、、、。
お店のアイスボックス、空になっちゃいました!」
笑い出す女性陣。
練習を始めてみると、意外に上手い。
日本人の子よりも小柄だけれど、走ればすばしこいし、身体能力は高そうだ。
ボールコントロールも年の割には上手い。
ボールを受けてドリブルし、ゴールに向かっていく積極性がある。
ただ、言葉の壁があるから、連携プレーは容易でなく、パス交換が難しい。
休憩を小まめにとり、1つひとつのプレーに戻って、チャパリトが日西〔スペイン〕両語で説明した。
「アイコンタクトが大事だよ。
ボールを欲しい人は、自分から手を挙げること。
ボールを出して欲しい場所は『ここに出して』って、手で教えればいい。
言葉を使わなくても、サッカーはできるんだ。
だって、声に出したら、敵に聞こえちゃうだろ?」
大きくうなずく子供たちとお父さんコーチ。
グランドのあちこちから、コーチの指導の声と子供たちの元気な返事の声が聞こえている。
とはいえ、教会の子供たちは、靴は底がすり減ったスニーカーだし、色がバラバラのTシャツに半ズボンだ。
脛当てもしていない。
その姿を見ていた役員会会長のお母さんが、隣りのお母さんに声をかけた。
「ねえ、卒業した子たちの家に声かけて、使ってないユニフォームと靴とソックス、脛当ても、寄付してくれないか頼んでみない?」
うなずくお母さん。
「うちにもあるわよ、低学年で着てたユニフォーム。
靴も、以前履いてたのが小さくなって、今はもう履けないけど、まだポイントはある。
ソックスも、爪先を縫えば履けるわよ」
「じゃあ、保護者会のラインで募集しましょう!」
話が早い。
保護者と言っても、1番若いお母さんはまだ20代だし、会社員の人は動きがテキパキしている。
男女合わせて6人分のアイテムが集まるのに1週間かからない。
翌週の練習では、同じユニフォームを来て練習ができるようになった。




