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第2-24節 難民救済チーム結成

 役場に戻る間、チャパリトは足取りが重く無口だった。

 隣りのイブも半歩下がってそれに合わせる。

 正面玄関に入ると、チャパリトが振り向いた。

「どうせならいっぺんに話す方がいい。

 うちの係長と一緒に、そちらの部屋で話しましょう」

 うなずくイブ。

 ゆっくり中階段を上がると自分の係長に声をかけ、3人で自治研に向かう。

 イブが1歩先に入った。

「係長、戻りました。

 所長も一緒に話を聞いてください」

 課長席の前に2つ椅子を並べ、企画係長とイブは自分の椅子を移動する。

 観光係長が、知った顔のイブの上司たちにへこりと頭を下げた。

「観光産業課観光係の会計年度任用職員で、チャパリトといいます」

 自分でそう言いながら、初対面の2人に頭を下げる。

「先ほど、こちらのイブさんと一緒に対応した少防所での出来事について、子供本人から聞いた話と、その中からぼくが理解した話をします。

 イブさんも、後で補足してください」

 イブは、神妙にうなずくと、膝の上のノートパソコンに指を置いた。

「少防所で捕まった子、エディくんといいますが、彼は、難民の子です」

「えー!」

 4人が同時にのけぞる。

 近くの職員も机を離れ、5人を取り囲んだ。

「中南米のグァテマラから貨物船に隠れて乗って横浜に来たそうですが、親御さんが入管に難民申請したところ否認されたようです。

 強制送還される前の出国期限は、3月10日だった。

 もともと命の危険があるから逃げてきたのに、帰国しろと。

 帰国すれば再び命の危険にさらされるし、それに、内戦のために現地では日常生活が成り立っていません」

 眉を吊り上げる所長。

「日本の難民認定は、そんなに敷居が高いのか?」

 苦笑いするチャパリト。

「昨年は18,000人が申請したそうですが、認められたのは、わずかに1.7%。昔の司法試験の合格率よりも低いです。

 ぼくも見たことありますが、否認する書類は、A4版の紙1枚きりです。

 それを、『はい』って渡されて終わり。

 彼らの命は、紙ペラ1枚の軽さなんです」

 腕を組んだまま下を向く所長。

「それで、困り果てて横須賀にあるバプテスト派の教会に駆け込んだら、隠れ家で匿ってくれることになったそうです。

 その隠れ家が、ここ深井町、荒崎の崖の上にある」

 全員が息を呑むなか、話が続いた。

「教会が信者から譲り受けた家に、何家族かが一緒に隠れているそうです。

 大人たちが外に出ると目立つので、昼間は庭の隅の小さな畑を耕したり薪を割ったり、雨の日は聖書を読んで過ごしたりしている。

 ただ、あまりにも貧しいため、食事が満足にできないと。

 それで、育ちざかりの子どもたちが近くの畑の作物を盗むんですが、当然、農家の方に怒られる。

 磯に下りて貝を獲れば漁師に怒鳴られる。

 それで、仕方なく小学校に行った。

 調理室に食べ物があると思ったんですね。

 でも片付けが済んで鍵がかかっていて入れなかったから、ほかの所に何かないかと、少防所の事務室内を(あさ)っていたら教頭先生に見つかり、暴れた。

 というのが、顛末のようです」

 うなずくイブ。

「教頭先生は、お金目当ての物取りと思ったそうです」

 所長が、机の上のコーヒーカップを持つと、ゆるゆるとカップを揺すってから一口すすった。

「問題点を丁寧に分析して、ぼくたちがすべきこととできること、してはいけないことを、整理する必要があるね?

 難民じゃ国や県がからむから、ちょっとやっかいだな」

 企画係長が聞いた。

「それにしても、なぜ横須賀の教会なんでしょうね?」

 腕を組んだままのチャパリトが答える。

「なんでも、昔、彼のお父さんが深井町にあったJICAの水産研修センターで研修を受けたことがあったんだそうです。

 でも深井町にはバプテスト派の教会がないから、それで、隣りの横須賀市の教会に頼ったと」

 うなずく一同。

「あ、それと、彼には妹がいて、その子には障害があるそうです」

「え-!」

 顔を見交わす一同。

 所長が意を決して言った。

「1つ2つの課の問題じゃなさそうだ。

 役場の中にプロジェクトチームを作ったほうがいい。

 とりあえず、イブくんがリーダーで、そちらのチャパリトくんが通訳。

 それと、教育委員会、障害福祉からも誰か入ってもらおう」

 右手の人差し指で自分の鼻の頭を指すイブ。

「わたし、ですか?」

「決まってるじゃないか。

 こんな難問を解けるのは『解決イブ』しかいないだろ?」

 頬を膨らませるイブ。

「また、併任辞令ですか? 3つ目ですよ?」

 返事をしない所長のかわりに、チャパリトが右手を挙げた。

「障害福祉は、北条さんをお願いします。

 彼女は障害の当事者ですから、難民の方たちも安心して受け入れてくれると思います」

 うなずく一同。

「よし。ぼくから蝶々に報告しよう。

 イブくんも、頼む」

 そう言って席を立つと、右手の人差し指で自分の鼻を指したままのイブの左腕をつかみ、町長室に向かっていった。

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