第2-26節 スギハラ・センポサンニ、ニテマスネ?
「よくわかりました」
パソコンのキーボードから指を離しながらイブが言った。
手にしていたティーカップをお皿に置く4人。
「さて、この後、どうする?」
万汰が隣りに座っているイブに目をやると、小さくうなずいた。
「万汰議員も含めて、このプロジェクトチームで、もう一度冷静に現状分析をしましょう。
とりあえず、町役場ができること、すべきことは、人道的支援です。
なので、その具体策は、
1、子供たちを学校に入れる。
日本語の勉強と遊びはもちろんですが、とにかくお昼ご飯が食べられます。
エディくんの妹、マリアさんは、特別支援学級かな?」
うなずく鯛双。
「2、夕食は、親子でこども食堂に来てもらいましょう。
毎日ではありませんが、週3日、親御さんは100円で、お腹いっぱい食べられます」
ガッツポーズの貴子ちゃん。
「3、お父さんたちは、農作業のお手伝いはいかがでしょう?
体を動かして、地域の方と一緒に働くことで気もまぎれるでしょう」
「それは、いい!」
万汰がこぶしをにぎる。
「ぼくから鶴吉理事長に話しましょう。
ここの近くの農家さんなら、お互いに楽でしょう。
それと、もし可能なら、牛目さんの無量塾とぼくたち未来塾のコラボで、大人の人向けの日本語教室を開きましょう」
満面笑顔のシスターたち。
チャパリトが小さく右手を挙げた。
「問題は、入管ですね?」
膨らみ始めた空気が一気にしぼむ。
しばしの沈黙のあと、イブが口を開いた。
「在留問題は、町役場やわたしたちには、悔しいですが、どうしようもありません。
ここは、ご本人と教会の皆さんの力で、否認された難民認定を覆すための審査を法務大臣に請求するしかないでしょう。
大使館も力になってくれるといいですね?」
顔を見合わせる3人のシスター。
リズさんが小さな声で言った。
「パスポートガナイカラトイッテ、大使館ワ、取リ合ッテクレナカッタ、ソウデス」
下を向く一同。
少しして、万汰が顔をあげた。
「じゃあここは、ちょっとした力技で、本当なら使いたくない手だけど、JICAの後輩で現地事務所の奴に、動いてくれるように、ぼくから頼んでみよう。
日頃は固いことしか言わない石頭なんだけど、人情味のある、とてもいい奴なんだ。
ぼくは、彼に貸しがひとつある。
一生使わないつもりだったけど、それを、ここで使おう。
奴も、よろこんで受けてくれるだろうさ」
目を見張る一同。
「シスター、ここにいる人全員の、氏名、性別、生年月日、生まれた町、洗礼を受けた教会、ご両親の氏名のリストを作ってください。
うまくいけば、現地の出生証明書が取れるでしょう。
それをグァテマラ大使館に突きつけて、パスポートを発給してもらいましょう。
女性の方は、あとで婚姻証明書も必要になるでしょうけれど、それは、またその時に」
深くうなずくシスター。
「マンタサンワ、スギハラ・センポ、サンニ、ニテイマスネ?」
首をひねる貴子ちゃん。
チャパリトが説明した。
「杉原千畝さんは、第2次世界大戦の時に、リトアニアの外交官をしていた人で、ナチスの迫害からたくさんのユダヤ人を救った人だ。
日本の外務省の指示に逆らって、現地を離れるその時まで、避難する人たちが日本経由で出国できるようにビザを発給し続けた。
そのおかげで、6,000人もの人たちが国外に逃れることができて、命が救われたんだ。
リトアニアとイスラエルには、その人道的な功績を称えて、彼の名前を冠した通りがあるんだ」
頬を染める万汰。
「ぼくも知ってる。
戦後、外務省に逆らったことの責任を問われて外交官の地位を剥奪されたんだけど、2000年に名誉回復された」
うなずいたイブが補足する。
「シスター、皆さんもセンポさんですよ。
千歩の道も1歩から。
これから、一緒に、頑張りましょう!」
全員が笑いながら両手を伸ばし、お互いの顔を見て手を握り合った。




